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「蒸発旅日記」 つげ義春
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2003年 ‧ ファンタジー/ドラマ ‧ 1時間 25分初公開 2003年6月28日
登場人物
津部義男 銀座吟八
須藤静子(看護婦) 秋櫻子
姐さん踊り子 清水ひとみ
ベレー帽の男 住吉正博
娘踊り子 藤 繭ゑ
列車の娘 タ沈(少年王者舘)
浴衣男A B 伊藤博幸樫山 圭
列車の中年男AB 飯島大介 近藤京三
日傘を持つ男 日野利彦
蓮池の女 石川真希
煙草売り女 稲川実代子
商人宿「新月」の
女性従業員 浜菜みやこ
旅人宿「極楽」の娘 林 裕子
商人宿「新月」の少年 七海 遙
紙風船少女 高野早苗
喫茶店「カリガリ」の
ウェートレス 木下真利
捕物男AB 斉藤太郎 福田作男
バナナ売りの女 西岡慶子
列車の婦人 和田幾子
住職 和崎俊哉
墓跡を探す男 田村高廣
シーン1
「津部の下宿部屋・夏」
風鈴の音。
開け放した窓から真っ赤に染まった夕陽が射している。津部の影がのびている。
どこかで盆踊り。『東京音頭』のレコードに合わせ て、太鼓の音が聞こえる。
窓際に机。漫画を描く道具が整然と並べられている。中央に真っ白なケント紙。青い鉛筆が転がって机の下に落ちる。コッチコッチコッチ・・・・・・中央の壁に巨大な柱時計が 立て掛けられている。斜めに傾いたその柱時計に、寄りかかるように津部が座っている。 傍に、睡眠薬入りの瓶が転がっている。津部の眼は空ろ、宙をぼんやりと見つめている。 窓から、闇が忍び込む。じわじわと、津部のいる方に寄ってくる。闇が津部の体に接触する寸前―「ぴー!」列車の警笛が大きく響き渡る。
シーン2「奇妙な列車・客車内」
トンネルの中。窓の外は闇。
津部が窓際の席に、一人座っている。
津部の声
「ありったけの金と時刻表だけを持って、列車に乗りま した」
シーン3「蒸発旅日記」
トンネルを抜け、パアアッと光が広がる。タイトル『蒸発旅日記』その文字の上を蠅の影が這う。
シーン121
静津 津部「…………」
静 子「ここもイヤになったらどうするんですか?」
静子「嘘です」
津部、眼をしばたかせる。
静子「(微笑み)あなた、正直な人ね。すぐ顔に出る」
津部「……………」
唇をとんがらせて抗弁しようとするが静子、人差し指で津部の口を押さえる
静子「ここもイヤになつたらどうするんですか?」
津部「・・・」
静子「今度はどこに蒸発するんですか?」
津部、動揺し、肩を落す。
シーン123「小さな駅のホーム」
色の消えたような画面。
遠くホームの端に立つ津部。
レールに映る自分の影を見つめる津部影のなかに赤い焔が燃えている。
津部の声「蒸発がいったん元に戻ってはおしまいだと思った」 彼方からピー! 汽笛が響く。
津部、音の方を振り返る。
津部の声「しかし自分のすべてを捨てて蒸発するってのはなんだろう」
ラストシーン124
青い部屋、或いは水底。
ていない。 裸の少年が尻を向けて寝ているが、もちろん糸は出少年の目をこすりながら起きる顔に、赤い唇の白い 面が横から重なっていく。
片目まで被ったまま、こちらをみつめている少年の 大写し。
津部の声「私はいま日々平凡な生活をすごしている。………………しかし」
#125
エンディングタイトルで終わる。
カルト漫画家・つげ義春の同名エッセイを映像化したもので、漫画作品のイメージも取り入れ、美術監督の重鎮・木村威夫による鮮烈な色彩と怪しげな映像空間が圧巻です「無能の人」の原作者つげ義春のエッセイ『貧困旅行記』の一編『蒸発旅日記』をベースに、他の著作漫画などのイメージやエピソードを加えて映像化。生活に変化を求めた漫画家の気まぐれな放浪の旅を、幻想的な描写を多用してノスタルジックに描く。監督はかつて寺山修司の美術スタッフとして活躍した「アンモナイトのささやきを聞いた」の山田勇男です。 ー物語ー
漫画家の津部は最近、日々の暮らしに捉えようのない行き詰まりを感じていた。そんな彼はある日突然、有り金全部と時刻表だけを持ち、自分の作品の愛読者だという、まだ一度も会ったことのない女性、静子のもとへ向かう。津部は彼女と結婚すれば新たな人生が開かれると思い込んでいた。そうして旅立った津部は、列車で若い娘と乗り合わせると、今度は彼女との結婚生活を夢想する。しかし、夜更けに目を覚ますと、彼女は既にいなくなっていた。やがて津部は静子の住む町へと辿り着くのだったが…。
「貧困旅行記」を土台 として、彼の漫画作品 「必殺するめ固め」 「初 芋狩り」 「西部田村事件」やエッセイ「猫町紀 行」などのイメージを散りばめるかたちで構成 された実写映画化された作品です。 本作は、2003年に制作・公開されたバージョンに新たなシーンを加 えて再編集された「ディレクターズカット版」もある。監督山田勇男は本作でも、彼の過去作 『ロンググッドバイ』や 『彗星』『彼岸花』 『黒猫ミヴァ』『ジュリーの涙』からフィルム映像およびスチル写真 が引用している。ファンタジードラマ。シュールなんだが、懐かしくもありこの時代のマンガ家は個性が際立っていた。
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日々鬱陶しく息苦しく、そんな日常や現世から、人知れずそっと蒸発してみたい――やむにやまれぬ漂泊の思いを胸に、鄙びた温泉宿をめぐり、人影途絶えた街道で、夕闇よぎる風音を聞く。窓辺の洗濯物や場末のストリップ小屋に郷愁を感じ、俯きかげんの女や寂しげな男の背に共感を覚える……。主に昭和40年代から50年代を、眺め、佇み、感じながら旅した、つげ式紀行エッセイ決定版。
1960年代後半 から1970年にかけて「月刊漫画ガロ」に掲載された。
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発表した諸作は、マンガ史の画期をなす。1987年以降、新作は発表していないが、2020年にアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を受賞するなど、その作品群は海外でも評価が高い。『つげ義春 夢と旅の世界』ほか一連の作品。
漫画家 「つげ義春」
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マンガ家。1937年、東京都生れ。小学 校卒業後、メッキ工場などで働き、1954 年にマンガ家デビュー。
日々鬱陶しく息苦しく、そんな日常や現世から、人知れずそっと蒸発してみたい――やむにやまれぬ漂泊の思いを胸に、鄙びた温泉宿をめぐり、人影途絶えた街道で、夕闇よぎる風音を聞く。窓辺の洗濯物や場末のストリップ小屋に郷愁を感じ、俯きかげんの女や寂しげな男の背に共感を覚えます。昭和ノスタルジーでしょうか。