【赤色巡りレポ⑧-Part3】 八幡・橋本遊郭 【京阪の水運で栄えた色街】
橋本遊郭のレポート記事、第3弾は宿泊した多津美旅館と、食事したやをりきさん、そして橋本内で撮影した写真を掲載する。
※街並みを紹介したPart1はこちら。
※3軒の妓楼内部を紹介したPart2はこちら。
前Partでも掲載したが、橋本遊郭内の地図を再掲しておく。
多津美旅館(旧いろは楼)
多津美旅館さんは、旧いろは楼の建物を転用して、旅館として営業されている。
売防法施行後、橋本の元妓楼はそれぞれ飲食店などに転業したが、一部は淀川沿いの温泉を利用して、温泉旅館の道を選んだそうだ。多津美旅館はその一つ。
淀川の温泉は冷泉だそうで、湧いた水を温めて使っているらしい。
多津美旅館の外観は、他の妓楼と比べると一見シンプル。明るい色の外観が現代風だ。
大通り沿いの素晴らしいステンドグラスが特徴的。
この建物の中にこんな素晴らしい空間があることを、誰が想像できるだろう……。
玄関を開けると、飛び込んでくるのは素晴らしいステンドグラスとアーチ窓。
広い三和土は敷き詰められた泰山タイル。人が多く歩いたであろう部分は色模様が掠れており、その重ねた年月が魅力的だ……。
灯りや壁のタイル、ステンドグラスも華麗で贅が尽くされていて……唸ってしまう。
写真を撮っていたら、女将さんがステンドグラスに灯りをつけてくれた。うっとりしてしまう艶のある美しさ……。
ステンドグラスの右手には、二階へ上がる階段が。一般的な妓楼風の大きな階段だ。その奥には、洋風のガラスのはまったドア。
このドアの奥は食堂になっている。
私は素泊まりだったので利用しなかったが、食事付きのプランの場合はここで食べるのかな?今はもう素泊まりプランだけかもしれないが……。
ここもステンドグラスが美しく、玄関の三和土と高さが同じ。どうやら昔はダンスホールだったようで、玄関右のアーチがその入り口だったようだ。
旧加島楼と同じく、ここでまみえた娼妓と客が階段横の扉から出て、階段を登って行ったのだろう。
2階は打って変わって、老舗旅館風の和風な作り。というか、元は和風だったものを、赤線・遊郭の近代化に伴って改装し、1階を洋風にしてお客を呼んだのだろう。
遊郭云々を抜きにしても、渋い旅館の空間美が溢れている。
今回宿泊したのは、一番奥の大きな和室。立派なふた間続きで、昔は宴会などに使ったのだろうかと思われる造りだ。
多津美旅館はその和風の造りから、防犯の関係もあって、女性一人での宿泊は受け付けていないらしい。値段も安いため、工事関係の方などが泊まることが多いようだ。
この日は祝日で他にお客がいなかったからか、夫婦での宿泊だったからか、問題なく泊まることができた。
バルコニーは腐食していて危ないから入らないでね、とのことだったが、大谷川を挟んだ朝の風景は、眺めるだけで清々しい気持ちに。
ここで暮らした女性たちも、同じような風景を見ていたのだろうか……。
一泊での滞在だったが、素晴らしい空間を満喫させてくれた多津美旅館。
私はあまりこういう旅館に泊まったことがなかったので、ちょっと不安だったが、女将さんがとても良い方で、ストレスなく滞在することができた。本当に感謝している。
こういう旅館は建物も古く、いつまで営業されるかわからない。気になった方はできるだけ早く宿泊してみてほしい。
最後に大谷川の堤防から見た裏側を。
やをりき
橋本といえば、遊郭マニアの方から大人気のお店がこちら、「やをりき(矢尾力)」。
駅の真ん前に立つカフェー建築を転用して、洋食屋を営業されている。大正10年から続いているそうだ。
決してド派手ではないながらも、タイルなどのアクセントが効いた建物。
中に入ると、内部もすっきりとシックな、かっこいいデザインだ。
頼んだのはオムライス。ふわりと舌触りが良く、食べやすく美味しい。
付け合わせのサラダもとても美味しく、ポテトサラダにはさつまいもも混ぜてあるそうだ。
こちらもママさんが素敵な方で、ぜひまた訪れたい。
メニューも豊富で、昔ながらの美味しい料理を頂けるので、皆さんもぜひ。
おまけ
橋本は淀川と男山に挟まれた地形上、交通においても辺鄙な場所だ。水運時代ならまだしも、樟葉や枚方・高槻や伏見などの繁華街とは、今では一歩置いた独特の立地。
そんな場所にラブホテルの廃墟がある。遊郭内ではないが、こんな場所にラブホテルがあるのは、やはり橋本の歴史ゆえなのだろうか。
花街・遊郭跡にラブホテルが建つのは実は珍しいことではない。
やはり色は色を呼ぶということなのだろう。関西だけを見ても、テキサス大通りや坂出遊郭など、繁華街にはならずにラブホテルを有する土地になる場所も結構あるのだ。
廃墟などに興味がある方は、こちらも覗いてみるといいかもしれない。
フィルムを通して
私は普段、PENTAXのデジタルカメラで写真を撮影しているのだが、今回の橋本滞在は宿泊でゆっくりできることもあり、久しぶりに「写ルンです」で橋本を撮影してみた。
約20年ぶりに使う「写ルンです」だったが、フィルムならではのレトロな雰囲気が、橋本の風景によく馴染んでいる。
小さくコンパクトで持ち歩きにもいいし、これからも時々撮ってみたい。
赤色ポトレ
インスタを見て頂いている方にはお馴染みかと思うが、気に入った街では私が被写体になって、夫に撮ってもらうこともある。
橋本でも何枚か撮ってもらったので、最後に一部掲載しておこう。
勝手な感情移入だが、遊郭や花街というのはやはり「女」という記号があると、途端に空間としての意味を持ってくる気がする。
宣伝になるが、去年こういったポートレート風スナップを集めて、写真集「揺蕩」を作成した。
先の個展や遊廓文学マーケットでも販売したが、欲しいという方がいらっしゃれば声をかけて欲しい。
これにて橋本遊郭跡の赤色巡りレポはおしまい。
また新しい情報があれば、順次追記させて頂くこととする。