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李在明氏襲撃事件から考える
能登半島地震によって亡くなられた方々にお悔みを申し上げますとともに、被災された大勢の方々にお見舞い申し上げます。
東アジア情勢についてお伝えしているこのnoteで、新年最初のトピックがこのような事件になるとは思ってもみませんでしたが、韓国の最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が1月2日に釜山で遊説中に刺されました。
国際的な比較は難しいのですが、個人的に、韓国は政治家らを狙った襲撃が多いように思います。そのあたりをコンパクトにまとめます。
事件の概要
李在明氏が暴漢に襲われた事件は捜査が現在進行形で、この記事を書いている1月3日午前中の時点で、まだよく分からない点が多いです。
それを踏まえたうえで概要をまとめると、李在明氏は2日に釜山にある加徳(かどく)島を訪れた際、男に襲われました。加徳島は日露戦争時に日本軍が砲台や弾薬庫を置いた場所でもあります。
凶器は刃渡り13センチの刃物でした。首を切りつけられた李在明氏はソウルに移送されて2時間を超す手術を受け、命に別状はないと伝えられています。
暴漢は忠清南道在住の66歳の男で、不動産仲介業を営んでいるとのこと。動機は明らかになっていませんが、「李在明氏を殺そうとした」と警察に供述しているので、殺意があったのは明らかです。
著名政治家と有権者の距離の近さ
李在明氏を切りつけた男の動機は今後分かってくるでしょうが、冒頭で書いたように、韓国は著名な政治家が襲われることが多いように感じます。少し例を挙げるだけでも、一昨年、大統領選挙期間中に共に民主党の宋永吉(ソン・ヨンギル)前代表が男からハンマーで殴られて後頭部を負傷。
保守派の政治家も狙われてきました。かつて朴槿恵(パク・クネ)氏がハンナラ党(今の「国民の力」につながる保守の最大政党)の代表を務めていた2006年に刃物で切りつけられてケガをしています。
韓国政治家とは違いますが、2015年には米国のリッパート駐韓大使が襲われました。
ソウルに駐在した経験からいうと、韓国は北朝鮮と対峙しているだけに大統領の警備は厳重ですが、ほかの著名政治家の周囲にSPの姿はあまり目にしません。今回の李在明氏襲撃事件を受けて、そうした「軽い」警備のあり方を見直すべきだとの議論も出始めています。
「街頭政治」
政治家を守る警備が「軽い」傾向になるのは、伝統的に韓国は政治家と市民の距離が「近い」ことの反映でもあると思います。
最終的には物理的な距離が近いことにもつながるのですが、より本質的には日本よりはるかに政治を我がごとと捉える人々が多いことがあります。「政治に意見したい」人が多いので、政治家の側もそうした有権者たちに近づいて密接なコミュニケーションをはかる必要があります。双方が近づくわけですね。
韓国における人々と政治の「近さ」は、例えば朴槿恵大統領の弾劾で、多くの日本人を驚かせたのではないでしょうか。真冬の凍てつくソウル中心部に、毎週末、何万人もの人たちが座り込んで朴大統領の辞任を求め続けた「ろうそく集会」。
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現場からの中継は、寒すぎて舌がよく回らないこともあるほどでした。
もともと、韓国は初代大統領の李承晩(イ・スンマン)からして国民の大規模抗議で退陣・亡命を余儀なくされた歴史があります。人々が路上に繰り出して政治を動かすのは「街頭政治」とも呼ばれます。
その呼称には否定的なニュアンスも含まれていますが、政治に対する「熱さ」は、少しばかり日本も見習うべきだと考えています。
日本での「抑圧」と「奇妙な寛容」
その日本も、歴史をたどると政治家が襲撃された事件が少ないともいえません。
一部軍人たちによる五・一五事件などはさておき、個人による犯行でみても、例えば1889年(明治22年)外相であった大隈重信は爆弾を投げつけられて右足を失い、1960年、社会党の浅沼稲次郎委員長は演説の檀上で刺殺されました。
これらは、著名政治家が襲われた事件の一部です。
もちろん、現代の私たちが最も衝撃を受けたのは一昨年7月に安倍晋三氏が奈良で銃殺された事件でしょう。
なので、政治家に対する襲撃が決して少なくはない日本と韓国です。
ただ、先に紹介したように政治家と有権者たちの距離は、まるで違います。それは心理的な距離感でもあり、警備態勢の違いからもたらされる物理的な距離感でもあります。
とくに、安部政権下では、遊説で人々が少しヤジを飛ばしただけで警察によって排除されるケースが目立ちました。裁判で警察の行為は一部違法だったと認定されもしましたが、警察の過度な警戒がますます政治と国民の距離を広げたといえるでしょう。
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