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2021年の始まり、BEに寄せて(BTSと私③)

2021年の年が明けた。
実家で新しい年を迎えながら、私は、「ああ世界がどうなっても、案外簡単に年は明けるものなのだな」と思った。

新しい年、アルバムBEに寄せて。


1. 2020年の私とBTS

2020年の大半は「停滞」だった。
世界を俯瞰してもそうだし、また自分自身の状況もそうだった。

社会人になって数年、がむしゃらに自分のやるべきことをやってきた。仕事が好きだったから、忙しいことに不満を漏らすことがあっても、やり切ろうという思いが消えることはなかった。
だけど今年、はじめてできた直接の後輩の指導は、どうしてもうまくいかなかった。あまりにもうまくできなくて悩んで、「あれ?どうしてこの仕事してたんだっけ」くらいまで考えていた。
世界の停滞とともに、外出できる機会が減り、コミュニケーションの機会が減ったこととも関係しているだろう。

仕事人間なところがある私は、仕事がうまくいかなくなったことで一気に色々振り返って落ち込んだ。プライベートでもやりたいことを出来ず、自分への諦めのような感情には拍車がかかった。
夏終わりくらいからずっと「毎日生きてるけど、何もできない私は何なんだろう」と考えていた。

そんな一番落ち込んでいた秋頃に、BTSに出会えたことはとても幸福なことだったと思う。Dynamiteは、本当に無条件に私にパワーを与えてくれた。

そういう出会い方をしたこともあり、私がBTSの曲でDynamiteの次に好きになったのは、ダンスがかっこいいアップテンポの曲が中心で、
アルバム『BE』については一通り流して聞いたものの、静かな感じのアルバムだなと思って、それほど印象に残っていなかった。


2. 静かな年明けとBEの「諦め」

2021年の年明けを実家で迎えた日、なんとなく思い立って、スマホとイヤホンだけをコートのポケットに突っ込んで外に出た。
別に大した理由があったわけではない。年末年始はあまり外に出なかったから、今日くらいちょっと歩こうかな、というだけの。

時刻は16時半。夕方の空はこの冬最も強い寒気の影響で、雲が多く小雪が舞う寒さだった。

散歩のお供にBEを聴こうかなと思ったのは、なんとなく、この冬の空がアルバムのイメージにあってるなと思ったからだ。それもまた、別に大した理由ではない。


1曲目は『Life Goes On』。今年の終わり何度も映像で見た曲だ。コロナ禍の今までとは変わった世界を歌った曲だけど、なんとなく「変わってないよ」のメッセージの方が目につく。何もできなくても当たり前に明日は来る無力感を、それでもいいでしょ、と語りかける曲な気がする。
ふるさとの街も、コロナだけでなく数年で随分と変わった。知ってるようで知らないような街をゆっくり歩く。

2曲目は『Fly To My Room』。「外に出られないから、いっそこの部屋が自分の世界だと思っちゃおう」という曲だ。年末、何とか時間をとって、一人暮らしの部屋の掃除をしてから帰ってきてよかったと思う。5月の私にとって、あの部屋は確かに世界だったから。

3曲目の『Blue & Grey』。実は普段はあまり聞かない。冒頭のテヒョンくんの歌い方があまりにも切実で、心に響いて震えそうになるから。少しだけ重くて心がぎゅっとなる曲だけど、この日の『Blue & Grey』はすごくしっくりと馴染んだ気がした。みんな孤独なのだ。でも、生きている。曲が終わる頃には17時前で、街灯が灯り始める。本格的に周囲は暗く、優しい灰色の世界に近づいた。

4曲目の『Skit』はBillboardを取った時のメンバーの歓声だ。なんでこれど真ん中に持ってきたのかなって思ってた時もあったけど、声だけで繋がるメンバーの歓声が、近いようで遠くて、明るいのに切ない。

5曲目は『Telepathy』。すごく好きな曲調で、歌詞はとてもシンプルだ。きっと会える日まで、ひとまず今年は「早くもなく遅くもなく」歩こう。

6曲目は『병 (Dis-ease)』。クセになるリズム感があると思ったら、ホビくんが作った曲だった。仕事しすぎて休み方が分からない感を病として曲にしたという。
重めのテーマなのに、どこか明るさに満ちている。この「明るい諦め」みたいな空気が個人的にすごく好きだ。多分どうせ今年もなにかと文句を言いながら、それでも私は毎日ヘトヘトになるまで仕事をするだろう。仕方ないなと思いながら、ほとんど宵闇の町をサビに合わせて歩調を早める。


7曲目は『Stay』。繰り返されるタイトルの言葉と、透明感のあるボーカルが特徴的だ。終わり方の余韻がすごく好きで、初めて聞いた時は、『Stay』で終わった方が収まりが良いんじゃない?と思っていた。8曲目の『Dynamite』は、BEの他の曲とはちょっと雰囲気が違う気がしていたから。

けれど改めて聴くと、最後に配置された『Dynamite』で、あくまで静かに寄り添うようなアルバム全体が彩りを持つ気がした。白と灰色に、カラフルな光の影が落ちるように。
「とにかく行っちゃう?どうせ人生は続くし!」
星の輝きで、宵闇の街は、明るさを取り戻す気がする。


BEは、アルバム全体に漂う諦めと、それを許して寄り添ってくれる空気がある。時に鬱々として、時に明るく、またある時には私たちに語りかけるように。

「人生は続くから、今はそれでいいよ、とりあえず。僕も君もここにいるから。」

元気付けるでもないし、結局状況は何も変わらないし、変わらないことを諦めている。
その諦めが、どこか心地いいことに気づいた。


3. 2021年の私に

思えばここ2,3年、私は新年を、なんとなく切迫した感じで迎えていた気がする。
そもそも、年末というのは色んなものを仕舞いたくなるし、新しい年に展望を投げかけたりするものだ。
それは本来悪いことじゃないはずだけど、20代半ばを過ぎてからの私は、どことなく「足りていない」気がする自分の現実を新しい年に送りつけて、今年こそは何か変わらないと、何か為さないと、としきりに思っていた気がする。

だけど、今年は少し事情が違った。
何もかもが停滞した2020年は、自分が頑張ってるかどうかは置いておいて、どうにもならないことだらけだった。私の仕事は、在宅勤務が殆どになった以外は、(幸いにも)コロナの影響をほとんど受けなかった。でも、それでも、プライベート含めて「仕方ないよな」と諦めたことはたくさんあって。

それはとても悲しいことだと私は思っていたし、空虚で孤独で、だからこそ、その隙間に聞こえたDynamiteに強く惹かれて、BTSを好きになったけど。


2021年の元旦、BEを聴きながら、どうしてか私はこの諦めが漂う静かな年明けに安堵していた。

そして、いつもしていたように、過ぎた年の「自分の足りなさ」を新しい年に送ろうという気持ちが、ほとんど起こらないことに気づいた。

だって、去年は仕方なかった。社会があんな風になってしまったから。思うようにいかないこともあったけど、なんとか過ごした。シュガもインタビューで語っているように「病気になったのが世界なのか僕なのか」って思えば、私はその割には、まあうまくやったんじゃないだろうか。

https://magazine.weverse.io/article/view?lang=ja&num=96


新しい年が明けた。
2021年も、私には出来ていないことや足りないところが、きっとたくさんあるだろう。でも仕方ない。だって「それでも人生は続く」から。
だから今年は、ただほんの少しだけでも、今の自分を愛せたらいい。

夕暮れと宵闇の狭間でBEを聴きながら、自分を少しだけ許せた2021年1月1日の話。



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