「良いものを長く使う」を再考する
電気代から食料品、マンション価格まで、あらゆるものが値上がりしている昨今。この物価高、一体いつまで続くのか…と気が遠くなっている方も多いのではないかと思います。
物価高と言っても、けっしてサービス提供者(企業)が暴利を貪っている訳ではなく、各社苦渋の決断を迫られているんだと思います。とはいえ、消費者から見るとサービスの「価値」が変わらないのに「価格」だけが上がっているので、そう簡単に納得できないですよね。
そんな物価高のさなか、ふと心に浮かんだのが「良いものを長く使う」という言葉。日本人が古くから大切にしてきた価値観であり、大量生産・大量消費が当たり前になってしまった現代へのアンチテーゼでもあります。ただ、悲しいことに、近年は「良いものを長く使う」の上澄みだけがすくわれ、SNSでの自己表現としてファッション化してしまっている気がします。
いま、改めて「良いものを長く使う」の本質を見つめたとき。「良いもの」を選べる審美眼を持つことと、「長く使う」ために正しい使い方を知ることが重要なのではないか、と思いました。
これまでサービス提供者(企業)がメッセージとして発してきた「良いものを長く使う」は、消費者に高価なものを買わせるための“口車”に過ぎませんでした。消費者も消費者で、「良いものを長く使う」を免罪符にして高価なものをたくさん買ってきた。でも、よく考えてほしいなと。「高いもの」が誰にとっても「良いもの」なのでしょうか?
オフィスチェアで考えみましょう。高いオフィスチェアは、たしかに機能性やデザイン性が優れているし、けっして粗悪品ではありません。ただ、誰にとっても「良いもの」かというと、一概に言えない部分があります。(Xでよく「おすすめのチェアありますか?」とフォロワーに質問を投げている方がいらっしゃいますが、これだけでは本当の正解に辿り着けないと思います)
たとえば、「オフィスチェアの王様」と呼ばれるアーロンチェア。一脚30万円近く(2024年10月現在)する高級チェアで、著名な漫画家や作家が多数愛用しています。
このアーロンチェアが「良い」かどうかは、ぶっちゃけ人によります。実際に座ってみないと分かりません。「やっぱりアーロンチェア最高!」「長年の腰痛が改善された」という声もあれば、反対に「座面のフレームが太ももの裏にあたって痛い」「意外と重量があるので動かすのが大変」という声も挙がります。
実際、30万円のオフィスチェアより10万円のオフィスチェアの方が自分に合っていた、という場合も多々あります。「人には人の乳酸菌」じゃないですが、「人には人のオフィスチェア」があり、使う人の好みはもちろん、体格や作業時間、使用シーンによっても「良いもの」は違って当然です。
そして、たとえ良いオフィスチェアを手に入れたとしても、正しく使わないと“本当の価値”を発揮しません。座面の高さ、リクライニングの硬さ、肘置きの角度、腰のサポートの位置など、様々な調整機能があることを知らずに使っている方が実に多いです。自分の体格にあわせてカスタマイズしなければ、ベストな座り心地は得られません。使い方が悪いと劣化も早まります。
まずは、自分にとっての「良いもの」とは一体何なのか、周りの声に流されずに考えること。そして、せっかく買った「良いもの」を「長く使う」ために、商品価値を最大限に発揮できる正しい使い方を知ること。この2つができて初めて、僕たちは本当の意味で「良いものを長く使う」ことができるんじゃないかなと思います。
サステナブルやエコの観点でも「良いものを長く使う」は重要なので、このあたりの話はまた今度書こうと思います。