韓国 核を保有せんとすれば
ここ数回、別のテーマについて記事を掲載したので間が空いてしまいましたが、朝鮮半島と核兵器の話に戻ります。
これまで3回にわたって「自前の核を保有すべきだ」という主張が韓国で改めて盛り上がりを見せていること、その背景として1950年からの朝鮮戦争にまで遡る歴史があることをお伝えしました。
今回は一連のまとめといいますか、現在の韓国が核保有国になると決断した場合、何が起きるかもしれないのか、皆さんと考えたいと思います。
(冒頭の写真は韓国国防部のHPより)
①朝鮮半島の緊張激化?
北朝鮮は秘密裏に核兵器開発を進めました。結局は米韓の情報収集や国際原子力機関(IAEA)の査察によってバレたわけですが、それでも相当な段階まで外部世界に知られることなく計画を進めることができました。
いや、北朝鮮に限らず、アメリカの「マンハッタン計画」がニューメキシコ州の辺境の地で進められたように、たいていの国は秘密裏に核兵器を開発してきました。
ちなみに、「マンハッタン計画」の舞台となったロスアラモス国立研究所が建設された場所では、33 世帯・約200人のヒスパニック系住民が農業を営んでいたのに、 一日で強制移住させられたそうです。
でも、現在は誰もがスマホを持ち、ネットに無数の書き込みや写真がアップロードされる時代です。
中国や北朝鮮くらいの強権体制なら分かりませんが、民主主義の国がこっそりと核開発を進めるのは無理です。ロスアラモスも、今なら土地を追われたヒスパニック系住民が怒り心頭でSNSに投稿して計画はたちまち露見するかと。
韓国は国土が広くないだけに、なおさらです。
しかも、核開発を進める予算を組む必要があります。結局、韓国政府は「核兵器国になる」と内外に宣言するほかありません。
となれば、国会では喧々諤々の議論が始まり、ソウルはじめ各地で賛成・反対の双方が大規模なデモを繰り広げるでしょう。
韓国の政界・社会で激しい論争が巻き起こることが問題なのではありません。むしろ民主主義が機能しているともいえます。
問題は、北朝鮮指導部が「指をくわえて南の動きを眺めていては、自分たちの核保有のアドバンテージが消えてしまう」と判断し、核開発を撤回させようと軍事的な圧力を一気に高めそうなことです。最悪の場合、戦争を引き起こしかねません。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、2月7日にKBSで放送されたインタビューの中で、独自の核兵器を持つことは「決心すれば時間は長くかからない」と述べました。
今の韓国の科学技術をもってすれば、迅速に核開発できると強調したわけです。去年には「1年以内に」と具体的な言及もありました。
ただ、本当に1年以内に核をつくれるとしても、その前に北朝鮮が極端な行動に出るリスクを考慮すると、1年以内が短いかどうかは意見が分かれそうです。決心する前に国会などで議論される日数も含めると、期間はもう少し長くなるでしょう。
②米韓同盟に亀裂?
アメリカ政府は一貫して韓国の核保有に反対してきました。後述するように、まるでドミノ倒しのごとく日本や台湾なども核保有へと走る「核ドミノ」を恐れているためです。
それでも韓国が核を持つと決断すれば、米韓同盟に深い亀裂が入るのは避けられないと思われます。「そこまで言うなら、自分たちだけで国を守ってね」と在韓米軍撤収がアメリカ政府・議会で俎上にのぼるでしょう(トランプ氏がまた大統領の座にいれば、なおさら)。
米韓同盟の揺らぎも、また、北朝鮮からみれば「攻める好機」に映るかもしれません。
一方、今回の一連の記事を書くきっかけとなった講演をした世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)韓半島戦略センター長は、「韓国が核を持てばアメリカとの軍事同盟はむしろ安定する」という考えです。
どういうロジックでしょうか。
そもそも韓国で核保有論がたびたび盛り上がるのは、「アメリカは北朝鮮との核戦争をも辞さない覚悟で韓国を守ってくれるのか?」という同盟への懐疑論です。
つまり、万が一、北朝鮮が韓国を核で攻撃したとき、アメリカはロサンゼルスやニューヨークに北朝鮮の核ミサイルが飛んでくるのを恐れて北朝鮮を核で攻撃しないのではないか、という心配です。裏を返すと、北朝鮮指導部にとっては、そういう展開が理想的です。
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