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5年が経ち、思うこと〜津久井やまゆり園の事件から〜

ちょうど1ヶ月前の7月26日。津久井やまゆり園の事件から5年が経ちました。障害福祉で働くものとして、この事件は決して忘れてはいけない事件です。優生思想、入所施設のあり方、元職員が起こした背景、入所する障害のある人と家族の想い・事情など、事件を取り巻くことは複雑に絡み合っていて、ひとつひとつを深く考えて読み解く必要があります。ただ、僕にはきちんと語るだけの知識や経験は足りていません。でも、17年間、この業界で働かせてもらったものとして、5年経ったこの事件について自分なりに思うことを書いておきたく、まとまりない文章になってしまいましたが、読んでくだされば嬉しく思います。

元職員が起こした事件

まず、押さえておきたいことは、加害者は元職員であるということ。元々は友人に誘われ、非常勤として採用された後、常勤職員となっています。加害者は、小学校の先生を目指して教員免許を取得しており、障害者施設でボランティア経験もあったようです。

事件を起こした植松死刑囚の横浜地裁判決の「証拠上認められる前提事実」によると、植松死刑囚は、津久井やまゆり園に勤務し始めたころは障害者を「かわいい」と言うことがあった。しかし、「職員が利用者に暴力を振るい、食事を与えるというよりも流し込むような感じで利用者を人として扱っていないように感じたことなどから、重度障害者は不幸であり、その家族や周囲も不幸にする不要な存在であると考えるようになった」などとしている。
*引用:毎日新聞(連載)https://mainichi.jp/articles/20200905/k00/00m/040/002000c

後にも書きますが、やまゆり園では身体拘束と虐待が日常的に繰り返されていたようで、障害のある人を人として大切にされていたかというと、そうではない職場環境であったように思います。「生きる価値がない」「不幸な存在」と思わせてしまった背景には、施設運営の課題が大きくあったのではないでしょうか。


後を絶たない施設での虐待

厚生労働省の調査によると、障害福祉施設従事者等による障害者虐待(令和元年度)は、相談・通報件数が2,761件あり、虐待判断件数547件、被虐待者数734人となっています。
障害者虐待防止法では、虐待が疑われるものを発見した人には通報する義務が定められていますが、実際は全てが通報されているわけではなく、通報にまで至らないケース、あるいは通報しても市町村が虐待と認定しないケースもあり、厚生労働省の虐待件数は氷山の一角と言われています。
障害のある人の人権と権利擁護の観点で考えれば、虐待は許されるものではありませんし、虐待はゼロにすべきです。虐待が減らない背景には、いわゆる「強度行動障害」とされる重度の知的障害や自閉症の方のパニック行動への適切な対応(支援方法や環境の調整方法など)が分からずに、力で抑え込む間違った対応が虐待につながっているケースは多いようです。
虐待が減らない背景には、働く職員の専門性の質の低さや施設経営者の問題意識の低さ、ヒヤリハットや人材育成の仕組み化ができていないなど、十分に体制整備されていないことも要因としては大きいように思われます。

2020年(令和2年)5月、津久井やまゆり園利用者支援検証委員会(中間報告書)は、以下のような検証結果を記載しています。

・身体拘束を行う場合は、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があるが、24時間の居室施錠を長期間にわたり行っていた事例などが確認された。この事例から、一部の利用者を中心に、「虐待」の疑いが極めて強い行為が、長期間にわたって行われていたことが確認された。
・長時間にわたる居室施錠を行っていた事例、見守りが困難として定時で身体拘束を行っていた事例、1年以上身体拘束を行っていないにもかかわらず承諾書を取り続けていた事例などがあることから、漫然と身体拘束が行われていたと考えられる。
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/62352/r20518kousei01_2.pdf

利用者支援を検証する中で、身体拘束と虐待は常態化していたようです。これが、事件と関連がないとは言い切れないと思います。


袖ヶ浦福祉センターから学ぶこと

2013年11月、千葉県にある袖ヶ浦福祉センターで起きた傷害致死事件は、虐待した職員によるものでした。その後の県や警察の調査によると、同センターにある2つの施設「養育園」と「更生園」で施設内虐待が常態化しており、10数名の職員が数年にわたって関与していた事実も明らかになっています。千葉県はその後、有識者や関係団体等との検討の末、2022年度末までに廃止すると決めています。
つまり、県は入所施設をなくし、入所者全てを地域移行するという大きな決断をしたということになります。入所施設の解体や縮小は、各地で話題にはなりつつもなかなか「廃止」とはならないことが多く、今回の件は長年の議論と地域の協力・体制整備もあっての決断となったようです。
入所施設はどうあるべきか…。重度の障害のある人の地域生活はどうあるべきか…。支援機関や地域の人は、地域で障害のある人をどう支え、どのようにして共に生きていくか。…。
これを機に、改めて一人ひとりが考えたいテーマです。


入所施設はセーフティネット(最後の砦)

障害のある人が利用する入所施設は、全国に1,200あり、131,565人の方が入所されています(令和元年度の日本知的障害者福祉協会の資料より)。近年は、「地域移行」をテーマに施設の解体や縮小化の取り組みを進める入所施設もある一方で、現状を保つ中で運営継続をする入所施設が少なくないのも事実です。
本来、障害のある人は、地域で生まれ、地域で育ち、地域でその人らしく生きていくことが理想です。ただ、重度の知的障害や自閉症があることで意思疎通がうまくいかず、こだわりや重度の障害特性も影響して問題的な行動やパニックが抑えられないなどの状況になることは多く、一緒に暮らすご家族の負担は大きいものでもあります。
制度では、居宅介護や重度訪問介護などの福祉サービスが整えられていて、制度上では福祉サービスを使って地域の中で安心して生活することができる仕組みが整えられていますが、全国各地で福祉サービスを利用できる社会資源(福祉サービス事業者の質と量)はばらつきがあり、誰でも、どこでも、使えるサービスとなっていないのが実情です。
そのため、入所施設は、家族にとって「最後の砦」といった意味も含みます。行動障害があり、自宅で、地域で、ご本人と一緒にいることができない場合は、入所施設を選択せざるを得ない場合があることを、決して忘れてはいけません。


課題は、意思決定支援と理念浸透

津久井やまゆり園利用者一人ひとりには、言葉がない方であっても、重度と呼ばれる方であっても、一人ひとりそれぞれに尊重されるべき意思がある。今後、どのような暮らしを望み、どのような支援を受けたいと思うか、については、丁寧に時間をかけて、かつ、適切な手続きにより、意思の決定が支援されることが必要である。
2016年(平成29年)8月、津久井やまゆり園再生基本構想策定に関する部会検討結果報告書より
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/26354/894944.pdf

僕が偉そうにコメントするまでもないですが、上記報告書の内容はもっともな意見であり、ある意味、今さら確認するまでもない意見でもあります。

福祉の仕事をする上で、ご本人の意思を確認し、その意思に基づいてご本人の望むことを行う支援をするのは当然なことですが、重度の知的障害や自閉症、行動障害のある人の支援をする上で意思決定支援は難しさを極める場合があります。

ただ、これは個人的な思いですが、「意思を決定する支援」をすることは大層なこととせず、日常的に取り組むべきことであって、何を食べたいとか、誰とどこへ行きたいとか、何時にお風呂に入りたいとか、何して遊んだり楽しんだりしたいかとか、日々の関わりの中で自然と意思を確かめ続ける支援をするべきなように思います。

入所施設を利用するご本人の入所理由は、圧倒的に家族の希望で入所していて、グループホームに入所している方もほとんどが本人以外の希望で入所しています。
誰とどこで暮らしたいか?は、とても大きな意思決定です。制度上では地域で生活することができるように整っていますが、社会資源の不足等により入所施設を利用するしかないご本人の意思をどのように理解し、どのように充実感のある生活にするか…。
ここは、施設全体で取り組むべき課題ですし、望まない入所施設の利用であったとしても、支援者による最大限の努力と専門性でご本人のQOLを向上する必要があり、できるなら入所後の暮らしが地域移行等のより良くなる暮らしへと繋がることを地域福祉として取り組めると理想です。

ここでの項目は理念浸透と書いてますが、入所施設はどうしても閉鎖的な環境になりがちですし、山奥など人里離れた場所にある施設も少なくないですから、透明性のある施設経営とオープンで開かれた場所として運営されるよう、ノーマライゼーションの理念で運営されることを期待したいし、僕も日々の仕事の中で忘れないように努めていきたいです。

入所施設は、356日24時間の支援体制で成り立つ運営スタイルであるため、働くスタッフとの情報共有や理念共有する難しさはたくさんあるかと思います。でも、理念を全スタッフに浸透させることはとても大切なんだと思います。どうして入所施設がこの地域にあって、そこでの役割期待はどんなことであって、その役割はご本人のニーズとどう繋がっていて、この先施設はどうあるべきであって、本当に入所施設でないと解決できない地域課題なのかなど、ただ単に入所施設で働くだけでなく、その先の未来に向けて支援者は理念をもとに考え続ける必要があるように思います。



なんだか書いてるとたくさんの量になり、まとまりなくダラダラ書いてしまいました。やはりこの事件を通して感じることはたくさんあって複雑です。でも、こうやって考えたり書いたりして、勉強を重ねていかないといけないです。

拙い文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。


あらためて、亡くなられた19名の方々のご冥福を心からお祈りするとともに、ご遺族の皆さまにお悔やみ申し上げます。併せて、被害に遭われた全ての方々にお見舞い申し上げます。

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