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【読書メモ】ラインズ:線の文化史

『ラインズ:線の文化史』ティム・インゴルド著、工藤晋訳、左右社、2014年

イギリスの社会人類学者ティム・インゴルド(Tim Ingold)の Lines: A Brief History. Routledge. 2007. の邦訳版。最初に手に取ったのは、これに続く『メイキング:人類学・考古学・芸術・建築』だったのですが(これもまた別でメモできれば良いのですが…)、まずは『ラインズ』を読んで、ふと思ったことをメモしておきます。

著者は、英アバディーン大学人類学教授のティム・インゴルド氏。同大学で人類学部の立ち上げに関わって、「4つのA」という講義(その4つのAとは、Anthropolgy 人類学、Archaeology 考古学、Art 芸術、Architecture 建築の頭文字)に関わったり。その講義内容については『メイキング』でも触れてたりしてるけれども、それがすごくおもしろい。そんな講義、受けてみたかった。

この本は、「線(line)」という観点から、言語、音楽、糸、地図など、それはもう様々なことを考察していきます。なので要約するのはかなり憚られるのですが、「線」という視点から世界を見たら、どのように見えるのか、といったことを感じながら読みました。

さて、この本の中で「散歩」と「輸送」について述べられているところがあります。「輸送」というのは、モノを運ぶことですが、移動する人としての「ツーリスト」でもあります。出発地から目的地への直線的な移動、それをするのがツーリストです。

一方、「散歩」というのは、寄り道ばっかりして、しかも、目的地なんてありません。ツーリスト(観光)に対する、「居住」ともいえます。ずっと、その場をウロウロする感じです。

このあたりのことを読みながら、なんとなく納得しました。というのも、僕は、移動がどうにも苦手で、できればひとところに留まりたい願望があるからです。

「地球のほぼ真裏にある、南米コロンビアをフィールドとしているお前が、いったい何を言う」という声は、この記事の読者数を鑑みれば、あまり聞こえてきそうにないので、自分で自分に言うことにします。ほっといてください。

大枚はたいて飛行機のチケットも買ったし、研究のためにも行かなきゃいけないので、そりゃ行きますけれども、現地に着いたら、それこそ「居住」のようなことをするわけです。国内や国外をあっちこっち行ったりするわけではありません。

とはいえ、そんな僕でも、数年前にバックパッカーみたいな感じで、主に南米の国々を旅行したことがあります。その時は、まだスペイン語にも不慣れだったので、あの『地球の歩き方』が必携本でした。そこに掲載しているようなゲストハウスには、日本人旅行者が泊まることが多く、僕も、日本人の世界一周旅行者と出会ったりもしました。

彼/彼女らと話をすれば、「もう◯ヵ国まわった」とか、「明日には出国する」とか、そういう話になりました。それを聞きながら、その宿に数日間泊まろうと考えていたりした僕は、「スケジュールがタイトなんだなぁ」なんて思ったりもしました。その時から、うっすら感じていたのです。

「移動」はいやだなぁ、「居住」がいいなぁ、と。

そして、この本を読んで、腑に落ちたわけです。ただ、僕は「輸送」を否定するつもりはないです。そうではなく、「散歩」が自分の性格に合っている、ただそれだけの話です。そして、そう思う人も結構いるんじゃないかと、うっすら思っています。


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