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金与正氏の「発信過多」
北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)氏が、文字通り連日の談話発表をしているニュース。拉致被害者家族の思いをもてあそぶかのような内容に不快感を覚える方も多いでしょうし、いったい北朝鮮指導部は何を考えているのかと訝しく思えますよね。
率直にいって、こうした情報戦の裏にある意図を正確に分析するには時間がかかるので、ここでは複数の可能性をお伝えすることにします。
①はじめから首脳会談に本気ではなかった?
身も蓋もないような話になってしまうのですが、時系列にみると可能性は拭えません。
直近の動きとして、3月25日、与正氏は岸田首相が「できるだけ早い時期に金正恩(キム・ジョンウン)総書記と直接会いたいとの意向を伝えてきた」とする談話を発表しました。
しかし、日本政府(林官房長官)が会見で「拉致問題は解決されたというのは全く受け入れられない」と述べると、すぐさま冒頭の記事のように「交渉を拒否する」と…
金正恩氏の代弁人的な役回りを演じる与正氏が2日連続で談話を出したのは、「発信過多」のように思えますし、話の振れ幅の大きさにも違和感を覚えます。日本政府が拉致問題を取り上げないはずがないと分かっているのに、この性急な言動は「はじめから本気でなかった」疑いを生じさせます。
昨年から、金正恩氏は「中国とロシアとの関係が良好なら、もうアメリカや韓国とは没交渉で構わない」という姿勢を鮮明にさせています。その延長線上で、日本と交渉する考えも最初からなかったのかもしれません。
また、与正氏の一連の談話が、一般的な北朝鮮国民の目に触れる媒体(労働新聞や朝鮮中央テレビなど)では報じられていないことも気になります。国民に「日本の首相が来るかもしれない」と伝えると、ある種の「期待値」が上がるのを避けたいように思えます。
②首脳会談に向けた駆け引き?
一方、こうした「振れ幅の大きさ」は北朝鮮の通常運転とみることも可能です。かつて金正恩氏は米トランプ大統領(当時)のことを「狂った老いぼれ」などと罵倒し、「必ず処罰する」と啖呵を切っておきながら、首脳会談へと向かったわけですし。
今回の与正氏の談話もそういう北朝鮮スタイルの外交術だとすれば、それは「日本との首脳会談はやりたいんだけど、その前に岸田政権を揺さぶって主導権を握りたい」という駆け引きの可能性があります。
いまふうに言うと「マウンティング」でしょうか。
駆け引きとしてみると、2月に書いた記事↓でも整理したように、実は昨年から日朝双方は「思わせぶり」な情報を発信してきました。
とりわけ日本側で盛り上がったのは、元旦に起きた能登半島地震に際して金正恩(キム・ジョンウン)総書記が見舞いを電報を送った際に岸田首相「閣下」という呼称を使ったこと。
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