プラカードを持参しただけで警察に包囲されたおばあさんの話


 2019年7月15日、札幌三越前で「安倍首相に年金問題の不安を訴えようとして阻止されたおばあさん」に、最近お話を伺った(「おばあさん」と呼ぶのはちょっと変な感じもするが、「どんなふうに紹介したらいいですか?」とご本人に尋ねたところ、「いちおばあさん(笑)」と返ってきたのでそうする)
 おばあさんは「私なんか軟弱者で…抵抗もしなかったし、ヤジったわけでもないし…」と謙遜しながらも、次のように語ってくれた。

(以下、聞き取り内容の書き起こし)
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好奇心が強いから

 あの日、私は札幌の紀伊国屋書店の前で何人かの仲間と一緒に「選挙へ行こう」っていう呼びかけをしていました。もう選挙が始まっていて特定の候補や政党は言えないので、プラカードを掲げたりチラシを撒いたりしていたのね。そしたらそのとき、安倍首相が三越前で応援演説をするらしいって話を聞いて。本当は札幌駅前でも演説をしていたみたいだけど、私たちは三越前でやることしか知らなかったのね。行きたくないという人も多かったけど、私は好奇心が強いから「これ(プラカード)持って行ってくるね」って。おばあさん3人で「首相が来たらプラカードを掲げようね」って話しながら三越前まで歩いていきました。

ただ安倍さんに見てほしかった

 安倍さんの演説を直接見るのは今回が初めてでした。私たちが持っていった3枚のプラカードには「年金100年安心プランはどうなった?」って書いてあったけど、もしそのとき手元にプラカードがなくて、改めて作ることになっていたとしても、やっぱり年金のこととか「消費税が上がったら暮らしていけないよ」っていうことを書いたでしょうね。「安倍やめろ」とかヤジるつもりはなくて、ただ、異論もあるということ、「あなたを支持している人ばかりではないよ」ということを安倍さんに見せて伝えられたらと思っていました。

私服の人たちに取り囲まれて

 三越前には聴衆がいっぱいいました。日の丸や「安倍首相を応援します」と書いたプラカードを配っている人もいましたし、それを掲げて立っている人もいました。でも私たちがその聴衆の中に加わろうとすると、私服の人たちが近寄ってきました。3枚のプラカードのうち、小さい2枚の方は文言が内側になるように重ねて持っていたので、そのまま持っていた大きい方の1枚を見てバレたんだと思います。それでも一瞬だけ、私たちのうちの一人がプラカードを掲げようとしました。でもすぐにバッと取り囲まれて「ちょっとやめよう」って阻止されて……。彼らは私たちの真ん前に立つから、前も見られない。息が顔にかかるくらいの近さでした。

A「どいてください。見えません」
B「いや急に道路に飛び出したら危ないから」
A「車が通ってるのに飛び出すわけないじゃないですか」
B「どこから来たの?」

って全然どいてくれないんです。私たちのすぐ隣にも「安倍首相を応援します」のプラカードを掲げている人がいたのにね。そっちは注意しないの。日の丸やプラカードをたくさん持ってきて配っていた人たちは、私たちのそんな様子を見ながらこそこそと話をしていました。

名乗らない道警

 私服の人たちは名乗らなかったですね。みんな何かのバッジをつけていましたけど、警察手帳は見ていません。だから最初は自民党の後援会かガードマンなのかなって思って。でも、鈴木知事が演説しているときに「あなたは誰の警備に来てるんですか?一候補者でも警備するんですか?」と尋ねたら「いや基本、大臣以上です」って言うの。「じゃあ(大臣ではない)鈴木さんはどうなんですか?鈴木さんはあなたの上司ですか?」ってまた尋ねたら「はい、上司です」って(笑)。それで、ああ道警の人なんだと思いました。

安倍さんの見えない場所だったらいいみたい

 そうやって警察がずっと立ちふさがっていたから、私たちのうちの一人は「もうだめ、埒があかない」って言って、彼らに取り囲まれながらも歩いて駅側の方に戻ったんです。そして彼女はちょっと離れたところで、7人くらいに監視をされながらプラカードを上げました。そこは安倍さんからほとんど見えない場所だったから、警察から止められなかったのかもしれません。
残った私ともう一人はしばらく警察とやりとりをしていましたが、選挙カーの先でプラカードを掲げていれば、安倍さんが帰るときに見せられるんじゃないかと思って、7〜8人に見張られながら移動しました。聴衆とは反対の方向だから、安倍さんの視界には入らない位置。そこではプラカードを上げても止められませんでした。
 でも結局、演説が終わってみると、安倍さんと候補者の岩本さんは街宣車を降りて、聴衆とハイタッチをしに歩いていってしまいました。選挙カーは安倍さんを乗せずに出発したんです。たぶん安倍さんは、そのあと別の車で移動したんじゃないかな。

 そういえば、歩いている途中で自民党の市議会議員とすれ違ったときにプラカードを見せたら、「(年金問題は)大丈夫、任せとけ!」って言われましたね(笑)。ははは。

タクシーに乗ってもついてくる

 安倍さんも行ってしまったし、私たちは「もうだめだこりゃ」と思って札幌駅まで戻ることにしました。それでタクシーに乗りたくて動いたら、取り囲んでいた警官たちが「どこに行くんですか?地下鉄乗るんですか?」ってまたいろいろ聞いてきて。なんとかタクシーには乗ったけど、交通規制をしていて信号がなかなか変わらない。全然進まないの。これじゃあ料金のメーターが上がっていくだけだから、1区画分くらいしか乗らなかったけど、赤レンガテラスの前で降りたの。でもそのとき、歩いてついてきていた警官たちにわっと取り囲まれてしまって、歩道にも上がれなかった。「今ここで車の乗り降りをするから通れません」って言われました。

 たしかに言われてみれば近くに立派な車があったから、その車に安倍さんか誰か偉い人が乗っていたのかもしれません。それで私たちは止められてしまって「何もしないからどけて」って言ってもだめだったけど、「私たちは駅に行きたいんです。あなたたちのためにやむなく車を降りたんです。歩かせてください」って言ったら、やっと歩道に上がれて。でもその後も警察はしばらく私たちについてきました。

 偶然ですけど、同じとき安倍さんは赤レンガテラスで演説していたんです。だから私たちの様子をテレビカメラが撮っていて、歩道に上がったときに「一言お願いします」って言われて。そのときは夢中でわからなかったけど、あとでテレビのニュースを見たら、タクシーから降りたとき、私たちは警察に押されていましたね。

自分の「慣れ」に反省

 今はすごく反省しています。反省っていうのは……「意見表明もできないような本当にひどい国だな」って前から思っていたんですけど、なんかもう慣れてしまっていて。今回のことも、安倍政権ならやりそうだよね、みたいな。だから、自分たちがされたことはひどいと思ったけど、それに対して抗議するとかデモするなんてことは思いつかなかったの。あったことをなかったことにする人たちだから、なかったことをあったことにもするだろうし、そんなところに抗議してもしょうがない、って。

 でもたまたまテレビに映ったために、あちこちから「ニュース見たよ」って連絡がきて、ネットでも動画が130万回も再生されてるって知って、びっくりしたの(笑)。知り合いの弁護士から「告訴しないの?」って聞かれたり。それで、自由が脅かされてるっていう危機意識が薄れている自分の「慣れ」をすごく反省しました。だから、今回デモをやるって聞いたとき、ああすごいなって。ちっちゃなところから大きな穴があいていくはずだから、やっぱり諦めないで、小さいことでも言っていかないといけないなって思って。気がついたらもう取り返しがつかない世の中になっちゃってるかもしれないから。

他の国のことを言えるのか

 安倍さんは、自分にとって耳障りのいいことばかりに耳を傾けていますよね。たとえば沖縄の辺野古。あれだけの民意が何度も何度も示されているのに、基地建設を強行するでしょう? よく「今の日本は中国みたいだ、朝鮮みたいだ」って言う人もいるけど、とっくに言論の自由はなくて、他の国のことは言えないと思う。蛇の生殺しみたいに、真綿で締められるようにじわじわと、言論の自由はなくなっていって…それをやっているのが安倍政権じゃないかな。

本当に怖いもの

 個人個人の警察官が怖いとは思わないですね。今回取り囲んできた警官も若くて、息子みたいな感じだったから(笑)。でも、自分の意見を言えない空気は怖い。今回の警察の行動が安倍首相の指示だったかどうかはわからないけど、忖度だったとしても怖いですね。警察は不偏不党であって、法に基づかないことをやってはならない。鈴木知事も道警のトップですからね。道民全部の生命・暮らし・財産を守る立場にあるんだから、不偏不党で、表現の自由や憲法を守ってほしい、形としてこれからの行政できちっと示してほしいなと思います。

8月10日のデモに行くみなさんへ

 予定があって私は当日行けませんけど、デモに参加されるみなさんの奮闘にエールを送りたいし、心から敬意を表したいと思います。慣れとか諦めが一番だめかな……。
 やっぱりネットの力ってすごいですね。テレビだとこんなに広がらないでしょう。よく「今の若者はテレビのニュースを見ないし新聞も読まない」って言いますけど、そうやって嘆いたり怒ったりしてもしょうがない。私たちがネットを活用して、武器にしていきたいですよね。

これは三越前に持っていった「年金100年〜」のプラカードとは違うけど、当日紀伊國屋の前で掲げていたプラカードのうちの一枚。

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