街の、 猥雑の、 中心を目指す 一秒ごとに強まる吐き気を堪えながら 呼吸したくない 網膜でさえ触れたくない それでも、 比喩なんかじゃない、 文字通りの吐き気―― 抑えがたい内なる警報だけが浮き彫りにする、 透明な輪郭を知覚しようと けれどネオンが増えるほど、 ますます通りは暗く、 中心を待たずしておれは、 電柱の陰で嘔吐する とたん、 硬い靴底で背中を蹴られ、 あたたかな吐瀉物の沼に堕ち、 起き上がりぎわを狙うつづけざまの蹴りが、 から
わい、岩 色しろい 鉄の伝手 錆は微差 黴は美果 ダンスは済んだ 冬の夕(ゆふ) 留守に何する? 歌うたう 恋はこわい子 夏まで待つな
ついさっきまで、ここにあったのにな って てのひらを見る 感触を、 声を、 風のつめたさを、 あるいは水濠を ゆったりと横切る真鴨の行列を、 まばらに紅葉する アメリカフウのグラデーションを、 つまりは世界を、 きみを、 つなぎとめようと、たえず反芻する けれどもやはり、薄れてゆく どんどん零れて、止められない あれは、現実にあったことなのかな ほんとうはぜんぶ 夢なんじゃないのかな
瓶底みたいに分厚くてつめたい壁を打っている はじめ、ほとほとと やがて、どんどんと 瓶底は青 はかりえない厚みが明を不明にし だれもいない いても声はつたわらない ぼくはおこっている さもなくば、ないている 蒸発した涙は空洞に雲を生み いつか降る雨 昏く、潮の香りがする
理解とはすなわち誤解だ と嘯くぼくに 理解も もちろん誤解も いっさい示さずに ただやわらかく ふくむところなく笑っている 永遠じゃないけど 永遠じゃないから ファインダーなんかじゃとても追いつけない その笑顔だけは きっと
アスファルト に 貼りついたアオスジアゲハ の こわれた羽根 を 見つめる男の子 を ながめるきみ を ぼく は