「成長を支援するということ」を読みました
先月英治出版さんから出版された「成長を支援するということ」という書籍を読みましたのでその感想を書いていきたいと思います。
コーチとして、人が成長するためにどう振る舞うべきなのか、どのようにしたら人は成長するための活動を継続していけるか、科学的な根拠・具体的なコーチングの進め方・豊富な事例が書かれた素晴らしい本でした。
本書籍との出会い
実はこちらの書籍、昨年受講したScrum@Scaleの研修の中で参考書籍として原著の「Helping People Change」が挙げられており、内容が気になったので原著を買ってみたものの、英語が得意ではないので気になった部分だけ読んでそのまま積んでしまっていました。
今回邦訳されるということを知り、とても楽しみにしていた書籍です。
なお、監訳はScrum@Scaleの研修でもお世話になったScrum inc Japanの和田さん・内山さんがされています。お二人はコーチングの実践や提供を行う株式会社Unlockという会社を設立されたようです。
ICTコーチングについて
この書籍は一言で言ってしまうとコーチングについて書かれた本なのですが、コーチングの中でもICTコーチングについて書かれた書籍です。
ICTコーチングとは
私自身ICTコーチングについてそこまで詳しいわけではないので、書籍の監訳者序文から引用させていただきますが、以下のように書かれています。
監訳者序文については、上記引用元にて全文が公開されているため、気になる方はそちらも参照いただければと思います。
ORSCとICTコーチング
一言コーチングと言っても様々な流派があり、よくアジャイル界隈で目にするのはシステムコーチング(Organization & Relationship Systems Coaching:ORSC〈オースク〉)かなと思います。
ORSCは、「Great Scrum Master」の著者であるZuzana Sochovaが書籍の中でも引用されている「誰もが正しい。ただし、全体からすると一部だけ正しい」という基本ルールを基に、2人以上の人と人との関係性に注目したものだとすると、ICTコーチングはコーチを受ける1人に注目して、その1人の自己実現を支援することだと理解してます。
書籍の目次
前置きが長くなってしまいましたが、本書籍の目次です。
(英知出版様の書籍ページからの引用になります)
具体的なコーチングの進め方や、事例は書籍を読んでいただくとして、この書籍を読む上で欠かせない「思いやりのコーチング」と「PEA」について少し説明したいと思います。
ちなみにこちら主に本書の1章からの抜粋となりますが、1章の全文も監訳者序文と同様に英知出版様のnoteで公開されておりますので、こちらも気になる方は以下のページからお読みいただければと思います。
思いやりのコーチング
「思いやりのコーチング」:心からの気遣いや関心を示し、相手を中心に考え、サポートや励ましを差し出し、相手が自分のビジョンや情熱の対象を自覚、追求できるようにするコーチング
相対するものとして、
「誘導型のコーチング」:相手の夢を叶えるのではなく、外から規定された目的を促すための行動を促すコーチング
とされています。
例えば、企業の中ではアソシエイトレベルのコンサルタントになるため、シニアレベルのプロジェクトマネージャーになるためのコーチングが行われていることはないでしょうか。スポーツの中では、あの記録を抜くため、あの選手より上手になるため、あのチーム/相手に勝つため、スポーツ推薦を貰うため。。。
残念ながら組織やコーチの意思が本人の夢よりも優先され、目標や行動が決められてしまい、そこに向かうための「誘導型のコーチング」がされていることは少なくないと思います。
もちろん誘導型のコーチングが必要なケースもあるのでその全てを否定するわけではないですが、誘導型のコーチングでは長続きしないという根拠も本書では書かれています。
PEAとNEA
PEA(Positive Emotional Attractor):ポジティブな感情を誘引する因子
「思いやりのコーチング」によって相手に「理想の自分」やビジョンを明確にすることによってコーチは相手のPEAを呼び起こし、副交感神経を刺激する脳の部位を活性化させることができる。脳では畏敬の念、喜び、感謝、好奇心といった感情と結びついている。
NEA(Negative Emotional Attractor):ネガティブな感情を誘引する因子
「誘導型のコーチング」によって相手に理想像を押し付けるとNEAを呼び起こし、交感神経を刺激する脳の部位、恐れや不安のような感情を活性化させてしまい、それが逃走・逃走反応へとつながる。
成長のためには、PEAもNEAも必要だが、「服用量」と効果的な順序で起こるかが重要と書かれています。
「服用量」としては、変化や学びのプロセスを継続するにはNEA寄りの活動の2〜5倍の頻度でPEA寄りの活動をする必要があるとされています。
感想
実際自分のこととしてこれまでの人生を振り返っても、ネガティブな感情による変化や学びの継続はとても辛かったと思います。(主に学生時代の勉強を振り返って)
一方で学生時代に部活をした上で、自主的な体力トレーニングを継続できたこともあったので今思うとそれは自己の目標や夢に向かってポジティブな感情で動けていたからなのだと思います。
そして現在(特にここ何年かは)勉強についても、継続的に書籍を読んだり、社外の勉強会やカンファレンス、コミュニティ活動に参加するなど能動的に継続できています。学生時代はどちらかというとやれと言われたり、やらないと仕方ないという感情で勉強をしていた自分とは大きく異なり、もちろん会社から業務命令があるわけではなく、自主的に学びたいから学んでいるが出来ていると感じています。
それは自分の中で学んだことでもっとこの分野、この領域も知りたいというポジティブな感情とサイクルが続いているからだと自己分析しています。
そこで学んだことが業務に役立つことは沢山ありますが、業務に必要だから学ばねばならぬという感情だけで継続することは難しいということは凄く納得感があります。
組織においても同様で、組織論で有名なコッター教授は「CHANGE 組織はなぜ変われないのか」の中で、組織が今生きていくために必要な「生存チャネル」とこれから繁栄していくために必要な「繁栄チャネル」の話をされていますが、「生存チャネル」の活動だけをしている組織は組織全体として、どうしてもNEAが活性化され、ネガディブな感情に支配されてしまいます。「繁栄チャネル」の活動(それは投資的な活動かもしれませんが)を行うために、組織として一体となれる夢やビジョン、繁栄チャネルの活動を継続的に行う仕組みの設計が重要であると考えさせられました。
また、コーチの重要性についても改めて考えさせられました。NEA寄りの活動の2〜5倍の頻度でPEA寄りの活動をする必要があるというのは最初見た時は結構多いと正直思いましたが、1:1だと確かにネガティブな感情が勝ってしまいそうなので、結果的に同じ行動をすることになってもPEAを引き出すコーチの腕の見せ所でもありそうです。
誘導型のコーチングをしているコーチでは、その個人の成長に対して逆効果になってしまうこともあります。私自身も会社の中で後輩やチームに対して誘導型のコーチングを行っていないか、子供に対してはどうだろうと内省する機会になりました。
加えて、1人対1人のコーチだけでなく、組織に対するコーチの重要性と難し
さを感じました。
本書の中では思いやりコーチングの方法について更に詳しい掘り下げや、意図的変革理論(ICT)における5つのディスカバリーや多くの事例について書かれております。気になった方は是非読んで感想を共有いただければと思います。私も1人の読者としてみなさんの感想が気になります。
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