
チェッカーズの勝手に10選〜鶴久政治氏作曲編〜
(前記)
鶴久政治さんは、おそらくチェッカーズで1番作曲の数が多い印象で、シングルでも1番楽曲が多い。破天荒な曲は少なくとも、曲の幅は非常に広く、安定感は抜群だ。
今回は、そんな政治さんが作曲した楽曲を勝手に10選する。
・TWO KIDS BLUES
アルバム"FLOWER"に収録。作詞は藤井郁弥さん。非常に男臭さを感じる、ミドルテンポのロックナンバーだ。"銃声が響く"といきなり、ボーカルから入り、ダーク目だが、突き抜ける感じ、治安の悪い街角に一筋の光がサッと刺す雰囲気を醸し出す演奏だ。
歌詞は散文的であり、抽象的だが、その単語、フレーズが持つ力が融合し、確固たる世界観を確率させ、実に不良っぽいクールな歌詞だ。特に"ジャックナイフ この胸 誓った時"から始まるサビが場末の暗闇から突き抜けるが如くの勢いを伴った郁弥さんのボーカルがたまらない名ロック。
・MELLOW TONIGHT
アルバム”GO”に収録。作詞は藤井郁弥さん。ミドルテンポのクールなラブソングである。ふわっとした前奏から曲は始まり、Aメロはあまり楽器を多用せずに、政治さんのボーカルに、そっと花を添えるように音が絡まっている。Bメロになり、音も増え始め、コーラス(これは尚之さんの声だと思われるが、単純に何故だろうか?やはり上手いからか)も加わり、実に気持ちの良いテンポアップを経てビートの効いたサビへ。この曲はこのサビとA、Bメロの緩急が素晴らしく、サビだけでも素晴らしいメロディだが、この緩急が更にサビを引き立てている。
彼氏の機嫌が大変よく、普段にまして愛情深く彼女に接するという、非日常過ぎないラブストーリーが、実にこの曲に優しく調和している。
筆者の中では、もっと評価が高くても良いかな、と感じる。
・WANDERER
チェッカーズ14枚目のシングルで、オリジナルのシングルでは政治さんの初登場となった曲。この時期のチェッカーズはロックンロールとクラッシュ寄りのパンクをシェイクして、イギリスのスパイスを振りかけた様なロック色が強く、そんな時期の代表作とも言える実にクールなロックである。
なんといってもイントロだ。当たり前の事だが曲にとってイントロは大変重要なファクターで、イントロからいきなりクールな曲は大概曲もクールな傾向にある。この曲の一つ目の肝は、出だしのドラムと同時に入る享さんのギターだ。短いフレーズであるが、このコードを細かく刻むカッティングが最高にカッコいい。その後に続くサックスが加わる前奏の最高の前座となっている。
もう一つの肝は、サビの途中に入る、B→C#→Cのブレイク、のおかずだ。ここの部分にこの曲におけるサビの魅力が凝縮されており、なければならないブレイクだ。
全体を通して聴くと、享さんのギターも、ロック寄り、スカ寄りを生き生きと行き来して曲の持つ雰囲気の要になっている。
歌詞は、郁弥さんの作品の中では幾らか抽象的な位置に属するが、男、女、嘘、涙などのキーワードから、嘘をついて2人を守ろうとした、嘘が2人を別れさせた…様々な捉え方が出来る。 Wandererを直訳すると、放浪者、彷徨い人。
実に奥が深い歌詞もベストマッチしている。
・Jim&Janeの伝説
チェッカーズ17枚目のシングルで、作詞は藤井郁弥さん。ミドルテンポの名ロック。
作曲は、The Shangri-Lasの"Leader of the Pack"が元ネタ、作詞は少女漫画の大傑作であり、暴走族のバイブル、紡木たく氏の"ホットロード"が元ネタであると公言しており、両側で元ネタをしれっと本人達が語る曲だ。
この辺りから、サウンドの変化に生意気ながら気づく事があり、クロベエさんがソナーのドラムを使用する事でスネアの抜けが数段向上し、最大の本数を誇る"GO TOUR"により、各々のスキルアップが目覚ましく、チェッカーズのサウンドの進化を見せつける楽曲だ。
歌詞は暴走族の彼氏が亡くなってしまい、残された彼女が望んだんだろう、主人公の男性のタンデムに乗り、その現場に連れて行ってもらい、回想が入り混じる。"行こうぜ、ピリオドの向こうへ"などの名フレーズのオンパレードだ。
イントロ、間奏、ラストの尚之さんによる、一人二役、ハモりの絶妙なサックス。実にクールだ。当時はライブでどうするんだろう?なんて、生意気に思っていた少年時代が懐かしい。
・GIPSY DANCE
アルバム”SCREW"に収録。作詞は藤井郁弥さんだ。実にスパニッシュな異国情緒溢れる雰囲気を醸し出している、激しい16ビートのナンバーだ。
歌詞の”Gipsy"とは、移住式民族、仕事の需要によって場所を転々とする者、ある限定された民族などの様々な意味を持つ、放浪者的な要素も含むであろうか。
散文的に、ジブシーの少女のダンスが持つ、華やかさ、切なさ、報われなさを表現する素晴らしく曲にマッチした歌詞である。
演奏で特記すべきは、武内享さんの、怒涛のアコースティックギターのカッティングだ。間奏のカッティングに至っては、この曲の魅力を凝縮したかの様の素晴らしいカッティングだ。フラメンコ、スパニッシュな要素からなる、実にカッコいい。備えられた尚之さんのサックスも実にクールである。
メンバーもお気に入りの曲の様子で、ライブの定番、ハウスバージョンも存在する。
・愛と夢のファシスト
アルバム"SCREW"に収録。作詞は藤井郁弥さんである。
いきなり、尚之さんのお花畑の様な三拍子のソプラノサックスに合わせ、少女合唱団が歌いだす。
して、少女達が歌い終わるや否や、怒涛ののスカロックが始まる。尚之さんのサックスもお花畑のソプラノサックスから、暴れん坊のテナーサックスに変貌を遂げる。
そもそもチェッカーズというバンドには、スローな曲から激しい曲において、スカの曲が多いバンドだ。しかし、もろにスカではなく、カッティングはスカでも、もはやロック、というチェッカーズらしいアレンジのスカが多いが、この曲もその代表で、非常に疾走感に溢れるスカロックである。
歌詞は散文気味であり、力強い2字熟語をこれでもか、と多用し組み合わせ、強烈な世界観を醸し出している。
間奏の、スカの香る力強い尚之さんのシンプルなフレーズが実にクールだ。間奏終わりに、政治さんの"KISS ME PLEASE"のセリフの後、女性達の"キスしてー"とのセリフが入り、実にチェッカーズらしい、遊び心もキラリと光る。
そんな疾走感溢れるスカロックのラストは、最初の少女合唱団で幕を閉じる。
前奏、間奏、ラストの遊び心が、曲にメリハリをつけ、実にクールな盛り上げ役を担う。
ライブの定番曲で、ライブでは前記のキスのやり取りを何回か繰り返して、オーディエンスの"キスしてー!"の大合唱が懐かしい。
・夜明けのブレス
チェッカーズ、23枚目のシングル。作曲は藤井郁弥さん。ラブバラードの最高峰だ。
ちょうど、リードボーカルの郁弥さんのご結婚発表後のシングルである。
ピアノから始まり、一羽の疲れ果てた、折れかけた翼を持つカモメがキーワードとなる、抽象的なAメロとBメロと、ストレートなサビのコントラストにより、サビが実に際立ち、力強いラブソングだ。演奏のサビにおける重厚さもたまらない。
実にシンプルなコードで構成された大名曲である。
少年時代に何気なくカラオケで歌っていたら、一瞬にいた連中が、こぞって何この曲、めっちゃいい曲やん!と騒がれて、ちょっとびっくりした思い出がある。
・ONE MORE GLASS OF RED WINE
アルバム"OOPS"に収録。作詞は藤井郁弥さんだ。
アルバム"OOPS"は、ハウス、打ち込みなど、チェッカーズのアルバムの中では、全体的に実験的要素が強いアルバムである。
その中、このストレートかつ演奏も歌詞も王道なミディアムテンポのラブソングが特に際立っている。
歌詞は、ワインを飲みながら別れ話をするカップルを背景に、恋愛においての、男にとっての女、女にとっての男を見事に対比しながら表現し、はてさて、そのカップルはどうなるのか?題名が伏線となっている、素晴らしい歌詞だ。
また、原曲では曲の最後に素敵なアレンジのプレゼントがあるのも、流石の一言である。
・ミセス マーメイド
チェッカーズ26枚目のシングル。作詞は藤井郁弥さんだ。
この曲は非常に人気がある。自身のチェッカーズ好きは、友人達の間では当たり前の事なのだが、未だにカラオケに行くと、この曲をリクエストされる。
16ビートのシンプルでソリッドな洒落たロック、というよりポップであろうか。享さんのギターも添える感じで、尚之さんのアルトサックスはリフよりのアドリブな印象だ。演奏、メロディラインも素晴らしいが、特筆すべきは郁弥さんの歌詞だろう。
夏のどこか(海だろう)で出会った2人が、都会で会う約束をしたが、会ってみると、…という、題名が伏線になっている見事な名歌詞だ。
TVでは、全員コムデギャルソンのセットアップを着用し、クールそのものだった。
・FRIEND AND DREAM
チェッカーズ21枚目のシングル。作詞は藤井郁弥さんだ。
発売当初は、初めて男に向けて作った曲とされていたが、後に、当時仕事に行き詰まり悩んでいた高杢さんを慰める、高杢さんへのメッセージソングであった、と明かしている。
享さんのアコースティックから郁弥さんのサビで曲が始まる。重厚感、切なさ、暖かさのあるミドルテンポのロックバラードだか、珍しくエレキギターが入っていない。それが、この曲のスパイスのひとつだろう。
歌詞は、落ち込んでいる昔ながらの友人を励ます内容をストレートに描いているが、全ては、"大丈夫さ ボロボロでも まだた翔べるぜ"のフレーズに集約される。
また、チェッカーズの楽曲で、間奏に日本語のセリフが入る唯一の曲だ。
下に貼り付けたPVは藤井郁弥さん作のもので、実に曲と調和する名PVだ。
(後記)
政治さんは、楽曲が多く、シングルも多い。安定感をを伴いキャッチーな作曲家だ。
以上、作曲陣4人の勝手に10選をやってきた訳だか、4人ともに色々な意味での難しさを痛感した。
しかし同時に時の流れも忘れ没頭した時間でもあった。
今後、需要があれど無かれど(勿論、あった方が嬉しいが)、様々な観点から、自身のルーツである、チェッカーズを掘り下げていきたい。