見出し画像

「今シーズンかはリーガを見ようかしら?」と考えている女性へ


東京オリンピック男子サッカー準決勝、日本対スペインを見ましたか?
僕たちの日本代表も健闘しましたが、あのスペインの練度が高いパスワークに「素敵だわ」と思った淑女は勘が良いです。あのネチネチした攻撃に、B級映画の廃墟な倉庫で両手を椅子に縛り、マフィアがナイフを舐めながら楽しむように痛めつけるシーンと重ねて「ゾクゾクするわ」と感じた人はただのドSです。そして縛られた相手の思考を鈍らせる戦術実行力は凄いのに、「ちっとも得点が入る気がしないわぁ〜」とデヴィ夫人並みに憤怒しながも胸がキュン×2してた女性たちにオススメしたいのがラ・リーガです。

「そうだ、リーガを見よう」

突然メッシというスーパーアイコンを失ってしまった失望感は拭えずも、この夏EUROでのペドリのプレーに感銘を受け、オリンピックでのぺドリの過重労働に怒りを感じながらも、ペドリの力強い眉毛に惹きつけられたその流れで、スペインのフットボールに魅力を少しでも感じた素敵な女性たちに、某鉄道会社のモロパクりフレーズにのせてリーガの魅力の一部を伝えたいと思います。

「金はないけど知恵はある」

絶対君主の二強(レアル、バルサ)に対して、知恵と勇気と情熱があればやっつけることができる。メチャ大雑把に言えばこれがリーガの醍醐味です。しかし、そんな少年ジャンプ・フォーマットのテンション爆上げな試合はそうそう起きないですが、年に数回しかないから価値があります。そんな試合の試合終了時の胸のトキメキは、社会に揉まれたら忘れてしまうピュアなところを刺激します。
絶対君主に対してアップセットをするためには、保有する選手の特徴を最大限活かしてチームに還元させる有能な監督が必要です。リーガには、スナックの美人チーママに過剰に肩入れして、そのマイナスエネルギーを恋愛というプラスエネルギーに変換する情熱的な男と類似した監督たちが沢山います。
ここでは昨シーズン優勝争いが大混戦であった上位4チームの監督を、せっかくだから監督=シェフ(料理長)、チーム=レストランに例えて説明し、美味しいものを友人と楽しく食事できにくい昨今、渇いた口元にヨダレも提供できたらいいなと思っています。

ディエゴシメオネ(アトレティコマドリー)

飾らない下町の洋食屋「レストランテ・パルティード」の亭主。人情に溢れ、パッションに満ちた炎の料理人が作るデミグラスソースは、細部のディテールにまで徹底的にこだわり、誰もが認める完璧さ。
銀皿のプレートに寄せられる大盛りのランチセットは、財布にも優しく労働者の胃袋を支えている。無意識に「うめぇ〜」と言いながらガッツいつて食べ進めると、海老フライとハンバーグにかけられたデミグラスソースとサラダのドレッシングが皿底で溶け合い、ライスに染み込んでいく。残り少なくなると全てが交じりあう悦楽の残飯とでもいうべき、漢が喰らう男飯。
労働者を讃えるシメオネの力強い料理で洋食屋は財を成し、お客様を招くホールも経営規模もデカくなり、星付きレストランにまで成長したのだが、「俺はそっち側じゃねぇ〜」と、もうやってることはブルジョワのそっち側なのに、シメオネの頑なに受け入れない反骨精神が常連客と微妙な隙間を生んでしまっていた。しかし昨年になって信念はブレないがメニューを少しリニューアルするという折衷案を見出し、新たな魅力が生まれて活気を取り戻した。そして7年ぶりに鼻につくブルジョワな二店を抑え、最優秀レストランの称号を手に入れることがてきたのだった。

大学生が好きそうなやつ。


カルロ・アンチェロッティ(レアルマドリード)

世界一の三つ星レストラン「マドリディズモ」で2度目の料理長を務めることとなったアンチェロッティは、世界でも指折りの料理人である。
前回のクビ後にスーシェフだったジダンが引き継ぎ、料理の系譜はそのままなのでスムーズに物事を進められるだろう。しかしこのレストランには世界一めんどくさいオーナーがいて、かなり口うるさいお客様もいる。前回務めたときは、高級食材を過多に与えて「世界一美味い料理を出せ!」と大雑把なオーダーに対して見事に応え、お客様にも夢を与えた。
そんな無理難題をやりのけるアンチェロッティは、強く主張し合う素材を殺すことなく、絶妙に調和させ旨味を最大引き出す。その調料法には、何処か女性的な包容力がある。シメオネの完璧さとは逆で、調味料の分量はかなり雑だか、経験に基づく余裕が味に深みを出す。その料理をひと口入れると、ふくよかに広がる絶妙な味わいには、おぼろげに"おふくろ"の安らぎを与えられるところが凄い。
しかし今回はオーナーの様子が違う。金を渋り、高級食材の仕入れなしで世界一美味い料理を作らないといけない。できなければプライドも世界一なだけに即クビになる理不尽さとも向き合わないといけない。しかしそこは、冷蔵庫の余りモノでも誰もがうなる逸品を作るアンチェロッティの腕の見せ所でもある。

自分のご褒美に食べそうなやつ。


ロナルド・クーマン(FCバルセロナ)

ここ10年間世界中を人々を魅了した「レストランテ・ブラウ・グラナ」は間違った熱意で勘違いをしていた経営者のおかげで人気に陰りを見せている。コスト過多の経営難から高級食材を仕入れるお金がないくせに、必要以上になろうとして、必要以下になってしまい、100年以上の歴史の中で最高の至宝を手放すハメに。気付けば三つ星の星も落としそうな勢いである。
しかしこのレストランには有能な自社農園がある。そこで昨年からハリボテの高級志向から、オーガニック系のカフェテリアへとシフトし、そこで白羽の矢が立ったのがクーマンである。過去の栄光も厳しい現実も理解し、再建の第一歩を託された。
自社農園では、カタルーニャの空気や土壌、気質に、伝統のDNAを混ぜて芽吹く。クーマンはその瑞々しい食材の1番美味しいタイミングで摘み取り、オリーブオイルと塩だけをかけたサラダのように、食材そのものが持つ旨味を全面に引き出すのが上手いシェフである。特に焼き物が秀逸で、火加減を調節した炭火焼きが抜群に美味い。表面はこんがりと中身はジュシー。「え、この食材ってこんな味がするだ〜」と美味しさとともに余韻を長く残す"驚き"を提供する。
しかしクーマンはシンプルに素材を活かした料理は得意だが、手の込んだ調理は苦手である。ブイヨンスープは薄ずぎるし、煮込んだ料理は、絶妙にフォルムを崩して味の輪郭がボヤけてしまう。はっきり言って美味しくない。
ここの常連客は、もともとオーガニック系の意識の高い人たちが多いが、料理の味もだが、見た目の美しさも常に求められ要求は常に高い。
今年も去年と同じようなメインディッシュだと、早かれ遅かれ批判にまみれると予想する。

ワインの一品に頼みそうなやつ。


フレン・ロペテギ(セビージャ)

このレストランには、世界一有名なバイヤーがいる。欧州でまだ流通されてない食材を探し当て、持ち帰っ育てる。基本は地産地消だが、バイヤーが持ってきた食材とギミックさせて伝統料理を作り出す。
陽射しとパッションが強烈な夏の大地でクールに仕立てるロペテギの"冷静と情熱のあいだ"的な料理は全てが一級品。ガスパチョやも牛テールの煮込みも一種独自の気品を湛えていて、繊細かつ大胆。口の中に広がる喜びは、ジワッと大脳皮質まで伝わり、幸福感に浸れる。
値段もリーズナブルで、雑誌でよくある隠れた名店の立ち位置。
しかしロペテギの料理はしっかり味覚を感じて「旨い!」と吠えるのだが、食べてる途中に考えたものではなく、本心のかたまりでボソッと声に出ちゃう「ヤバい!」と歓喜する料理ではないのだ。菱形の評価チャートで全て4点みたいに突き抜けず、旨いからヤバいへの天城越えができない。今シーズンも間違いなく美味しい料理を提供するだろうが、それ以上を超えられるかはわからない。

小山薫堂が好きそうなやつ。

ラ・リーガを見よう

「物理学者のファインマンは、数学や物理というのは、神様がやっているチェスを横から眺めて、そこにどんなルールがあるのか、どんな美しい法則があるのか、探していくことだと。」
と、ドラマ「やまとなでしこ」で堤真一が結婚式のスピーチで言ってましたが、サッカーの監督も、ピッチ内で複雑に絡み合う戦況を見極めながら、勝利の法則を探し求める生き物です。
なぜ勝利を貪欲に求めるのか。それが仕事だからです。そして、サポーターと喜びを分かち合うためです。
「ほんとに美味しかったです。また来ます。」そのプライスレスな一言が料理人の明日への活力になるように、サポーターの歓喜の歌を選手とともに全身で浴びることが何ごとにも変えられない、病みつきになるエクスタシー。それを感じるために勝利を掴みにいくのです。
リーガには他にもキャラが強い監督がいます。頭脳明晰なクールな監督や、ベンチ前でトチ狂ったようにシャウトする熱血野郎など多士済々です。

現代サッカーは、選手を活かして相手を調理する。試合をフルコースのようにデザインする監督力がこれまで以上に問われています。
このふざけた文章を最後まで読んでくださり、リーガに興味が湧いた女性の方々は、この先は自分で好みの監督を探してみてください。
「SEXしたいんだけど…」
「腰骨が砕けるまでやるか?」
みたいな、常に希望を倍返しで答えてくれて、貴女の感性に合う監督とチームはきっと現れます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?