資本コスト(WACC)とは?計算方法と注意点
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レーザーテック11%、安川電機9%、味の素約6% —— 何の数字か分かるでしょうか?
上記は加重平均資本コスト(Weighted average cost of capital、以下WACC、読み方:ワック)と呼ばれる経営者、投資家の双方にとって重要な指標の数字です。
「WACC?聞いたことないけど」という読者の方も多いかもしれません。確かに、一般の投資家に普及している知識とはまだ言えませんが、東京証券取引所の低PBR改善という言葉なら聞いたことのある方が多いのではないでしょうか(PBRは株価純資産倍率のことで、株価を一株あたり純資産で割ることで計算出来ます)。
2023年3月、東証はプライム市場及びスタンダード市場の全上場会社に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。その際、分かりやすい標語として低PBR改善が市場の一大テーマになったことは記憶に新しいでしょう。コーポレートガバナンス・コード(下記注)の改訂で「資本コストを意識した経営」が盛り込まれた2018年当時から資本コストの重要性は説かれてきたのですが、2023年にようやく一般の投資家にも知れ渡ったと言えます。
注:コーポレートガバナンス・コードとは、経営者に対して様々なステークホルダーと協働し、中長期的に企業価値を向上させることを促す指針のことです。コーポレートガバナンスは企業統治、コードは原則や指針を意味します。
PBRは個人投資家にも分かりやすい指標なのでよく話題になりますが、本質的に重要なのはPBRではありません。資本コスト及び投下資本利益率(Return on invested capital、以下ROIC)です。資本コストやROICをきちんと考えて経営を行い、それが市場から評価されればPBRは1倍を上回るでしょう。あくまでPBRは結果としてついてくるものと理解しておくと良いと思います。
ここで、資本コストとは何でしょうか?「資本」という言葉だけで何やら難しそうな雰囲気が漂いますが、簡単に言えば、お金を貸してくれる銀行などの債権者と出資をしてくれる株主などがその企業に対して期待する見返りに相当するコストのことです。
資本コストという言葉が一般に使われる場合、それは全社に対して使われるため(事業毎ではない)、その際の資本コストをWACCと呼んでいます。そのWACC以上の利益率(ROIC)を実現出来ているかどうかが、投資家目線で本質的に重要な投資の判断材料です。
逆に経営者から見れば、WACCを推定することによって債権者や株主の期待度をはかり、その水準以上に資本効率を高めていくという重要な経営管理指標になります。
いくら経営者が「ROICを6%から10%に改善したぞ!」と言っても、WACCが15%なら債権者や株主の期待に応えられていないことになりますし、極端な話、経営者が解任されてもおかしくありません。経営者と債権者及び株主の認識に乖離が生じないためにも、資本コストを意識した経営が求められます。
また、WACCは企業価値評価においても重要な役割を果たすため、PERやPBRなどの表面的な数字ではない、きちんとした企業価値の考え方を身につけたい方に必須の知識と言えます。
私のメンバーシップでは、これまで財務諸表の見方やROICについて解説してきました↓↓
そして、この記事ではWACCに焦点を当て、その意味や計算方法、注意点等を可能な限り分かりやすく解説します。このWACCの説明が終われば、いよいよ企業価値評価の本丸であるディスカウント・キャッシュ・フロー法の説明に入ります(2024年8月に記事アップ予定)。
なお、ドクタープラン以上のメンバーさんに向けて、7月27日(土)20時からのライブ配信でこの記事を解説します。ライブ配信用URLなどの詳細は別途メンバーシップの掲示板でお知らせしますのでしばらくお待ちください。
24/11/9 追記)
「簡易的でもいいからまずは計算してみたい!」という方向けに簡易計算シートをメンバー向けに配布しています。こちらの記事からアクセスしてください。
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