本当の“患者さまファースト”
これまでいくつかの病院で勤務してきましたが、多くの場合、病院はその大小によらず職種や部署ごとに高度にセクション化されています。そうした構造がときに患者さんの都合よりも優先されることがあり、私は以前から気になっていました。
家族が病気になって、患者の立場としていくつかの病院を受診する中でも、より一層強く感じています。
例えば、既往歴やアレルギー歴といった質問を外来でも病棟でも、医師からも看護師からも、あるいは薬剤師からも、幾度となく聴取されたり、その上で大量の書類に名前と住所を繰り返し書かされたりします。さらには部署どうしの連携が取れておらず、ある部署で聞いた説明と別の部署でされたそれが食い違っていたりする、といったようなことです。
私も20年来、病院という組織の中で働いていますから、ある程度 仕方がない面があることは理解しています。しかし、システムや運用の見直し、改善によって、もう少しなんとかならないものか。“患者さまファースト”を謳う病院はたくさんあるけれども、果たしてそういった努力や取り組みがなされているのか、ときに疑問を感じていたのです。
ですから、心臓の手術を宣告されて不安で混乱しているはずの患者さんのことを考えたとき、「手術コーディネーター」の導入は欠かせないと考えました。外来から病棟、術前・術後にわたって窓口をコーディネーターに一本化することで、上述のような事態の解決につながるはずだからです。「困ったことや不明な点があるときは、いつでもコーディネーターにお尋ねください」というわけです。
さて、心臓手術のような大きな手術を受ける場合、前述の如く患者さんはたくさんの説明書類や同意書を手にします。専門用語が小さな文字でびっしりと書かれたプリントをバラバラと配られ、どの書類が説明書で、どの書類が同意書なのか、ぱっと見では分からない。どれを誰に提出すればいいのか、チンプンカンプン。これも何とかならんものか。
そこで茅ヶ崎中央病院・心臓血管外科では、必要な書類を受診のステージごとに3冊の冊子にまとめました。
外来で手術が決定したらお渡しする「外来編」、入院の日に配られる「入院編」、そして手術直前のインフォームドコンセントで使用する「手術編」の3部構成です。病院の都合でしかない部署や職種の壁を超えて、患者さんのそのときどきに必要な書類をなるべく一括で収載しています。
これらの書類を読むのは多くの場合、年配の方です。なるべく大きなフォントを使用し、図やイラストを多く盛り込んで読みやすさにこだわりました。
また、載せる内容も随時フィードバックしながら、更新しています。
こうした工夫は、当診療科が理念として掲げる「3つのC」の内のひとつ、“Comfort(快適な治療体験)” を実現するための取り組みに他なりません。
患者さんに安心して心臓や血管の外科治療を受けていただくために、私たちができるあらゆることを模索しています。
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