SBD(Serendipity Books Dialogue)に参加してみた(前編)
SBDにご参加くださったコピーライターの蓑田雅之さんが、参加者の立場からSBDについてのユーモアたっぷりの記事を書いてくださいました。
まずは前半です。ぜひご覧ください。
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SBD「セレンディピティ・ブックス・ダイアローグ」というオンラインの読書会に参加してみました。今回はその感想の記事を書いてみたいと思います。
読書会っていうと、普通は読む本が決まっていますよね。ところが、このSBDは本が決まっていません。みんなで読みたい本を選ぶところから始まるのです。
まず、このワークショップに参加表明すると、事前に資料PDFが送られてきます。
そこには10冊ぐらいの本の候補が載っていて、その中から自分が読みたいと思う1冊を選んでくださいというのです。
ただし、ここに主催者の巧妙な企みがあるのですが、候補にあがっている本のタイトルはなぜか伏せられています。A、B、Cという無機質な記号があるのみ。
そして、本の中の「目次」が3つほど開示されています。
例えば、こんな感じ……
ん? これだけ?
そう、これだけです。これだけの情報で本の内容を推し量り、読みたい1冊を決めなさいというのです。
いうなれば、鍵穴から部屋の中をのぞき見するような感覚。「こんなんじゃ分かんないよ」と思いつつ、チラ見せの効果があるのか、なんとなく想像力がかき立てられます。
そして参加者は主催者の企みに乗せられつつ、本のタイトルも中身も分からぬままに、目次だけを頼りに自薦の1冊を心に決め、1回目のワークショップにのぞみます。
さて、当日。ここでようやく本のタイトルが明かされるかというと、まだなのです。まだ主催者は参加者をじらしてきます。
ズームの画面に集まった全員を4~5名のグループに分け、今度はグループごとに話しあって「読みたい1冊」を決めてくださいといってきます。
しかも、ここに第二の仕掛けが用意されていて、「セントラルクエスチョン」なるものが突然与えられ、これに基づいて読みたい本を決めろというのです。
今回、私が参加した回のお題は
「“見えない”時代を生き抜くために、私たちに必要な変化は何だろう?」
うーむ、なんとも雲をつかむような曖昧な問いかけではありませんか。
これを手がかりに、グループで話しあって、読みたい1冊を決めていくわけです。
なんとなくモヤモヤした感じに包まれてくるのは、このあたりから。
で、「いってらっしゃーい」という司会者の軽妙なかけ声とともにブレイクアウトルームに送り出されます。
さて、グループの小部屋に移動すると、初対面の人も含めた4人が待っていて、同じような戸惑いを顔に浮かべています。
そりゃそうですよね。本のタイトルも内容もよく分からない。
たった3つの目次と、曖昧さを残した問いだけで、読むべき本を選びなさいというのですから。
でも、実はここに主催者側の狙いがあって、この「情報の足りなさ」こそが、参加者の想像をかき立て、本選びの議論を活性化させていくのです。
でも、そんなことは後から分かることで、当初は仕組みが分からないために、モヤモヤを抱えたまま、グループメンバーでの話し合いが始まりました。
ルームにはファシリテーターがいないので、誰からともなく「どうしましょう。まず自己紹介から始めますか」みたいな感じで対話がスタート。
あらかじめ胸に秘めた1冊があるので、各自その本を選んだ理由(ちなみに私は最初「H」の本を選びました) などを語ったりしながら、話しは進行していきます。
すると途中で誰かが、「おっと、セントラルクエスチョンというのがありましたね。なんでしたっけ」みたいな感じで、「“見えない”時代を生き抜くために、私たちに必要な変化は何だろう?」という問いかけに戻っていったりします。
記号化された本のタイトルと、3つの目次と、セントラルクエスチョン。これを巡って「本選び」の対話はぐるぐると円を描きながら広がっていきます。
「見えない時代ってどういう意味?」「そもそも見えていた時代なんてあるの?」「私たちって誰のこと?」と、問いが問いを誘発して、話しがふくらんでいきます。
与えられた時間は40分。はじめ聞いたときは長いかなと思いましたが、コロナの話に始まり、資本主義のことや、科学万能の時代は終わったとか、日本の教育の話とか、人権の話とか、ジェンダーの話とか、脱線に脱線を繰り返し、夢中になってしゃべっているうちに、終了の時があっという間に来てしまいました。
よく「梅干しひとつでご飯一杯食べられる」といいますが、まさにそんな感じ。
この場合、梅干しは「セントラルクエスチョン」と「3つの目次」で、「本選びの対話」が主食のご飯にあたります。
と、考えているうちに、「おお、そうか!」と思わず膝を叩きました。ようやく主催者側の本来の意図に気づいたのです。
普通の読書会は、たぶん「読む本」がご飯なのです。本を味わうために開かれるワークショップ、それが読書会。
ところが、SBDは違うのです。読む本はあくまでもおかずにすぎず、それを巡って交わされる「対話」こそが、主食のご飯なのです。
「なるほどねぇ。だからわざわざ本のタイトルを記号化して隠し、目次のチラ見せなんかをやるんだな」と、心から納得した次第です。
というわけで、5名のグループメンバーで、ああでもない、こうでもないと議論を白熱させた結果、私たちのグループが選んだのは次の本でした。
最初、私は「H」を選んでいたのですが、みなさんと話しているうちに「L」もいいかなと思うようになり、グループの決定に同意しました。
そうして、ブレイクアウトセッションが終わり、参加者全員がメイン画面に戻ってきます。
そこで各グループの代表者が、どんな議論の末に、どの本を選んだのかという結果を報告しました。
すると、ここに至ってようやく主催者側から、各グループが選んだ本のタイトルが発表されます。
私たちのグループが選んだ「L」のタイトルは、「誰が世界を変えるのか ソーシャルイノベーション」
初めて見る本のタイトルではありますが、さんざんみんなと語りあって選んだ本なので、すでに愛着すら覚えます。
さて、ここまででSBDの1日目のワークショップは終わりです。
次の開催は2週間後。各グループのメンバーは、それまでに自分たちが選んだ本を読み、ネット上で再会することになります。
この2回セットで開催するというのも、SBDのユニークな特長ですね。
2回目のSBDはどのようになったのでしょう。その様子は後日、後編でご紹介します。
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今回の感想記事を書いてくださった蓑田さんは、
「もう不登校で悩まない! おはなしワクチン」という書籍をご出版されています。
ぜひ蓑田さん書き下ろしの書籍もチェックしてみてください。
SBD体験記、後編もお楽しみに!
蓑田さん、ユーモアたっぷりに読書会に仕組んだ秘密を解き明かしてくださり、ありがとうございました。
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セレンディピティ・ブックス・ダイアローグは、一般社団法人ダイアローグ・ラーニングが開発した新しい読書会手法です。
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