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害虫と世の中と理不尽(超短編小説)
世の中は理不尽だらけである。
僕はこんなことを考えながら、今日も寝床を出る。
窓からはかすかに月の光が差している。
もうじき僕の友達や家族も出て来る頃だろう。
お腹がすいた。まずはご飯だ。
僕は今日の食料を探すため、周囲のニオイに集中した。
かすかにごちそうのニオイがする。
どうやら今日のご飯はかなり遠くにあるみたいだ。
長距離の移動は危険が大きい。
怪我はもちろん、最悪命を落としかねない。
どうしよう。
もっと近くに食べ物が出て来るのを待とうか。
いいや、待ったところで食べ物が近くに来てくれるとは限らないじゃないか。
それにこの空腹。これでは食べ物が近くに来る前に死んでしまう。
ここは危険だが、ごちそう目指して移動しよう。
『やらないで後悔するよりやって後悔するべき』とも言うし。
僕は細心の注意を払って、ゆっくりと、物陰に隠れながら、ごちそうのニオイ頼りに足を進めた。
ただひたすらに歩いた。
いつもは見かける友達や家族は、誰一人として見かけなかったが、それどころではない。
ただひっそりと歩いた。
進むにつれて徐々にニオイが強くなっていく。
ごちそうまでは、あと少し。
ふと、ごちそうとは違う別のニオイ気が付いた。
「何のニオイだろう…。」
僕は何となく怖くなって、歩みを止め、物陰に身を潜めた。
すると、別の方向から弟がごちそうに向かって歩いて来るのが見えた。
ただ、先程のニオイは彼のものではない。
弟にもこのニオイのことを伝えるべきか…。
その時―。
あのニオイを放つ巨大な『ネズミ』が一瞬にして弟を連れ去ってしまった。
また家族が殺された。
これで何度目だろう。
弱いものは強いものに喰われる。弱肉強食。この法則に抗えない僕。
世の中なんてそんなもんだ。
今更こんなことを嘆いたところで仕方ない。空腹を満たそう。
ネズミのニオイが離れて行くのを待って、僕はごちそうに向けて、また進み始めた。
ネズミのことは昔父から聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。
よく見かける、クモよりもかなり巨大で驚いたが、良い経験になった。
ニオイも覚えられたし。
そんなことを考えながら歩いていると、やっとごちそうのニオイの発生源が見えてきた。
どうやらごちそうは小屋の中にあるらしい。それにしても、とても良いニオイだ。
僕は空腹の限界、勢い良く小屋に飛び込んだ―。
すると、足が急に動かなくなってしまった。
ネバネバとした気持ちの悪いモノが足にまとわりついて、とにかく動けないのだ。
必死にもがくが、やっぱり無理。
―罠だ。
ごちそうなんてどこにも無いし、近くには兄2人の死体が転がっていた。
僕も彼らのように、このままここで死ぬのだろう。
僕が何をしたというのか。
ただ空腹を満たしたかった、生きたかっただけなのに。
兄弟の死、そして自分の死―。
不幸というものは、ある日突然、何の見返りもなく突然やってくる。
そして僕らはこれに抗うことができない。
―世の中は本当に理不尽だらけである。