いつか止む雨が降ればいい(RM①)
2月終わりから3月になると、暖かい雨が降る日がある。そういう季節を進める雨が降る日は、よくRMのプレイリストmono.を聞く。
詩人のような繊細な歌を書く人。自然と心の動きを、同じように扱う人。
春を待ちながら、日本よりもっと寒いソウルにいるその人を思う。
1. RMの歌からは、匂いがする
ナムくん、RMの言葉にはよく、季節や天気に関する言葉が出てくる気がする。
それは歌詞にもそうだし、日々の言葉の端に。
最新のアルバムBE収録の『Life Goes On』にも雨が登場する。「幼い頃雨雲より速く走ろうとした」ことがあるというから、そのエピソードから取ったのだろう。
シーグリの撮影中にも、流れゆく雲を眺めて「時速何キロくらいだろう。」と言ってみたり。
そういう時のRMは実に少年らしい視点で風景を切り取る。
美しいものを見逃さないように。その時の自分の気持ちも、空気すらも忘れないように。
だからなのか分からないけれど、RMの作る音楽からは「匂い」がする。
プレイリストmono.の一曲目『tokyo』は「憧憬」の意味もあるという。
本国より先に日本で人気を獲得したというBTSにとって、憧れの場所であっただろう東京という街。
名声や人気を勝ち取った今、そこにいる自分の不安と寂しさが描かれている。「憧れの街だった東京で目覚めた時」から始まる歌から漂うのは、少しの寂しさと自己への不安。
この目覚めた時はいつだろう。なんとなく、朝と昼の狭間の時間帯のような気だるさがある。
朝よりも少しだけぬるくなった空気、人々が行き交う雑踏。感じるのは孤独と、自分が自分でないような感覚だろうか。
また同じくmono.の2曲目『seoul』はこんな歌詞から始まる。
冷たい夜明けの空気の中 密かに目を開けるんだ
ソウルは、緯度としては日本の新潟県と同じだが、大陸に近くシベリアからの寒気が直接入るので、冬はかなり冷え込む。
真冬の夜明け、一日の中で一番気温が下がる時間帯、空気も凍るくらいの寒さの中で、より一層温度を感じないソウルの街並み。
歌詞が分からなくても、聞いた瞬間にこれはきっと早朝の歌なのだろうなと分かってしまう。
RMの故郷は、ソウルに近い街だという。夜の星空が綺麗だと、国連のスピーチの時に語っていた。きっと彼は、練習生として上京するまで、ソウルを「知っていた」わけではなかっただろう。
故郷ではない都会の街ソウルで、仲間と暮らし、たくさんの、本当にたくさんの挫折と喜びを積み重ねて、音楽を作り続けてきた。
温度のない冬の朝、彼は何を感じただろう。この街を初めから知っているわけではないのに、いつのまにか馴染んでしまったことへの不安と戸惑いだろうか。どれだけたくさんの大切な時を過ごしても、どうしてかいつまでも自分の街ではない気がする、都会特有の寂しさだろうか。
RMの歌から感じるのは、目で見る風景というよりもう少し曖昧な「匂い」に近い。
ぼんやりとしているにも関わらず、「あ、あの時だ」と分かってしまうような、瞬間の感情も空気も丸ごと表現されてしまったかのような気持ちになる。
私はソウルの街を知らないけれど、東京の街は少しだけ知っている。
私の知っている東京を、この街にいると時々やってくる寂しさと気だるさと少しの切なさを、君はいつ知ったのだろう。
どうしてRMの曲からは、不意に感じるその瞬間の東京の匂いがするのだろう。
2. 雨のような人
プレイリストmono.の最後の曲は『forever rain』、雨音で始まるこの曲もまた、匂いのする曲だと思う。曲名の通りの重く湿った匂いだ。
都会の街に降り始めた雨と、アスファルトから立ち昇る埃っぽい匂い、水蒸気で少しだけ霞む景色。
RMはこの曲を「最も自分らしい曲」だと語っている。寂しさも焦りも涙も、雨が降っていれば隠すことができる。永遠に降り続く雨は、RMにとっての救いなのかもしれない。
「止まない雨はない」という言葉があるように、雨にはどこか悲しみや試練といった、負のイメージがある。
一方で、韓国や日本を含む東アジアの温帯域において、雨は情緒的なものとしても扱われる。
雨を表す単語は驚くほど多い。日本語でもかなりの数があるが、韓国語でも数十種類以上の雨を表す単語があるという。
季節、時間帯、強さによって変わるたくさんの雨を表す言葉。それは私たちの情緒のそばに、いつも雨が降っていることの証なのだろう。
韓国も日本も、四季のある国における雨は季節を進める役割を果たす。なぜなら私たちの知る雨のほとんどは、暖かい空気と冷たい空気の狭間、温帯低気圧からもたらされるからだ。
赤道に近い南の島では、雨は地形の効果で降るものだし、雨季と乾季のようにはっきりと雨が降る時期がきまってる地域もある。
変わりゆく季節の狭間に雨が降るのは、私たちの住んでいる地域に特有なものだ。
梅雨や秋雨、また今の時期に降る雨もそうだが、新しい季節の前にはかならず雨が降る。一雨ごとに季節は進み次の季節がやってくる。
だから、私たちの暮らす場所に降る雨は、「新しい季節を呼ぶもの」なのだろう。
『forever rain』には、
君が降ってくれれば寂しくない
君だけでも僕のそばにいてくれ
という歌詞がある。
雨はまた、何もかもを包み込む優しさを持つ。
悲しい時寂しい時、元気付けてくれるわけではないけど、そっと寄り添って包みこんでくれるもの。
それが雨だ。
BTSの始まりで、リーダーとして新しいチームの姿を呼ぶ人。
繊細で情緒的で、匂いのする歌を作る人。
きっと誰かの悲しみを優しく包み込んでくれる人。
RMは、まるで雨のような人だと思う。
3. いつか止む雨が降ればいい
雨が「情緒的なもの」「新しい季節を呼ぶもの」「優しく包み込むもの」なら、
forever rainは何を意味するのだろう。
RMは『forever rain』を、自分のお葬式で流してほしい曲だと言った。
forever rainは止まない雨。
雨が上がらなければ、次の季節は巡ってこない。止まない雨は永遠に、全てを優しく包み込む。
それはまるで生命の終わり、死の象徴のようだ。
この歌は、優しくて重い、「終わり」の歌だと思う。
BTSのリーダーで、詩人のように繊細で、匂いのする歌を作り、その知性で誰かの悩みを紐解く人。少年の目で景色を切り取る人。「音楽は言葉を越えると思う」と言いながら、誰より解像度の高い言葉を話す人。
そんなRMが、止まない雨に包まれたいような、自分の代わりに空にずっと泣いて欲しいと思うような、そんな、自分の世界の終わりの日を、願う時があるのだろうか。
だから『forever rain』からは重く湿った匂いがするのだろうか。
MAP OF THE SOUL:7についてのVlive冒頭で、RMは「今外は雨が降っているから」と言って『forever rain』をかけてくれた。
すこしだけ俯き加減に、「こんな時もあったね」と話す彼は、もう止まない雨に包まれたいくらい、どうしようもない気持ちになることはないのだろうか。
そうであればいいと思う。
同時に、わたしは願っている。
これから先、きっと何度も訪れるであろう時に。
君がどうしようもない気持ちの時、何かに紛れないと泣けないかもしれない君の上に、
いつか止む雨が降るといい。
雨は君の代わりに涙を流すだろう。
雨の匂いは君の寂しさを隠し、雨の音は雑音をかき消すだろう。
そして雨が止んだら、また君にとっての”新しい季節”が巡ってくるだろう。
この先(できれば遠い未来に)、本当の終わりの日、止まない雨が全てを包む日まで。
君のその悲しみの上に、何度でも、いつか止む雨が降るように。
2021.03.01
(※これは私個人の思考を整理したもので、特定の個人の人格を記載したものではありません)
※ @luv_musik_ 様よりSeoulの和訳お借りしました。
※forever rainの和訳は以下よりお借りしました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?