北海道特別支援教育振興協議会主催研修「関係機関連携の在り方、指導及び支援体制構築のポイント」vol.1
様々なニーズを持つ子どもたち一人ひとりに最適な学びを届けていくには、担任の先生や学校だけではなく、医療、福祉を巻き込んだ総合的な支援が必要となります。LITALICOの熊谷彩さんが登壇し、具体的な事例を交えながら、連携の必要性とポイントを解説した研修の模様をレポートします。
講師 熊谷彩さんご紹介
1. 学校と関係機関との連携が必要なのはなぜ?
学校と医療や福祉などの関係機関との連携が重要であることは、すでに様々な場で指摘されています。文部科学省および厚生労働省では、家庭と教育、福祉の連携を目指す「トライアングル」プロジェクトを推進しています。また、2021年の「特別支援教育の在り方に関する有識者会議の報告」でも、教育、福祉、労働などにおける積極的な情報提供の重要性が明記されています。
学校と関係機関が手を携えることには、以下の4つの意義があります。
(1)同じ方向性を持ち一貫した指導・支援の実現
個別の支援計画の作成に、医療や福祉などの関係機関が参画することで、子どもの実態や目標の共通理解が進み、役割分担が可能になります。
(2)集団へのインクルージョンを目的とした支援の実現
医療・福祉のみの支援では、どうしても個別的な介入が中心になり、集団の場に参加することが難しい場面も少なくありません。医療、福祉、学校、それぞれの場所で子どもの姿が異なることを前提としながら支援を行い、集団での学びに参加できるようにしていくことが必要です。
(3)進級・進学時のスムーズな移行支援が可能
医療・福祉は、子どもの成長に継続的に関わるものです。一方、教育の場では、進級して担任の先生が変わったり、進学して環境が変わったりすることもあります。医療・福祉との連携により、その子に合った支援を切れ目なく行うことが可能になります。
(4)多様な視点を持ったチーム支援が可能
何か問題が起きたときにも、福祉、医療、学校、家庭と複数のな視点があれば、それだけ解決策の選択肢も広がります。
また、様々な機関と連携することは、虐待の早期発見・早期対応にも有効です。
2. 連携できる関係機関の種類
まずは、どんな機関と、どんな連携ができるのかを知ることが大切です。
(1)児童発達支援センター・放課後等デイサービス(療育)
生活能力向上のために必要な訓練や、社会との交流を促進するために、子どもが通う施設。同時に、保護者からの相談に乗り、サポートをする役割も担っています。
こうしたサービスを知らない、利用していない家庭に、見学や利用を薦めてみるのも、ひとつの連携の形です。福祉サービスであるため、1割負担で利用できます。
療育では、集団の中で抱えている課題を踏まえて、必要なスキル獲得に向けた支援を行っています。学校でも、療育先でトレーニングしていることを実践できる場をつくると、より子どもの成長につながります。保護者を通して、療育先の個別支援計画を共有しあえるとよいでしょう。
(2)保育所等訪問支援
放課後等デイサービスと同じく、児童福祉法の中に位置付けられる福祉サービス。訪問支援員が園や学校に訪問し、集団適応を目指した支援を行います。
(3)児童相談所
子どもが抱えている問題や、その子のニーズ、置かれている環境などを的確に捉え、子どもや家庭に対して効果的な援助を行い、子どもの福祉を図り、権利を守ることを目的とする機関です。保護者だけでなく、誰でも相談が可能で、児童福祉司、児童心理司、医師、保健師などの専門スタッフが相談に当たります。
(4)児童家庭支援センター
子どもや家庭について、24時間体制で相談を受け付けています。生活態度が気になる、学校に行かない、ことばが遅い、子育てやしつけに不安がある、子どもが好きになれない、などの相談に応じています。
(5)発達障害支援センター
発達障害児(者)への支援を総合的に行うことを目的とした、専門機関です。地域における総合的な支援ネットワークを構築し、発達障害のある子どもとその家族からの相談に応じ、指導と支援を行います。
(6)地域の医療機関
投薬やカウンセリングなど、医療的なアプローチを行います。児童精神科医、内科医のほか、ST(言語聴覚療法士)、OT(作業療法士)、PT(理学療法士)による療育的なサポートを受ける場合もあります。
3. 連携の具体的な方法は?
連携をするうえでは、まず本人と保護者の希望、合意のもとで進めることが大事です。合意があれば、医療との連携も可能になるほか、福祉や療育先の担当者とも情報共有が可能になります。年度当初の面談時などに、どんな機関とつながっているのか、学校と情報共有をして支援に役立てていくことは可能かどうか、などを確認するとよいでしょう。
関係機関との連携には、様々な方法が考えられます。
保護者が医師に子どもの実態をうまく伝えられていないケース、学校の先生から見て服薬が合っていないのではないか、と感じられるケースなどで、保護者の同意のもと、医療に同行し、実態を伝えるような事例もあります。また、事前に電話などで学校での子どもの様子を伝える、という方法もあります。
個人情報を取り扱うため、関係機関との連携には、本人と保護者の同意が必要です。
ただし、「要保護児童対策地域協議会」(要対協)の場合には、個人情報の壁を越えて情報共有が可能です。深刻なリスクを感じるケース、重度の困難さがあるケースなどでは、児童相談所や児童家庭支援センターなどを通じて、要対協を実施してもらうように学校から働きかけをしていくことも有効です。
4. 保護者との連携が必要な理由
発達障害のある子どもを支援する専門機関には様々な種類があります。それぞれに専門的な視点からのサポートが受けられる反面、相談窓口が分散してしまい、保護者にとっては分かりづらいという課題も。どこに相談したらいいかが分からなかったり、どんな専門機関があるのかを知らなかったりするために、必要な支援を受けられていない親子もいます。
学校では、相談機関についての情報提供を積極的に行い、保護者に幅広いサポートの選択肢があることを伝えることが重要です。「知る」ことが、保護者の安心の第一歩となります。
また、保護者支援を考えるときに知っておきたいのが、発達障害のある子どもの保護者はうつの発症リスクが高い、というデータです。広汎性発達障害*の子を育てる母親の4割に軽度の抑うつ傾向が、1割には重度のうつ症状が見られる、という研究報告があります。これは一般的な発症率の10倍にもなります。別の研究では、自閉スペクトラム症・知的障害(知的発達症)のある子どもを持つ母親の47%にうつ傾向がみられる、というデータも。
さらに、虐待症例のうち、全体の25%は発達障害のある子どもであり、ADHD(注意欠如多動症)の子どもは20%、なんらかの発達障害の診断が可能な子どもは55%にのぼる、とも言われています。
5. 保護者との接し方のポイントは?
保護者とは日常的に連絡ノート、メール、電話などでやりとりをし、家庭での様子や服薬の状況、生活リズムなどを学校でも把握しましょう。
多くの保護者は、子育てに先の見通しを持ちづらく、不安を抱えています。学校からの連絡は、どうしても困った行動やできていないことの報告などが多くなりがちで、「電話を受けるのが怖い」という声も。本来、助けになるはずの関係機関についても、ネガティブな印象を持ってしまっている保護者もいます。
こうしたすれ違いを防ぐためにも、電話や面談の際には「できるようになったこと」「得意なこと」「子どもが輝いている場面、活躍できたこと」など、ポジティブな話題を添えることを心がけましょう。
保護者が話をしているときには、共感的な態度で傾聴することも大切です。そして、子どもがどのように育っていくのか、今後の進路ではどんなことが課題になるか、どんなサポートが受けられるのか、見通しを立てる手助けをしていきましょう。
すでに学校に対する不信感を持っていたり、特定の先生に対しての苦手意識が芽生えてしまっていたりする場合には、管理職の先生に同席してもらう、スクールソーシャルワーカーなどの支援者を集めたケース会議を実施するなど、保護者が連携に前向きになれるような工夫ができるとよいかと思います。
文部科学省が「初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド」をYouTubeで配信しているます。保護者面談の様子や、実際にどのような指導ができるか、といったことが丁寧に解説されています。https://www.youtube.com/watch?v=OeQXnRzXeDQ
研修の中で取り上げられた、関係機関との連携についてのケーススタディは、vol. 2 で紹介しております。ぜひご覧ください。