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手術用拡大鏡を晒してみた

 心臓手術は細かい作業をする場面が多いので、眼鏡型の拡大鏡を装着して手術をします。
 倍率は執刀医だと3.5倍~5倍程度、助手の場合は2.5倍程度です。
 「明るく」「軽く」「安い」商品が理想ですが、カメラのレンズと一緒ですべてを満たす商品はありません。いわゆるトリレンマですね。

 この度、新しい手術用の拡大鏡を入手しましたので、この機に私が心臓外科医を志してからの拡大鏡遍歴をまとめました。

■2011年〜

現物がもう手元にないため、カタログの写真です。

 最初に購入したのは、キーラー社の跳ね上げ式のもの(パノラミックXL)です。倍率は3.5倍。軽くて、比較的リーズナブルです。一方、明るさと視野の広さは今ひとつでした。
また、左右のレンズの幅を調節できますので、他のスタッフに貸したり譲ったりすることが可能です(あまりしませんが)。

■2013年〜

 次に手にしたのは、南渕先生が長年愛用しているツァイス社の商品です(Eye Mag pro)。術者と同じ視野で術野を見たいという思いから購入しました。倍率は4.0倍ですが、有名なツァイスのレンズだけあって、高倍率の割にはとても明るい視野が得られます。
 また、左右のレンズの間に専用のライトを取り付けることができるのですが、これがかなり明るく、光源の方向がピタリと定まるのが便利です。
 欠点はとにかく重いこと。また、前後径が長いこともあり、その分重く感じるのかもしれません。

届いたとき、嬉しくてした自撮りですが、はたから見たらヤバい人です。

■2015年〜

取り付け式のヘッドライトがついた状態です。

 ツァイス社のもので視野は充分満足していたのですが、やはりその重量がネックとなり、長時間使用すると鼻の付け根が痛くなってしまいます。そのため、より軽く、より視野が広く、焦点距離が長いものの必要性を感じました。
 接眼レンズが自分の眼に近いほど視野は広くなるので、広い視野が欲しければレンズがアイシールドに固定された埋め込み式のものが良い、と先輩医師からアドバイスをもらいました。

 そこで3代目拡大鏡として、当時働いていた仲間と同じ機会に購入したのが、サージカル・アキュイティ社(現オラスコピック社)のものです。倍率は3.8倍。これは確かに軽く、広い視野が得られるため、長時間使用が可能で、2015年以降ずっと使い続けています。
 欠点らしい欠点はありませんが、被写界深度が浅いため、術野がより遠くなる助手のポジションで使用した場合、ピントが合わせづらいことが気になりました。
 なお、埋め込み式の拡大鏡は、瞳孔間距離を測ってオーダーメイドで作りますので、基本的には購入者本人しか使用できません。

■2023年〜

 3代目が経年劣化してきており、このたび老舗メーカーであるDesigns for Vision社のものを入手しました。剛性の強い無骨なフレーム一択という機能に全振りしたメーカーです。
 埋め込み式で、倍率は3.5倍。実戦投入はまだですが、シミュレーターで使用した限り、明るく、視野が広くて快適です。被写界深度もかなり深く、使い勝手が良さそうです。

 いい道具を手に入れたからには、それに負けない手術をしていかないと。開心術スタートに向けて、準備を加速させて参ります。

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