ROIC #1:ROE、ROAとの違い
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ROIC特集
#1:本記事
#2:基本的な計算式と簡易計算シート
#3:計算式の解説と留意点
味の素、荏原製作所、オムロン、日立製作所 —— これらの企業が経営する上で重視している財務指標があります。それが投下資本利益率(Return of invested capital、以下ROIC、読み:ロイック)です。
企業の稼ぐ力をはかる上で、総資産利益率(Return on assets、以下ROA、読み:アールオーエー)や自己資本利益率(Return on equity、以下ROE、読み:アールオーイー)などよく知られた財務指標があるにも関わらず、なぜROICが注目されているのでしょうか?
この解説シリーズではROICについて3つの記事にわたり、ROAやROEとの違いを踏まえた上で、計算方法や解釈の仕方を解説していきます。企業決算に興味を持ち始めた投資初級者の方にも大まかな内容をご理解いただけるよう配慮していますが、詳細を理解するためには損益計算書や貸借対照表などの決算書をある程度読めることが前提になります。これらは以下のマガジンにて記事をまとめていますので、必要に応じてご一読ください。
なぜ、ROICなのか?
ROICが一般の個人投資家にあまり知られていない理由
企業の稼ぐ力あるいはその効率性をはかる財務指標として有名なものには、売上高営業利益率、ROA、ROEなどがあります。とりわけROAやROEは資本効率というキーワードにより様々なメディアで取りあげられることが多く、一般の個人投資家にもよく知られていることでしょう。一方、ROICはどうでしょうか?この記事で初めて知ったという方も少なくないかもしれませんね。
なぜ、ROICの認知度が相対的に低いのでしょうか?裏を返せば、なぜROAやROEの方がROICよりも一般によく知られているのでしょうか?
それには色々な理由が考えられますが、最たるところは一般的なROAやROEの計算方法は単純であり、その計算に用いる数字についても決算短信などの書類からさほど苦労することなく探すことが出来るからでしょう。端的に言えば "お手軽に計算できる財務指標" なのです。
一方、ROICは分析の目的によって計算方法が異なり、計算者によって値が変わることがあります。また、計算に必要な数字を探すために有価証券報告書という分厚い資料を読み込まないといけないこともしばしばあります。
要するにROICは若干ハードルが高い財務指標なのですが、ROAやROEと比較して優れた特徴があるので、冒頭でご紹介したとおりに最近ではROEではなくROICを経営指標のひとつとして重視する企業も増えてきました。
ROICは古くて新しい話題
もっともROIC自体は、私が知る限りで2000年頃から既に日本企業でも使用例があり、古くて新しい話題でもあります(例えば日本ユニパックHD、現・日本製紙)。ただ、当時は一部の企業がROICを使っているだけで、東京株式市場あるいは日本の企業経営においてROICが今ほど注目されることはありませんでした。
その後、ひとつの転機になったのは2014年に経済産業省がまとめた報告書、通称「伊藤レポート」です。「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」と題したプロジェクトの最終報告書である伊藤レポートでは、当時の平均で5%を割る水準だった日本企業のROEについて「最低限8%を上回るよう努力すべきだ」と主張しました(報告書はROEに主眼を置いていますが、ROICの重要性も一部で語られています)。
この時、ROEの認知度向上に伴い「資本をいかに上手く使って稼ぐか?」という資本効率が市場のキーワードになりました。これは、売上高1兆円、2兆円という金額ではなく、利益率で評価しようという投資家の目線が変化するきっかけになったと言えるでしょう。
ROEは前述のように計算がしやすく、伊藤レポートで書かれているようにグローバルに通用する指標ではあるのですが、指標に関する解釈の問題などを抱えていたことにより「ROEだけ良くてもダメだよね」という認識が徐々に広がってきたように記憶しています。
そんなとき、2017年に出版された以下の書籍が注目を浴びます。
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