残高[インスタントフィクションその9]

立つ。歩く。笑う。走る。跳ぶ。泳ぐ。怒る。泣く。寝る。話す。聞く。掴む。蹴る。殴る。踏む。。。
何だってできる。私は持つものだ。満足を知らない。
私は問う。
「これが欲しい。これはいくらだい?」
擦り切れたフードを被った商人の口元に浮かぶ三日月から声が発される。
「いいものに目を付けなすったな。なかなかお目にかかることのできない逸品に出会えたあんたは、何かを持ってるかもしれんな。あんたの自慢の左腕でどうだ?」
「いいだろう、成立だ。」
私は意気揚々と歩き出す。
「また会ったな。なにかあるかい?」
「これなんかどうだ?今なら右足だけでいいよ」
「感謝する。いい買い物をしたよ。」

私は持たざる者だ。
私には何ができる?
愚問だな。私は何だってできる。
私は持たざる者だ。

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