【読書メモ】かくれた次元
『かくれた次元』エドワード・T・ホール著、日高敏隆・佐藤信行訳、みすず書房、1970年。
米国の文化人類学者エドワード・T・ホール(Edward T. Hall)の The Hidden Dimension. Doubleday & Company. 1966. の邦訳版。空間と人間の関わりあいにちょっと興味が出て、手に取ってみた本です。ちょっと古めの本ですが。
著者紹介に依れば、ホール氏(1914-2009)は、学際的(インターディシプリナリー)アプローチの第一人者だそうです。そう紹介されているように、動物の生態や美術・建築など、様々なジャンルに触れながら、空間がいかに人間の為すことと関わり合っているのかを説明していきます。
この本の要約については、本文中に触れている箇所があるので、それを引用するのが早いので、そうします。
この本は、人間の存在と行為は事実上すべて空間の体験と結びついていることを強調している。(p. 249)
この本で述べたことをできる限りつづめていえば、人間はどんなに努力しても自分の文化から脱けだすことはできない、ということになる。なぜなら、文化は人間の神経系の根源にまで浸透しており、世界をどう知覚するかということまで決定しているからである。(p. 259)
さて、偶然に知ることとなったわけですが、この本には「社会距離(social distance)という用語が出てきます。なんとタイムリーなんでしょう。近頃は「社会的距離」という表記が浸透してきた感がありますが、この本では「社会距離」と訳されています。今、言われている社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)と関連があるのか、まではわかりません。
ホールは、人間が活動する中で無意識的(意識的?)に区別している、人と人の間の距離を、四つに分類しています。実際には、四分類それぞれが、さらに「近接相」と「遠方相」の二つに分かれるのですが、大まかに四つとして紹介します。
①密接距離:名前の通り、お互いにかなり近い距離にいる状態です。視覚だけでなく、相手のにおい、体温、息などの感覚でコミュニケーションをおこないます。
②個体距離:密接距離よりは、やや離れた距離です。相手を抱いたり捕まえたり、触ることができるくらいの距離でしょうか。
③社会距離:これが、ソーシャル・ディスタンスです。ある程度の距離があり、会社などの場ではこの距離が用いられます。
④公衆距離:これは、かなり遠さを感じます。演説者と聴衆といった関係性でしょうか。
それで、社会距離ですが、とても丁寧なことに、距離の目安も表記されています。社会距離(近接相)の距離は、4~7フィート(1.2~2.1メートル)だそうです。今、言われているソーシャル・ディスタンスの距離感ともバッチリ合います。
ホールは、人間における社会距離について、次のように述べています。
電話、テレビ、トランシーバーによって大巾に延長されている。これらのもののおかげで集団の活動は長距離をへだててもなお統合を保っているのである。(p. 24)
トランシーバーってところが、なかなかエモいです。これに基づけば、現代では、言うまでもなくSNSによって、さらにずっと社会距離は延長されていることになります。
でも、ふと、思ってしまいます。
社会距離はずっと延長されてきたけれど、はたして、統合は保たれているのだろうかしら、と。
ツイッターを見ていると、カオスを感じます。スマホで24時間繋がっていても、なお心が満たされない感覚を持つ人もいます。このコロナ禍によって、学校が長期間休校となり、リモートじゃなくて実際に顔を合わせることの大切さを、実感した人もいることと思います。
ホールが、今のコロナ禍を見たら、どのようなことを考えただろうか、と考えてみるのも、なんかおもしろそうです。