長袖
はじめての旅行は三年前の夏だった。
「夏は暑いから、北の方がいい」
旅行パンフレットを見比べながら、そう提案したのはぼくだったか、彼女だったか。
幾度か話し合った後、行き先は青森に決めた。「十和田湖を見に行きたい」というぼくの意見が採用された結果だ。
八月の終わり、降り立った青森は、ぴんと張りのある空気をしていた。心地良い、冷たい風が吹いていた。
十和田湖に向かう日、いつもより少しだけ早起きをした。北国の朝はいっそ肌寒いくらいで、ぼくは用意していた長袖シャツを着た。彼女もカーディガンを羽織った。
バスに乗り、山道に入っていく。停留所で降りると、空気が冷たく静かだった。
休憩中、近くにいた家族連れに写真を頼まれた。ぼくは渡されたカメラのシャッターを切った。そのお礼にと、ぼくと彼女の写真も撮ってもらった。
空と、アスファルトと、木々と、ぼくと彼女。
それを見れば、青森の空気を思い出す。