「坂本順治」KT
台本をめくるとこと、ことわりがきがある。
「KY=金大中」 フィクションとドキュメントの境界
1970年11月25日 三島由紀夫のバルコニーからの「自衛隊は違憲なんだよ。一緒に起つ奴はいないのか」という声と共に自決したとのシーンから始まる。一年後の4月18日、ソウルで演説している金大中大統領候補。第二稿から決定稿は印象で言えば第二稿の方は日本公開用で決定稿は日韓用なのではないかと感じる。合作の場合どっちにも気を使うので、映画が切り口を失う場合がある。第二稿のラストシーン#194は決定稿では欠番になっている。ラストシーンは映画にはとても大事だ。
1973年に起こった金大中事件を題材にした2002年公開の日本と韓国の合作映画。中薗英助の『拉致-知られざる金大中事件』を原作としている。第52回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
監督阪本順治 脚本荒井晴彦
製作椎井友紀子 製作総指揮李鳳宇 出演者佐藤浩市 キム・ガプス チェ・イルファ筒井道隆
ヤン・ウニョンキム・ビョンセ
原田芳雄 香川照之 音楽布袋寅泰主題歌布袋寅泰
「FROZEN MEMORIES」
撮影笠松則通 編集 深野俊英
配給シネカノン
公開 日本 2002年5月3日
韓国 2002年5月3日
野党政治家の金大中氏(元大統領)が1973年、来日中に都内のホテルから拉致されたいわゆる金大中事件を題材にした韓日合作映画「KT」が、韓日で同時公開中された。映画には、在日韓国人2世の青年が金大中氏のボディーガードとして登場、物語の進行役を果たしている。KTとは、「金大中」のイニシャルからとった拉致暗殺命令「KT作戦」のこと。中薗英助の実録小説「拉致―知られざる金大中事件」が原作である
阪本監督は、『KT』なのかとの問いに、「サッカー・ワールドカップの日韓共催あつたりしても、このところにわか日韓関係が、全くの「空虚」にしか思えない。うわべだけの付き合いばっかりだ。そうではなく”政治的に意味合いのあるもの”を作ってみたかった。そこに(金大中)だからこそ意味があると思った」と話ている。また、「この事件は今まで金大中氏ひとりの証言しかなかった。この事件に関係したと見られる人たちの証言は何もないからこそ、 『もしかして』という、「仮説」を大胆に立てて、真っ向から事件と対峙したかった。そして組織の末端にいる人間の矛盾や苦悩する姿、挫折感みたいなものを描きたかったと強調している。映画では、金大中氏のボディーガードとして韓国語を話せない在日2世の青年が登場し、徐々に民族意識に目覚めるシーンを見て、当時の在日青年の民族に対する思いや祖国への関心がよく表現されている。あの時代の二世はあんな感じだったのと興味深げに感想を話す三世もいる。
阪本監督は、「もともと大阪出身なので、子どもの頃からいろいろな在日の人たちを見て育った。突然本名宣言した友人もいたし、いろんな差別も目の当たりにしたので、自分なりの”在日のイメージ”を持った。差別だけでは映画は撮影できないが、思うところはあった」と話す。阪本監督は釜山映画祭に参加し、また今回の撮影を通じて、韓国の映画人とも親しくなった。「韓国映画は今まさに黄金期。多くの可能性を秘めていてうらやましい」と、のちに韓国はアカデミー賞を取る。
映画は、韓日同時公開された。日本では高い関心を集め、25日から全国70館で拡大上映されることが決定した。
しかし韓国での関心はもう一つで、上映打ち切りを決めた劇場もある。最近の不祥事続きによる金大中大統領の不人気と、事件が日本人の視点で作られていて、韓国人から見ると真相究明が不十分と感じられたためと見られている。
第二稿のラストシーンは
決定稿のラストシーン#190は、1998年2月25日金大中大統領就任式のシーンで終わる。映画もいろんな事情や理由で完成するのである。このように拉致事件そのものは、映画でもほとんど史実に沿って描かれているが、フィクション部分でもっとも重要なのは、自衛隊の関与と船内での出来事についてであろう。自衛隊(正確には元自衛隊員)の関与については、新聞報道を通して明らかになっている。自衛隊内で情報関係の仕事に就いていた某隊員(劇中では富田満州男)は退官して興信所に入り、普段から付き合いのあった在日韓国大使館の1等書記官で、KCIA要員のキム・ドンウン(劇中では金車雲)から金大中の所在把握の依頼を受けた。ただ映画で描かれているように、朴正煕が満州の陸軍士官学校出身だからKCIAに協力するようにと自衛隊の上層部が促した部分や、満州男と韓国人留学生の女性との関係は完全なフィクションであるということも言われており、どこまでがフィクションか事実との境界が、曖昧になってしまうようだ。「仮説」と「フィクション」を極めて明確にしないといけない。むしろフィクションの方が、リアルな真実をえぐりだす事がある。
「これは金大中事件を元にしたフィクションである」とした方が良かったかもしれない。
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