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手に取るように分かるから
「また連絡するよ」
いつもあなたは別れ際にそう言った。
そして、本当に連絡してきてくれたことはほとんどない。いつも私が痺れを切らしてメールしてしまう。
「忙しい?また飲み行きたいな。」
「来週以降、時間が合えば」
「○日か○日か○日はどう?」
「じゃあ、○日で」
食事してお酒を飲んで適当な場所に潜り込んでひとつになって。それが二人のいつものデート。翌朝、時間があればコーヒーを飲んで駅のホームで別れる。私はもっと一緒にいたくてジリジリする。
あなたは既に、今日これからの予定で頭のなかはいっぱいで、明後日の方向を向いている。その時点で負けていると感じる。現時点でもう私のことは要らなくなっている彼の心に嫉妬する。それでも私はにこやかに笑って言う。
「楽しかった。またね。」
それが精一杯の強がりな言葉。
彼はいつものように言う。
「また連絡するよ。」
そして各々反対方向の山手線に乗り込む。
電車に乗ったら彼はきっと一瞬で私のことを忘れる。仕事のこと?今夜の飲み会のこと?いや、今夜会う別の女性のこと?
何も追及しない。してもしょうがない。私はあなたに何も求めてはいけないと最初から思っていたから。何故だか分からないけれど、そう思っていた。
飲みながらあなたが言った言葉が頭のなかをぐるぐるする。
「将来どうこうない相手とは、これ以上会えば本気になっちゃうと思ったらもう会わない。」
「去るもの追わずなんだよね。」
「メールは苦手。電話もムリ。だったら会って顔見て話したい。」
どれも私と同じだな、と思った。考えてることが手に取るように分かる。分かりすぎて何も言えなくなる。
本気になりそうだからもう連絡してこなくなったの?二人でいるときはあんなに甘くてキラキラした時間だったのに。そんなにあなたの自制心が強いのなら、私も我慢するよ。これ以上会えば本気になっちゃうもんね。それとも逃げの言い訳か。
去るもの追わずっていうのは、自分のことではなくて相手に求めることなんじゃないの?引きの態度を読み取ったら、それ以上しつこくするなよっていう。
「また連絡するよ。」
嘘ばっかり。
「明日会いたい。」なんて、あなたが連絡してきたときは何か他に燃え尽きることがあって、その余りある勢いの脳内ドーパミンを処理したいときだけなんじゃないの?
分かるんだよ。あなたの考えてることなんて。手に取るように分かるから、この関係を絶ち切るのは私にするよ。望むところでしょ?
そうやって、いつもクールなふりをして、誰とも真っ正面から向き合わない男。そうやって、いつでも逃げられる伏線を張って、いざとなったら女の方から切るように仕向けてきた男。
こっちこそ、望むところだよ。あなたのことなんて、もうとっくに忘れてるよ。もう期待なんてしないよ。あなたの痕跡は跡形もなく新しい男に上書きしてもらうから。
あなたからプレゼントされた香りも、もう何も感じないでつけられるようになった。単なる「いい香り」になった。この身に纏っても惑わされないし、心が揺さぶられることもなくなった。
寂しい夜を幾つも越えて、ラインのトークを幾度も開いては閉じて。そうしてやっとたどり着いた新しい景色はあおく輝いて、本来の自分を取り戻す。ようやく、自分らしい場所に戻ってこられたみたいだ。身体中に新しい空気を入れるように、大きく深呼吸する。