詩 その4 (15編)
押入れのモグラ
暗闇の中
眩しい光を
夢見ている
だけど
僕の心の
地下に住む
モグラが
急に
顔を出し
悪さをする
僕は
それが
たまらなく
嫌
いつも
日の当たらない
地下室の
押し入れに
押し込めている
なのに
時折
赤外線カメラの
モニターで
そいつを
覗きながら
いつか
地上に出したいと
願っている
必死のアヒル
水かきを
ジタバタさせるから
肥満の顔から
脂汗
涼しい顔も
できないで
平然としたフリに
ムリが漂う
ゆったり
流れに身を
ゆだねれば
あちらこちらが
つっかえて
足が絡まり
溺れそう
だけど
必死で
悠然とした
顔を作り
雛たちに
泳ぎを
教えてる
狂気のネズミ
暑い暑いと
汗をかいて
チョロチョロと
走り回る
大都会の
天井裏
ザワザワと
狂気が
盛り上がる
群衆の群れ
意識の闇
あっちに行かないで!
ここにいて!
悲鳴は
続く
笛の音に
誘われて
ぞろぞろと
ネズミの列が
川へと
沈んでいく
見向きもせずに
誰?
一匹だけ
振り返って
ボクを
見たのは?
蛍
溝のような
小さな川
夕暮れ
蛍が
飛んだ
ホントは
そんなに
可愛くない
光に包まれて
愛らしくみえるだけ
暗闇で
蛍の顔を
マジマジと眺めると
やっぱり
怖い
光に包まれている
時間だけ
輝いている
時間だけ
遠くから眺める
時間だけ
優しい心に戻って
見つめている
夢の中でも
夢の中でも
僕は
誰かと
言い争いをしていた
言い争いというよりも
一方的に
怒鳴っていたかも
身勝手な言い訳を
えんえんと
夢の中で
繰り返している
詫びる言葉も
礼の言葉も
なく
それどころか
反省の心も
感謝の心も
なく
自分勝手な言葉を
一方的に
叫んでいる
大きな声に
驚いて
目が覚めた
今日
どんな顔をして
僕は
一日を
過ごせば
いいんだろう
誰かの非を
百人の人間が
百人とも
「あいつが悪い」と
決めつけている
でも
ホントは
彼が
百パーセント悪いと
限らない
違法駐車していたことを
棚に上げて
ぶつかってきた相手を
せめるように
一方的に
誰かを
責めていないか
相手の非の
その中にある
本当の
原因よりも
態度や言葉が
気に入らないと
誰かを
責めていないか
原因と
直接関係のない
普段の印象で
誰かの非を
決めつけいないか
感情だけで
その場の
思い込みで
誰かの非を
決めつけて
責めていないか
誰かを
傷つけていないか
錯覚
ビリヤードのような
計算で動く
物質社会
誰かの心に
ストンと
落ちる
そんな球にも
きっと
誰かの計算が……
誰かの心と
誰かの計算で弾いた
物質を
つなぐために
いったい
ボクらは
どれほどの
嘘を
費やしているだろう
心は
物質に
触れることすら
できないのに
物質で
心が
満たされるように
僕らは
いつも
錯覚している
言葉よりも
景色よりも
空気よりも
期待よりも
記憶よりも
五感よりも
嘘まみれの
計算で
はじき出られた
物質で
心が
満たされると
錯覚している
夢見ている
お前たちの
将来を
夢見ている
将来の不安が
無い訳じゃ
ないけれど
小学校から
中学校
高校へと
学校の階段を
上っていくように
お前たちは
大人への
階段を
駆け上がっていく
ことだろう
そうして
やがて
お前たちが
親となって
その胸に
子供を抱く
姿を
夢見ている
整理
積み上げてきたものを
ひとつひとつ
整理しようか
もう少し
高く積めるように
ごちゃごちゃとした
思い出も
プライドも
責任も
ひとつ
ひとつ
丁寧に
ばらして
もう一度
高く積めるように
足元から
しっかりと
整理しようか
一瞬
人生を
変えるような
一瞬に
僕は
何度
出会ったことだろう
自分で
断を下した
ことも
ある
誰かの判断に
喜んだり
肩を落としたり
したことも
ある
怪我をしたり
事故を起こした
一瞬も
あれば
誰かを
傷つけた
一瞬も
ある
でも
それよりも
数多く
出会っているのは
きっと
ほっと
安心した
一瞬だろう
自分や
家族や
友人が
事故や怪我を
免れた一瞬
最悪の事態を
免れた一瞬
そんな
数多くの
一瞬を
思い出すたびに
僕は
護られていることに
感謝する
幸せのベル
この世の中の
あらゆるものは
神様からの
かりもの
らしい
だから
どんな
できごとも
きっと
心に届かないと
幸せのベルは
鳴り響かない
大好きな
食べ物を
想像してごらん
たぶん
その風景は
幸せな記憶と
つながっている
大好きな
食べ物の味を
心に蘇らせることは
難しいけれど
誰か’と食べた風景は
きっと
簡単に
思い出せる
幸せの食卓は
料理のメニューや
値段じゃなくて
何時
誰と
食べたかで
決まるのだから
きっと
幸せのベルは
幸せの記憶と共に
僕らの
未来へと
連なっていく
喜びも
悲しみも
吹き出すような笑い顔も
ほんとうの
孤独を知った
瞬間も
幸せのベルになって
連なっていく
そうして
誰かの幸せのベルと
共鳴したとき
涙が
溢れるほどに
喜んだり
悲しんだり
感動したり
そんなことを
きっと
するんだ
家路
「帰ったら、また自転車の練習をしようね」
受話器から聞こえる次女の声
あと何年
こうやって父親の帰りを
楽しみに
してくれるだろう
駅のホームを
駆け上がって
電車に乗り込んだ
街灯りは
幾千の
流れ星みたい
幸せを願う
家族の祈りが
ながれていく
明日の天気を
気にしながら
今日も
真っ直ぐに
家族のもとへ
帰ろう
降り注ぐ雨のように
神様からの
幸運は
きっと
雨のように
全ての人に
降り注ぐ
でも
心の
大きさや
受け口の広さは
まちまち
だから
誰の人生も
不公平に
思えてしまう
だけど
誰かと
比べなければ
僕らは
神様の恵みを
受けている
その事実しか
見えないだろう
幸せを願う
僕の心にも
きっと
空からの恵みは
降り注いでいる
手のひら
娘の手のひら
こんなにも小さい
娘から見た
私の手のひらは
子供の頃に見た
父の手のように
大きいだろうか
父を失ってから
二十年余り
父の
手のひらの
記憶は
今でも
変わらないまま
僕の手のひらも
きっと
娘のように
小さかっただろう
でも
親父の手のひらは
大きなまま
変わりそうもない
菓子一つ
一歳になる
娘の握る
小さな菓子ひとつ
冗談で
「ちょうだい!」
といえば
困った顔で
首をふる
自分で食べたいという気持ち
誰かにあげたいという気持ち
きっと
人間は
矛盾を抱えて
大きくなる
誰かと競争して
勝ちたいという願い
みんなと共に
歩みたいという願い
人はみな
平等だと信じたい
けれど
誰かより
立派な人になりたい
一歳になる娘の握る
小さな菓子ひとつ
無理矢理
取り上げたら
きっと
大声で泣くだろうな
だけど
「いいよ!」と
差し出されたら
僕は
父として
いったい
何が
できるだろう
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?