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『出自を知る権利』は絶対なのか

『こうのとりのゆりかご』を議論する際、「命を救う」のか「出自を知る権利を尊重する」のか、いずれかの論点で論じられることが多いようです。ゆりかごは、匿名でも預け入れのできる施設であることから、出自がわからなくなる場合もあります。そんなときは『棄児』として職権で戸籍を作成することになります。これはゆりかごに限ったことではありません。

出自を知る権利をどこまで守れるのか、ゆりかごを許可する際、もっとも悩ましかった点であり、現在も解消されてはいません。匿名でも預け入れできるものの、出自を知るための何らかの手がかりを得る努力を、ゆりかごを運営する慈恵病院は求められてきました。児童養護施設の方からは、「ある年齢に達すると、必ずと言っていいほど出自を知ろうとする」と聞いたことがあります。もし私がその立場であれば、当然のように知りたがり、もしわからない場合は自己喪失感に苛まれるであろうことを想像しました。言うまでもなく、出自は人間の尊厳そのものであり、権利として守られるべきものだと思います。

一方、医療技術の進歩により、精子や卵子の提供など、夫婦以外の第三者が関係する生殖補助医療で生まれた子どもが増えています。国内で1万人以上が生まれているとされていますが、正確な数は分かっていません。「非配偶者間人工授精(AID)」は1948年から国内で行われており、ドナーのプライバシー保護が優先され、ドナーの身元は明かされず匿名での提供が続けられてきました。ようやく、その親子関係を定めた民法特例法が2020年12月に成立したものの、肝心の出自を知る権利については規定されずに、附則で「おおむね2年を目途として検討」と触れるにとどまっています。

「出自を知る権利」を保障する仕組みがないままに、遺伝上のルーツをたどれない新たな命が生まれ続けている日本に対して、海外の一部の国では「出自を知る権利を認めるべき」との考え方が浸透し、子どもの福祉を重視し、法律で保障する動きも進んでいます。

そのほか、出自に関わるトラブルとして、SNSを介して増え続けている第三者からの精子提供にまつわる訴訟が注目を集めています。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/151342

「女性は夫と、夫との間で10年以上前に生まれた第1子と3人暮らし。夫に難病の疑いがあることなどからSNS上で精子ドナーを探し、2019年3月、20代男性と連絡を取り合い始めた。女性は、男性が京大卒の日本人で、妻や交際相手はいないと信じた上で、10回程度、性交による精子提供を受け同年6月に妊娠。その後、男性が本当は中国籍で別の国立大を卒業し、既婚者だったことが判明した。身ごもった子は出産したが、都内の児童福祉施設に預けているという」(東京新聞TOKYO Webより記事を一部抜粋)

児童福祉施設に預けられている子どもには何の罪もありません。この訴訟中のケースがそうだと断定するものではなく、言葉にしたくもないのですが、『はらませや』と称する者が存在していることを知りました。

先ほどは「出自は人間の尊厳そのものであり、権利として守られるべきもの」とは言ったものの、出自を知らせることが絶対なのか、どこまで知らせるべきなのか、人間の尊厳とは、あらためて色々と考えさせられました。

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