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令和元年(平成31年)司法試験労働法第2問答案

第1、設問1
1、X組合としては、後述するY社の本件ビラ撤去行為が不当労働行為(労働組合法(以下「労組法」)7条3号)に当たるとして、労働委員会(同法19条)に対して、ポストノーティス等の救済命令等の申立をすることができる(同法27条1項、27条の12第1項)。
 また、裁判所に対しても、Y社の不当労働行為を理由として、それに基づく損害の賠償や、ビラの原状回復を請求することができる。そしてその前提として、特にビラの原状回復については、その旨の仮処分を先立って求めることができる(民事保全法23条2項)。
2、では、上述のX組合の主張するような本件Y社のビラ撤去行為は「労働者が労働組合を…運営することを支配し、若しくはこれに介入」する行為であるといえるか(労組法7条3号本文、以下「支配介入」とする)。
(1)そもそもビラを使用者の施設に勝手に貼ったりするといった行為は通常その施設内秩序を著しく害するものである上、使用者の施設管理者としての地位への侵害でもある。ひいては、他の労働者等への影響で、経営全体の秩序が乱れたり損失を生じるおそれもある。
 そのため、使用者の意思に反するビラ貼り行為は原則として法律上保護に値しないと考えるべきで、それが保護に値するといえる特段の事情がある場合に使用者が不当にこれを妨げた場合、支配介入に該当すると考える。
(2)本件でX組合は使用者たるY社の意思に反してビラを貼ったため、Y社がこれを撤去した行為は、特段の事情無き限り適法である。
 そこで以下特段の事情の有無につき検討する。
ア、そもそも労組法が支配介入を禁止した趣旨は、労働組合を使用者から独立させ、対等に交渉等をできるようにすることで、もって労働者の地位を守るという点にあると考えられる(同法1条1項参照)。そして労働協約もこの趣旨に合致して解釈適用されるべきである(同法14条)。さらに、同法7条3号但書が最小限の利益供与を使用者に認めたのは、その程度であれば労組側に不当な支配力は及ばないと考えられる上、労組の運営上利益となるためと考えられる。
 そこで、労働協約でビラの貼付を認める場合、その内容が使用者にとって不利なものでも、それが労組として正当な行為であるならば、特段の事情があるというべきである。
イ、Y社は本件ビラ撤去を本件労働協約29条に基づき行った旨主張する。しかし、X組合としては、本件ビラ貼りはY社の団交拒否を理由とするものとしている。
(ア)労働組合の組合員の賞与査定の問題は使用者側が大きく支配し、関与することのできる事柄で、義務的団交事項に当たる。これを理由とする団交を拒否することは、「正当な理由」がない場合不当労働行為に当たる(労組法7条2号)。
(イ)本件でX組合はその組合員Aの賞与についてY社に団交要求したが、Y社はこれを拒否した。本件労働協約51条にあるように、苦情処理員会の非公開性秘密性からして、十分な判断が適正になされたものとは言い難いから、Y社はAの苦情処理委員会での一連のやり取りをもって上記「正当な理由」とは言い得ない。
 よってY社は義務的団交事項の団交を「正当な理由」なく拒否しており、これは不当労働行為に当たる。
ウ、したがって本件ビラはY社の不当労働行為を伝える労組として妥当な内容のものであるから、上述の労働協約の解釈適用指針からして、これを本件労働協約28条のものと扱ってはならない。
 Y社は本件労働協約27条によりX組合にビラ貼りを包括的に認めているところ、本件ビラは同28条に当たらず、29条により撤去できない。
 よって本件では上記特段の事情がある。
3、以上より、Y社の本件ビラ撤去行為はX組合への支配介入に当たる不当労働行為である。
 X組合はこれを理由に上述の救済を求めることができる。
第2、設問2
1、X組合は、本件チェックオフの中止が支配介入に当たると主張して、労働委員会にポストノーティス等の救済命令等の申立、裁判所に対してはチェックオフの有効継続を前提とした契約関係、地位の確認請求、損害賠償の請求、これらに先立って仮の地位を定める仮処分等を求めることができる。
2、では、その前提として、本件チェックオフの中止は不当労働行為たる支配介入に当たるか。
(1)たしかに本件X組合とY社間のチェックオフ協定も本件労働協約の一部であると考えられるところ、Y社は適式にその解約手続を履行している(労組法15条4項3項、14条)。
 よって本件チェックオフ中止は支配介入には当たらないようにも思える。
(2)ア、もっとも、適式な手続を経ていても、その経緯や目的、労働組合や労働者への影響等からして、信義則上(労働契約法3条4項)支配介入に当たると考えられる場合もある。
イ、本件でY社は上述のビラ撤去等やAの団交についてX組合と対立しており、そのような状況下でなされた本件チェックオフ中止はX組合へのY社の不当労働行為意志を強く推認させる。このことは、X組合とY社は本件労働協約に定めを設定していなかったのにもかかわらず、いきなり解約を申入れていることからも認められる。
 このような事情を踏まえれば、本件チェックオフ中止はY社がX組合へ不当な支配介入としてなしたものといえ、不当労働行為に当たる。
3、以上より、X組合はこれを理由に上述の救済を求めることができる。

以上

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