見出し画像

お米から生きる力をいただく

20数年来の友人が、とても珍しいお米を持ってきてくれました。その名も『穂増(ほまし)』と『旭一号』。どちらもかつては一世を風靡した品種とのこと。

『穂増』は、江戸時代には熊本を中心に九州一円で栽培され、大阪堂島米会所で『天下一の米』と称されるなど、日本の米相場を左右したといわれています。『西の肥後米、東の加賀米』とも呼ばれていました。

『旭一号』のルーツは京都だそうで、1915年に京都農業試験場が『旭』から純系選抜し、1920年に奨品決定されています。美味しいお米のルーツをたどると、東日本は『亀の尾』、西日本は『旭』に行き当たるとのこと。明治の農家が在来種から選抜した傑作と呼ばれています。

そんなお米の名品種も、「育てやすく、多収量」、「甘くてもちもちした食感」という時代の流れとともに、次第に衰退し、『幻の米』と呼ばれるようになりました。当時のお米を何とか復活させようと、熊本の農家の皆さんが立ち上がり、今ではある程度の収量が確保されるようになりましたが、まだまだ手に入りにくい貴重なお米です。

我が家は農家ではなかったのですが、周辺は田畑ばかりの農業地帯で、同級生の多くの家では農業を営んでおられました。田植え前の水を溜めた田んぼや、稲刈り後の稲株だらけの田などは、私たちにとって、その時期限定の絶好の遊び場でした。積み上げられた藁の山に何度もダイビングをしたり、冬場は藁や乾燥したタバコの茎を燃やして芋を焼いて食べるなど、私にとって米作はとても身近な存在でした。

そんな米作は、いつの間にか、輸入品との競争にさらされるようになり、機械化や大規模化が進む一方で、担い手不足は深刻な問題になりました。最近では、ドローンで農薬を散布したり、AIを導入して水量調整や施肥のタイミング等も自動制御される工場のような農地に変わってきています。農家なら別なのでしょうが、現代の子どもたちにとっては決して身近ではないようです。

この2種類のお米は、単に昔の品種というだけでなく、昔ながらの生産方法によって作られています。土と種の力だけを頼りに、無農薬無肥料で育てられたお米からは『生きる力』を得ることができます。ともに倒伏や脱粒、いもち病等の病気に弱く、晩作で台風の影響を受けやすい等々の問題点を克服して作られたお米の価値は、付けられた値段を遥かに超えているのだと思っています。

自然の土と水の恵みに感謝して、ありがたくいただくことにします。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?