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【エッセイチャレンジ22】ハマれる何かを探してる
先日、あやしげな海外通販でワンピースを買った。
生地や縫製はお察しだが、柄が最高に可愛いのだ。鮮やかなレモンやブルーの花を中心に、オレンジやグリーンの幾何学模様が配置されたシフォン生地。モスクの壁画とか、イタリアの田舎町のタイルとか、いろいろな要素を混ぜたサマードレス。海外旅行など行かなくなって久しい私の心にアマルフィの海風を運んできてくれる。
アマルフィ、行ったことないけど。
届いた小包を開けた瞬間、ネットで見た通りの鮮やかな色合いに「あたり!」と小躍りしたのだが、問題はサイズ。どう見ても丈が長すぎる。
しかし、こちとら30余年、低身長をやっているわけではない。いつも通りお直しをするために、慣れた手つきでミシンを引っ張り出した。
最初は裾上げだけするつもりが、やっぱり袖も短い方がバランスがいいな、もう少し細身の方が可愛いな、袖口にゴムを通してみようか…なんてやっているうちに、そこそこの大工事となった。その勢いのまま、長男の手提げバックの底布補強と手拭いエコバック作りに取り掛かった。こうなるともう止まらない。
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決して器用なわけではないので、かかった時間はなんと5時間。休憩なしのパートと同じくらいの時間を、40センチほどのミシンの前で過ごしていたことになる。
終わったとき身体のあちこちに痛みを感じつつも、言いようもない達成感に満たされていた。
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実のところミシンを出すといつもこうなる。裾上げだけのつもりが、子供用タオルにループをつけたり、あまりタオルで雑巾を作ったり、とにかく理由をつけてミシンを動かす口実を探してしまうのだ。
この現象がもたらされるのはミシンだけでない。子供と一緒に折り紙をしたときもこうなったし、大人向け塗り絵アプリにハマったときなどミュシャやらクリムトやらの名画に片っ端から色をつけまくった。独特のメロディーに魅せられ、幻想即興曲を狂ったように弾き続けたこともある。完全なゾーン状態。
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そう。集中するって気持ち良い。
視線を一点に合わせ、息を吸うのも忘れる時間。意志を持った指先が動く様子を、幽体離脱でもしたかのように離れたところから見ている感覚。身体と精神が分離されると、肉体は最後の記憶を辿るように反復作業を繰り返すだけの器になる。こんなことそろそろ辞めないと、と呼びかけるも、その声は部屋を締め切った嵐の日の風音のように遠くから聞こえるのだ。
自分はひとりなのに、いくつもの意思が息づき、それを感じる瞬間。
意思の混在。
異なる自我の混沌。
…それって、同じことをくよくよ悩んでいる自分そのものだよね。
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趣味も悩みも、過集中するという本質は同じなのかもしれない。
「あんな男やめときなよ」「でも好きなんだもん」を無限にループする女の子のように、異なるの意思の間に留まることは快感で。だからどんどん深みにはまっていく。
辞めたいのに、辞めなきゃいけないのに。
人はいつだってハマれる何かを探してる。快と苦ならば前者を選びたい。
とりあえずサマードレスが可愛かったので、書いてみたエッセイでした。
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