日大ローR5年度第一期民法答案
第1,設問1
1,XはYに対して所有権(民法(以下略)206条)に基づく返還請求として乙建物収去甲土地明渡請求をすることができるか。
(1)Xは甲土地を所有しており、Yは乙建物を建てることによって甲土地を占有している。
(2)177条の趣旨は不動産物権変動につき登記を要求することで、その権利の所在を明確に公示し、もって不動産取引の安全を図る点にある。
したがって177条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、当該不動産物権変動の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
(3)本件でYは当事者及びその包括承継人以外の者ではある。しかし、Yは甲土地につき何ら占有権原を有さず、所有者Xに無断で乙建物を建てて甲土地を占有している不法占有者に過ぎない。
よってYは上記正当な利益を有するといえず、177条の「第三者」にも該当しない。そのためYはXに、甲土地の登記の有無について争う旨主張して上述のXの請求を拒むことはできない。
2,以上よりXはYに対して上述の請求をすることができる。
第2,設問2(1)
1,XはZに対して、所有権に基づく返還請求として乙建物収去甲土地明渡請求をすることができるか。
(1)Xは甲土地を所有しており、甲土地には乙建物があり、これによる占有があることから、かかる請求は認められるようにも思える。
(2)もっともZは自身の知らない間に乙建物の登記名義を移転されていたにすぎない。このようなZを請求の相手方とするのは酷ではないか。請求の相手方が問題となる。
ア、物権的返還請求権の本質は、物権の排他性に基づくもので、占有による物権への不当な制約を排除して、権利者にその物権を行使させようとする点にある。
したがって占有者が請求の相手方となるべきであり、地上の建物の登記名義人に過ぎない者は、請求の相手方とはならない。
イ、本件でZは上述の通り自己の知らない間に乙建物の登記名義を移転されたにすぎない。Zが乙建物を利用する等して甲土地を占有しているといった事実も認められない。
よってZは登記名義人に過ぎず、占有者ではないため、Xの返還請求の相手方として妥当でない。
2,以上より、XはZに対して上述の請求をすることができない。
第3,設問2(2)
1,XはYに対して、所有権に基づく返還請求として乙建物収去甲土地明渡請求をすることができるか。
(1)たしかにXは甲土地を所有しており、乙建物は甲土地上にあるから甲土地の占有も存するため、かかる請求はできるようにも思える。
(2)しかし、上述の設問2(1)で述べたように土地上の建物の登記名義人にすぎず、土地を占有していない者は請求の相手方とはならないところ、Yは本件で、すでに乙建物をZに売却してしまっている(555条)。そのためYはもはや甲土地上の乙建物の登記名義人にすぎず、乙建物を所有して甲土地を占有しているとはいえないので、YはXのかかる請求の相手方として妥当でないようにも思える。
(3)ア、もっとも、土地所有者が、不法にその土地上に建物を所有して占有している者に返還請求をする場合、登記名義人を占有者であると考えるのが上述の登記制度の趣旨からして通常である。また、逆に土地所有者としてはその建物の登記名義人への請求が認められないとすると、真の建物所有者を特定しなければならなくなり、不当な負担を強いられる事ともなる。さらに、土地上に不法に建物を所有することにより土地を占有していた者が、当該建物の所有権を他人に譲渡したのみで、未だその登記を有するのにもかかわらず、土地所有者からの請求を拒めると考えるのは妥当でない。
そこで、土地上の建物の名義人に過ぎない者であっても、当該土地にその建物を所有して占有していた者は、自己に登記が存続する限り、その所有権の喪失を土地所有者に対抗できないと考えるべきであり、その場合、土地所有者の請求の相手方となる。
イ、本件でYはもともと甲土地に不法に乙建物を所有して、甲土地を占有した者で、Zに乙を売却したとはいえ、その登記名義は未だYにある。
よってYは、この乙建物の所有権喪失をXに対抗できず、甲土地にはYによる占有が認められると考えるべきである。
2,以上よりYは相手方として妥当で、Xは上述の請求をYに対してできる。
以上
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