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地域のつむぎ手の家づくり| 新潟で進む100年後を見据えた“地材地建”のまちづくり <番外編/石田伸一建築事務所×新潟土地建物販売センター×スノーピーク>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。
今回は<番外編>として、新潟県のつくり手の協業事例をお届けします。

今回のつくり手コラボ事例は・・・


木材など地域産の材料を使用し、地域のつくり手によって地域の人たちのための住宅や建物をつくる“地材地建”のまちづくりが、新潟県新潟市の和納地区で進められています。

同県三条市に本社を置くアウトドア総合メーカーのスノーピーク石田伸一建築事務所(新潟市)、新潟土地建物販売センター(同)の3社が、協業により、同地区の約6600坪を34区画の分譲地や賃貸住宅などで構成する住宅街「野きろの杜」として開発。「みんなで100年後の未来を見据えたまちをつくろう」とのコンセプトを掲げ、街並み(景観)を守り、コミュニティー形成を促すためのガイドラインや建築協定を策定しています。

「野きろの杜」の上空からの写真。右に見えるのは弥彦山。天気が良い日には一望できる
「野きろの杜」完成イメージ

野きろの杜開発プロジェクトでは、新潟土地建物販売センターが不動産開発と企画管理を担い、石田伸一建築事務所が建築のグランドデザインや共有空間のデザインを手がけています。スノーピークは、住宅・暮らしに「野遊び」の要素を取り入れるアウトドアリビングや広場の監修を担当しています。現地では、地域の工務店によるモデルハウスの建築が進められています。

同プロジェクトは、新潟土地建物販売センターの川上創さんが発起人として2019年に構想を立ち上げ、「15年来の付き合い」という石田伸一さんに相談しながらスタートを切りました。その後、コロナ禍のなか2020年の5月、スノーピークが、工務店やデベロッパーとして連携して身近に自然を感じられる暮らしや住まいを提案する「アーバンアウトドア事業」の一環として参画しました。同社営業部の王治菜穂子さんは「(自社が)まちづくりに携わるのは3回目だが、これまでで最も規模が大きい」と説明します。3社で協議しながらコンセプトや建築協定、ガイドラインを定めました。

昨年行われた「まちびらき・見学会」でテープカットする、左から石田伸一建築事務所の石田さん、新潟土地建物販売センターの川上さん、スノーピークの王治さん


林業の活性化に貢献
地域価値を面的に高める

石田さんは、独立前の住宅会社で分譲開発事業に携わった経験も踏まえて「普通に開発すると統一感のない街並みができることは明白」とし、「野きろの杜では“地材地建”にこだわった。マテリアル(素材)とテクスチャー(質感)をそろえることで、整った風景をつくり出すことができる」と強調します。

石田さんは「外壁に新潟県産のスギ板などを用いるようにしたのは、衰退する県内の林業を活性化させたいという想いもあったから。川下(森林)から川下(住宅・まち)までをつなぎ、森を守りながら街並みをつくるというプロジェクトは、100年先を見据えた取り組み。その想いに多くの工務店や設計事務所が賛同してくれた」と語ります。

「100年後を見据えた地材地建のまちづくりを進めていきたい」とビジョンを語る石田さん

川上さんは、石田さんに相談する前は、まちづくりに対して「今とは180度、違った考え方をしていた」そうです。約6600坪ある敷地の収益的なポテンシャルを最大化するため、スーパーやドラッグストアなどの商業施設を誘致しながら、宅地エリアは建売分譲を想定して計画を具体的に進めていました。

川上さんは「当初のプランの方が不動産事業者としては採算性が高く、事業的なリスクも低い。だが、石田さんに相談しながら、一歩立ち止まって考えてみた時、これが地元に本当に必要なのか、まちの魅力でもある田園風景と調和するのか疑問に感じてきた」と振り返ります。「前例のない挑戦だが、未来の地域を見据えたコンセプトやグランドデザインを定めることで、地域の魅力や質的価値を点ではなく面で向上させることができる。建てて終わりではなく、建ててからが本当の始まり」と意欲を燃やしています。


G2・耐震等級2以上が条件
外壁は原則スギ板を

野きろの杜は、約6600坪の敷地を分譲戸建てや賃貸で構成する住宅エリア、ショップやイベントスペースで街区住民と地域住民が交流するコマーシャルエリア、宿泊体験ができるゲストハウスエリアの3つにゾーニングされています。

住宅エリアの分譲地では、完成した石田伸一建築事務所と工務店のサルキジーヌ(新潟市)によるコラボ、オフィスHanako(同)、丸正建設(同)による3棟のほかにも、今後、石田伸一建築事務所の単独や設計事務所・エヌスケッチ(同)、坂本建築設計事務所(長岡市)、イイヅカカズキ設計事務所(三条市)のモデルハウスが続々と建てられる予定で、残りの区画についても複数の地域工務店による進出計画が具体化しているそうです。

住宅エリアを対象に設けられた建築協定では、性能や意匠、外構などについての条件が定められており、断熱性能はHEAT20・G2以上、耐震性能は許容応力度計算による等級2以上としているほか、構造は木造とし新潟県産材か千曲川・信濃川水系の木材を使用するよう求めています。外壁については窯業系・金属系のサイディングの使用を禁止とし、原則はスギ板で塗り壁も選択できるとしています。

外壁は原則としてスギ板材

石田さんは「近い将来、日本の家づくりで断熱性能はG2が標準的になっていくのは間違いない。ハード面でも未来のスタンダードをつくっていきたいと考えた」と話します。


「野遊びできる家」も条件に
ウッドデッキや土間など必須

スノーピークの監修により、家にいながら自然を楽しめる「野遊びできる家」というコンセプトが盛り込まれているのも野きろの杜の特徴の1つです。ウッドデッキや土間リビング、庭の3要素のいずれかを取り入れることを求めています。

ウッドデッキは雨天時でも使える一部庇付きの屋外空間で面積13㎡以上が条件。土間リビングは、石やタイル、洗い出し・たたきといった仕上げの面積10㎡以上とし、ゲストを招きやすい道路側に配置したうえで、屋外空間と一体的に使えるように幅2.5m以上の掃き出し窓か全開口窓を確保することを条件としています。庭については、面積13㎡以上で、季節感を演出する針葉樹の植栽を推奨し、できるだけ1階の多くの場所から庭の風景を眺められるような設計にするよう求めています。

スノーピークの王治さんは「日常に野遊びのある暮らし、自然とつながる暮らしを実現できれば、より多くの生活者にライフバリューを届けられる。人間性を回復することでより豊かな暮らしが実現できると考え、住空間やコミュニティづくりのあり方を提案した。今がやっとスタートラインに立ったところ。継続的に携わっていきながら、当社が培ってきたノウハウを活用し、体験価値を提供していきたい」と力を込めます。

住まい手や地域住民が交流できるコマーシャルエリア(1800㎡)には、広場をL字型に囲みアウトドアキッチンや焚き火台を備える「Life Site 野きろ」を配置。野遊びを通じてコミュニケーションできる場となっています。

住まい手や地域住民が交流するコマーシャルエリアに広場をL字型に囲むように設置した「Life Site 野きろ」

そのほかにスノーピークのショップや花屋などが入る「Mall Site 野きろ」も整備しました。

スノーピークのショップや花屋などが入る「Mall Site 野きろ」


工務店や大工も交流
施工ノウハウなど共有

野きろの杜のまちづくりの“スターター”で、モデル事例となった住宅の建築にあたり、石田さんは参画したオフィスHanakoに対して、地域産材を用いた高性能な家づくりのノウハウを惜しみなく提供しました。同社は、建築の条件に盛り込まれている無垢のスギ板を使った家づくりの経験がなかったためです。

『ハナコの家 野きろの杜モデル』(木造2階建て・延べ床面積96.07㎡)をオープンした同社営業の後藤理沙さんは「普段は窯業系サイディングを使っているが、今回初めてスギ板を用いた。(石田さんには)納まりの図面を提供してもらっただけでなく、現場に来て施工方法までレクチャーしてもらった」とし、「この場所に住む人たちの前に、携わる工務店や大工などつくり手同士のコミュニティがすでにできている。そういった意味で本当に“つながりを育むまち”だと実感した」と話します。

オフィスHanakoのモデルハウス

同社と同じく、まちのスターターとなるモデルハウス(木造2階建て・延べ床面積100.20㎡)を建てた丸正建設社長の古俣忠孝さんは「一般的に分譲地は収益を最大化したい不動産屋が可能な限り小割にして販売するのが当然なのに、今回はその真逆を行くとも言えるやり方で、和納らしい家づくりや暮らしを目指す高い志に共感して真っ先に名乗りを上げた」と力を込めます。等級3(許容応力度計算)の高い耐震性を確保したうえで、県産の「安田瓦」を採用するなど地材地建を具現化しました。

丸正建設のモデルハウス

石田伸一建築事務所がサルキジーヌとコラボして建てたモデルハウス(木造平屋建て・延べ床面積89.43㎡)も安田瓦を採用しながら、構造材のほか内・外装材に県産「魚沼杉」をふんだんに用いて素材が持つ美しさを最大限に引き出すシンプルなデザインとなっています。内部は「現代版の土間空間」をコンセプトとして、用途を限定しない構成とし、薪ストーブを設置しました。 

石田伸一建築事務所×サルキジーヌのコラボモデルハウス


賃貸住宅も高性能化
工務店の家づくりPR

現在、「賃貸住宅でも快適な住環境を体感してもらい、工務店が提供する高性能な家づくりへの理解を深めてもらおう」との目的で、メゾネットタイプ8戸の賃貸住宅「Maison Site 野きろ」の建設が進められています。

設計は石田伸一建築事務所、施工は東海企業(新潟市)。戸建て住宅と同じ建築協定やガイドラインにが適用されていて、断熱はHEAT20・G2レベルのUA値0.34W/㎡K(5地域)の性能。窓にははYKK APの高性能トリプルガラス樹脂窓APW430を採用しています。家賃は管理費込みで9万5000円。3月中に完成する予定です。

今後、継続的なコミュニティ運営をしていくために組合をつくり、分譲・賃貸いずれも月額7000円の積み立てを行うそうです。将来的には3社で運営法人を立ち上げる計画です。


文:新建ハウジング編集部









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