ブラスバンドでの打楽器
ブラスバンドにおける打楽器は比較的新しい時代のものである。歴史を遡ると、ブラスバンド運動が起こった19世紀のバンドで演奏されていた曲はオペラなどクラシックの編曲ものが多く、それらの楽曲で打楽器が使用されることがなかったためだ。
19世紀末になるとヴォランティアバンド(義勇兵バンド)が発達し、行進曲を演奏する機会が増え、ブラスバンドオリジナルの行進曲も作曲されるようになった。行進しながら演奏する場合に必要とされたのが打楽器である。初期のブラスバンドではサイドドラム、バスドラム、シンバル(まれにトライアングルなども)が基本的な打楽器構成として普及した。
ただし、コンテストでの使用は1930年代以降認められるようになった。打楽器がブラス楽器の欠点や失敗を包み隠すことが可能であることが理由である。そのために現在でもマーチのコンテスト「ウィットフライデー」では打楽器の使用は禁止されている。理由は諸説あるそうだが。
ではそんな新時代のブラスバンドの仲間である打楽器はどのように演奏されるべきなのか。
特に古典的な作品ではバスドラムはベースラインの補強に使われるべきで、ベースの響きと調和するようにチューニングされるべきである。合わせシンバルでは音色が明るめで持続性があり、レスポンスの良いものが適しているとされている。小物楽器でメタル製や木製などの選択肢がある場合、音が明るくなるメタル製を採用してバンドに埋もれることのないようにする。(楽曲による)などなど。正直ブラスバンドでの打楽器の役割など情報があまりにも少なく、筆者の経験則も含まれることをご承知いただきたい。
いつの時代もどこの国でも打楽器と金管楽器のバランスについて議論されてきた。打楽器が金管セクションより音量が超えて良いとされるのが長時間のクレッシェンドや音楽的にそうあるべき箇所だけといわれている。パッセージでシロフォンなどの鍵盤が金管より大きく奏で、金管の不出来さを覆い隠すことが可能だが、音楽上好ましくない。そしてこれはあまりにも多く見かける。長大なクレッシェンドの果てにシンバルとティンパニやバスドラムなどのロールが派手に鳴り響くことは、ソプラノコルネットの突き抜けるハイノートと同じように効果的である。ただし、クレッシェンドの果てであるというところが重要だ。そのダイナミクスはシビアに考えるべきである。
他にも山のように打楽器と金管セクションとのバランスは考えられる必要があるのだが、それを理想的に実現するには「シビアな耳を持ち、ブラスバンドへの理解のある打楽器奏者」がいれば可能だが、指揮者や指導者が実際のホールでのバランスを整えることが最重要だ。ここがおろそかになると打楽器が金管を覆い隠し、音楽性に欠ける演奏となってしまう。また、日本においては反響板などで天井が極端に低くなっているホールが多く、しかも打楽器の配置される後方ほど天井が低く、鳴らした音はかなりダイレクトに観客席まで届く。ましてや、吹奏楽のステージのようにひな壇を設置してその上に打楽器を置くことさえある。その場合、打楽器奏者はかなり慎重にたたく必要がある。
金管セクションではよくppやffなどの音量変化に細心の注意が払われるのに、打楽器に対してそうされるのが少ないように感じる。
音色の色彩感に乏しいブラスバンドに華を添えられ、サステイン強化も可能な打楽器への理解と正しい役割での音楽への介入ができるよう、打楽器奏者も金管セクションも指揮指導者も努力することで、より素晴らしい音楽的な演奏ができるようになるだろう。
~打楽器の音色は金で買える~ by某プロ奏者