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地域のつむぎ手の家づくり|未来に紡ぐ伝統構法・石場建ての家 <vol.32/木ごころ工房:静岡県周智郡>
【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。
今回の<地域のつむぎ手>は・・・
素材の魅力を大切にした、その地域の風土に合った住まいをつくり続けている、木ごころ工房(静岡県周智郡)。代表の松村寛生さんは、ログハウスのビルダーから始まり、古民家再生にもたずさわる中、「家」というものをもう一度見つめ直し、「安心して暮らせる家の答えは、数百年生き続ける日本の民家にある」との答えにたどり着いたそう。そこで、地元の木を使った木組みや石の上に柱を立てる伝統構法石場建ての家づくりに取り組み始めました。
石場建てとは、コンクリートの基礎を使わず、地面に敷いた礎石(そせき)の上に柱が乗っているだけの構造です。家の床下から屋根まで、釘や金物に頼らず木組みそのもので建つ家は、木の特性を見極め丁寧に加工し組むことで、粘り強い構造になり、風通しのよさやメンテナンスのしやすさなど、日本の気候風土に合った工法で、社寺や民家が何百年もの時を経ても現存することがその証だと考えます。
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伝統構法の住まいをみんなでつくる
日本で受け継がれてきた伝統構法の建物に習い、できるだけ自然にある地元の木や素材を使い、今の暮らしに合わせて住まい手が永く心地よく暮らせること。そして家として役目を終えたものはやがてすべてが土に還ること。人にも環境にも負荷を与えない家づくりが、100年200年先まで続く暮らしにつながると思い、家づくりを行っています。また、地域で【結】というカタチで家づくりが行われていたように、土壁づくりなど多くの手で適期に進める仕事は仲間や友だち、つくり手と住まい手みんなで参加し、楽しんで家づくりをしています。
木組みの柱と貫の間に竹小舞を編み、そこへ土に藁をたっぷり混ぜ、練った土を荒壁、中塗り、仕上げという工程で進めていきます。乾き具合を確認しながら、反対側からも土を塗り、じっくりと時間をかけて強い壁になっていきます。土壁のメリットは、壁が呼吸をするということ。調湿性・蓄熱性を兼ね備えているため、高温多湿の日本に適しているということが梅雨時期に顕著にあらわれるといいます。
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家づくりに携わることでさらに愛着も増す
また、木の家の良さ、木組みの伝統技術を継承し、多くの人に伝えたいと静岡県西部の大工職人が集まる「木遊舎」にも所属し、それぞれの匠の技を連携しながら家づくりを行っています。
手刻みを始めとした大工の職人技や、木本来の特性を生かした木組み、本物の素材を用いた、住むほどに愛着と経年美が増す住まいづくりを伝えるため、土壁塗りの体験や地域の古い建物のリノベーション、天竜材を使いジャングルジムを組む「くむんだー」のワークショップなど、小さな子どもから大人まで参加できるワークショップなども行っています。
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さまざまなイベントを行っている。
これは天竜材を使ったジャングルジム「くむんだー」
自邸で木組みと自然に還る素材のよさを伝える
一本一本手刻みし、木組みで建てる伝統構法の住まいの魅力と力強さ、安心感をこれまでの家づくりで確信している同社の松村代表。2019年に建てた自邸でも伝統構法石場建ての魅力を伝えています。板張りの外壁に伝統のいぶし瓦、石場建ての足元は、その地にずっと建っていたかのような佇まいです。2階のLDKからは西に広がる田園風景をパノラマで望むことができます。
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引き込み式の大開口からはたっぷりと光と風を取り込める
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今でも職人の手仕事でだるま窯を使い、1枚1枚丁寧につくられている
地域で手に入る材料を使い、やがては土に還るという循環する家に、これからも取り組んでいきたいと松村代表は話します。
文:「和モダン」編集部
写真:原常由、木ごころ工房提供