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人生をかえた数学ガールという本

Xを何気なく眺めていたら目に入ってきたのが、こんなポスト。

おお、数学ガール…。


「数学ガール」

結城浩先生の代表作である、「数学ガール」という本と初めて出会ったのは、高専のたしか1年生か2年生くらいのときだったと思う。当時友人からふとしたきっかけで「数学ガール」の第1巻(通称「無印」)を借りて、読み始めたらそのあまりの面白さに頭に電気が走ったような衝撃を受けて、思わず書店に買いに走ったのは忘れやしない。

この「数学ガール」というメインシリーズが
数学ガール
数学ガール フェルマーの最終定理
数学ガール ゲーデルの不完全性定理
数学ガール 乱択アルゴリズム
数学ガール ガロア理論
数学ガール ポアンカレ予想

の6巻刊行されていて。なかなか異質な感じの数学本ながらも、根強いファンが数多く存在し、もはや今となっては超有名シリーズとして幅広く知られている。さらに、より平易な「数学ガールの秘密ノート」シリーズは、なんとすでに16冊。すごすぎるわ。

数学ガールは、主人公である「僕」と、個性豊かな女子キャラクター(ミルカさん、テトラちゃん、ユーリ)が対話形式で数学を深く学んでいくというなんともユニークな作品。気軽に手に取れるようなポップさ、敷居の低さもありながら、数学ガールのすごいのは、数式が非常にしっかりとゴリゴリ出てくるところ。しかし、初学者が読んでもあまり「難しくて何が何だかわからない」とならないのは、僕やユーリやテトラちゃんが読者側に立ってくれて、読者が抱きがちな疑問を「かわりに言ってくれる」から。「対話形式」という独特なスタイルにも、しっかりとこういう意味があるのがこの数学ガールシリーズの凄いところ(ちなみにミルカさんは才女で、とてつもない数学力で他のみんなをグイグイ引っ張ってくれる)。

僕はこの「数学ガール」を読んだとき、「うわ、数学ってこんなにおもしろいのか…?」とめちゃくちゃに感動した。数学ってどうしても、学校で習うものっていう先入観があり、試験対策、受験対策で歯を食いしばりながら数式を頭に叩き込んでいく、単純な計算練習をひたすらにこなすっていうイメージがどうしてもあると思う。しかし、この「数学ガール」の中で展開される数学っていうのはとにかくこの上なくドラマチックで、エキサイティングで、どこか儚さにも似た美しさをまとっている。数式一つ一つがまるでこちらに話しかけてでも来るかのように生きて見える。数学のひとつひとつのトピック、定理、定義が何だか愛おしくすら感じてしまう。「数学ガール」ってそんな作品。

教育者としての目線

そして「数学ガール」は、教育者として大切なことも教えてくれる。著者の結城浩先生は、とにかく一般に「難しい」「複雑」と言われがちなことを、初学者の目線に立って「ここ難しいよね」「ここって意外とつまづくよね」「ここってちょっとギャップがあるよね」と寄り添ってあげるのがとてつもなく上手な人だ。そしてそれが数々の著作の随所に現れまくっている。数学ガールはもちろんのこと、僕が現在読んでいる群論への第一歩という本でも、結城先生のホスピタリティと優しさは随所ににじみ出てきている。

学生のときに「数学ガール」を読んだ(当時それこそ数学のことなんてほとんど何も知らなかった)僕が、目を輝かせて、なんだこの世界は、なんて楽しそうなんだ、僕もこの世界に入っていきたい、と本気で思えたのは、多分数学という学問自体が持つ面白さを、結城先生のいわば「教育の力」で僕にもわかる形に噛み砕いて、そしてそれを文章の力で僕にぶつけてくれたからなのだと思っている。数学の人間としても、教育の人間としても、この先生には本当にいつまでも勉強させられっぱなしなのである。

シリーズ6巻が

・数学ガール
・数学ガール フェルマーの最終定理
・数学ガール ゲーデルの不完全性定理
・数学ガール 乱択アルゴリズム
・数学ガール ガロア理論
・数学ガール ポアンカレ予想

というラインナップだというのは最初にもご紹介したが、それぞれの巻で取り上げられている数学のトピックは、どれも簡単なものではないし、平気で大学の数学科レベルの内容だ。しかし、それを見事に数学ガールの世界に落とし込んで、丁寧に丁寧に読者に届けてくれる結城先生も、きっと途方もない努力をされているのだろうと容易に想像ができる。「数学ガール」読者として、多分僕はそれを存分に享受させてもらっている。

数学、本を書くという夢

学生時代に「数学ガール」を読み、夢中になった僕は、数学の道に進むと決めて、高専を卒業して東北大学の理学部数学科に進学した。今となってはアカデミックの道からは逸れたけど、未だに数学を日々使っているし、教えているし、大好きな数学と社会人になった今も寄り添いながら生きていられることが嬉しくて仕方がないという気持ち。

そしてさらに、「いつかこんなふうに、誰かの人生を変えるような本を書いてみたい」というぼんやりとした夢を抱いた。とはいっても書籍っていうのは簡単に書けるものではないので、最初は自分でWEBページを作って、数学の解説資料を作ってアップロードするということを趣味でやりはじめた。そうすると、それがきっかけで2014年には人生初の著書を出版することが出来た。テーマはなんと「線形代数」。これが出せたことは本当に嬉しかった。

それ以降もさまざまな本を執筆する機会を頂けて感謝しかないし、最近は、滋慶学園COMという専門学校グループで使ってもらうために、数学の教科書を書くこともできた。

滋慶学園COMグループで使っていただいている教科書「基礎数学」「AI基礎」。「基礎数学」は初学者で数学に対する苦手意識がある読者も、無理なく楽しく、必要十分な内容を学べるように書きました。

あ、僕の3冊目の「Pythonで超らくらくに数学を学ぶ本」を刊行したときには、ジュンク堂池袋店さんで数学ガールの横に並べていただくという胸熱な出来事も。このショットを見たときはちょっと泣けたよね。

いろいろあったけど、数学も本書きも、ここまで続けてきて良かったなぁ、としみじみ思ってしまった記念碑的一枚。

「数学ガール」がきっかけで夢を抱いて、それが気づいたらかなって、今もそれを続けさせてもらっているわけで、そういう意味で「数学ガール」っていうのは、間違いなく僕の人生を(もちろん良い方向に)変えてくれた作品なんです。本当に稀にだけど、人生の中でこういう本に出会うときってあるよね。僕にとってのそれは、まさに「数学ガール」なのです。

これからも、ファンであり目標であり。

今回、良い機会に恵まれてまた数学ガールをまとめて電子版で買ったわけだけど、これを機に、またじっくりと読んでみようと思う。当時まだ分からなかったことが、今読んだらわかるっていう体験もきっとたくさんあるだろう。また数学でワクワク、感動できることがとても楽しみ。

僕も気づいたら本書き人生が10年を超えたことになる。その間に手掛けた著作は今のところ合計7冊。これからも世の中が求めてくれる限り、本を書き続けていたいなと思っている。

同時に、まだまだ結城先生は目標なんだな。ファンであり、いまだに必死で追いかけている存在でもある。僕は僕として、数学ガールから始まったこの道程を、大きな背中を追いかけながらこれからも必死で走っていきたい。

みなさんも数学ガール、買ってみてね。いつまでかわかんないけど、Kindle版全部半額だよ(2024/08/18現在)。

【追記】
「数学ガールの秘密ノート」シリーズ「数学ガールの物理ノート」シリーズも電子版半額らしいよ。

「数学ガールの秘密ノート」シリーズをまとめ買いしてみたら、Kindleライブラリが埋め尽くされました。笑


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