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【鑑定学】日本美術の真物〈ホンモノ〉と贋作〈ニセモノ〉

こんにちは


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すっかり秋らしい空になってきましたね。金木犀の香りも漂ってきて、9月中旬にして段々と長袖を着る気候になってきました。最近はそんな朝がとても好きなので、頑張って早起きして大学へ通っています。これも「学びの秋」だからこそでしょうか…。台風14号、少しでも逸れてくれることを願います。


日本美術の「真物ホンモノ」「偽物ニセモノ
―研究に立ちふさがる巨大な「壁」のモノがたり―

前回まで、折に触れて「鑑定」についてお話ししてきました。

そこで今回は、杉本が「鑑定」をどのようなものであると捉えているか、なぜ必要であるかを、具体的かつ平易な言葉を用いて示した論考、「日本美術の『真物ホンモノ』『偽物ニセモノ』―研究に立ちふさがる巨大な「壁」のモノがたり―」を取り上げてみようと思います。

この論考は、今年2021年の3月に東北大学出版会から出版された、「人文社会科学講演シリーズ12 私のモノがたり」という本に収録されています。

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(画像をクリックすると、hontoでの紹介画面が表示されます。在庫次第でここからの購入も可能です。)


そもそも「美術史」とは何か?

杉本は冒頭で、「鑑定」を必要とする「美術史」が、まず何を明らかにする学問なのか?という問題に言及します。

(前略)容易には解読しがたい文字資料だけでなく、作品から直接的にアプローチできることもあり、確かに一見しただけではハードルは低そうに見えます。ただ、「史」の一字が付されているのに着目すれば、「歴史学」の一分野だとお気づきいただけるでしょう。つまり「美術史」が明らかにすべき本丸とは、作品を生み出した「背景」に存在する時代や作者の「精神」であり、それがどのような「価値観」に基づいて成立しているのかを歴史的に位置づけることです。(中略) いわば美術作品とは歴史的に構成された文化の「うわずみ」であり、それを支える「宗教」「思想」「哲学」「文学」「科学」などという諸々の素養が研究において必要となります。(p.85,86)

美術史というと、何となく直感的な感想を言い合って作品を評価していく、そんなイメージを抱く場合があります。

ですが、実際には主観的な感想ではなく、できる限り客観的な事実に基づき、多角的な視点から作品に向き合う研究分野なのです。

なぜ美術史で「鑑定」が重視されるのか?

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それでは、そうした作品成立の背景や価値観に焦点を当てていく美術史で、「鑑定」が重要視されるのはなぜでしょうか。

杉本は、次に「美術史」の研究対象とは何か?という問題に触れつつ、以下のように述べます。

 東洋、西洋ともに絵画、彫刻、工芸を主な対象としますが、扱うべき作品のレベルは、基本的に「名品」と位置付けられるものでなければならない、と考えます。(中略) 私が言う「名品」とは、すでに権威づけられたものを指すのではなく、「それぞれの時代や作者の精神を強く反映している」ゆえに「歴史的観点から高い価値を有する」と評価でき、かつそれ相応の「高い技術力と表現力を認めることができる」作品との意味です。(後略)
 とすれば、「美術史」の研究において前提とすべき作品は、時代や作者を語るにふさわしい「真物ホンモノ」であることが、何よりの条件でなければなりません。(後略)
 以上のことから、扱うべき作品の「巧拙」や「優劣」さらには「真偽」に関する判別は、「美術史」の研究にあっては根幹をなす最重要の課題であると、まずはご理解いただけるでしょう。(p.86,87)

中略した部分では、「今の私たちが作品の存在する価値を忘れていたり、見えていなかったりするために正しく評価できていない」可能性について、具体例を挙げて示しています。ただし、抜粋した最後の文に続くのは、「鑑定学」が確立されていない、ある意味では危機的とも言えてしまう学会の状況に言及する内容です。

しかし、上記のように、「美術史」は「真物ホンモノ」の作品を扱うところからスタートしなければならないはずです。

前回、本研究室で開講されている講義のうち、実践的な力をつける実習をご紹介しました。「実践」というと理論の後にくるような印象がありますが、ここでの「実践」で養われる「鑑定」の力は、「美術史」における研究の大事な基礎となることがわかります。


「鑑定」はどのように行うべきか?

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さらに論考の中では、「偽物」がどのように作られ、どのように世に蔓延ってきたか、時代背景にも焦点を当てながら、資料に残る記録に基づいた具体例を挙げてその実態に迫ります。

また、同時に、現存する作品に見られる「偽物」が作り出された形跡を、作品比較によって示し、「直感的」「主観的」ではなく「客観的」な「鑑定」の一方法を提示します。

そして、杉本はこれらをもとに、最終的に「鑑定」の方法論として、観察すべき十項目を優先順に示した上で次のようにまとめています。

 「鑑定」に必要な「情報」とは、紙や絹、墨や彩色などの「物質面」に加え、筆づかい、墨づかい、構図、構成などの「技術面」および「表現面」です。ひとつの作品に存在する各ポイントを「観察」し、まずはそこから読み取った「情報」を言語化しなければなりません。
 この「観察」で得られた個々の「情報」は、研究においては画家や時代の特性を読み解くうえで不可欠となります。(中略)ただし、一作品の「情報」のみからでは主観的な判断とならざるを得ませんから、これを客観化するために他作品との「比較」を欠くことはできません。(後略)
 この「比較」を経るごとに、それぞれの作品における「新旧」「巧拙」「優劣」が相対的に位置づけられていきます。(p.125)

観察すべきポイントを決めることで、鑑定、さらには比較がしやすい環境になるでしょう。

さらに、これは美術史で扱う作品において文字以外の部分から得られる、古文書などに比べても圧倒的に多い情報量を整理するのにも、また大切な役割を果たしています。

そうして得られた情報を「比較」し、「相対的」に判断していくことで、感覚的な「なんとなく」による判断をなくし、より論理的かつ「いつ、誰が見てもそう見える」位置づけを行っていきます。

また、以前の記事でも紹介されていますが、観察するポイントと、そのポイントで何を注視すべきかについては、杉本の「日本近世絵画の観察と資料性評価の理論―『鑑定学』の構築にむけて―」(『古文化研究』第十号 黒川古文化研究所、2011年)で詳しく説明されています。(下のリンクから読むことができます。)
http://www.kurokawa-institute.or.jp/files/libs/633/20190428102417593.pdf


ありがとうございました

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美術史とは何か、そしてそれに付随する(比較を含んだ)鑑定がなぜ重要か、なぜ私たちがあのような講義(前回前々回参照)を受けているのか、段々とおわかりいただけていたら幸いです。

本論考には、今回ご紹介した内容をより深く理解できる具体例が多く掲載されています。「偽物ニセモノ」の証拠って意外とこんな風に残っているんだ・・・というように、具体例に接すると得られる実感もありますし、まだまだここではご紹介しきれない内容もありますので、ぜひ一度お手に取っていただけたらと思います。

なお、今回の記事に際して、ホームページに概説と目次を掲載いたしました!よろしければこちらもご参考ください。
https://sugimoto-kobijutsu.net/index.php/outlines-of-papers/

それでは、今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
また次回もよろしくお願いいたします。

(本日の写真は、文学部棟を出た直後に見える景色・東北大学の近く、広瀬川にかかる大橋の上から見える景色でした。)


参考

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YouTube:講義を期間限定で配信中!杉本の特別企画もあり、美術史についてより深く学ぶことができます。そして何より、ここで取り上げた講義を実際に聞くことができ、気軽に体験授業を受けることができます!

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