ギャンブル等依存症対策推進関係者会議で中村氏(ワンデーポート)の意見
以下は、ワンデーポート通信256号(2022.3)所載の中村氏の意見です。許可をいただき転載しました。ギャンブル等依存対策では中村氏のこの意見を無視してはいけないのではないかと強く思います。
(ワンデーポート:http://www5f.biglobe.ne.jp/~onedayport/)
ギャンブル等依存症対策推進関係者会議参加の報告 中村 努
2018年にギャンブル等依存症対策基本法が施行され、2019年からはギャンブル等依存症対策基本法に基づくギャンブル等依存症推進基本計画(以降、基本計画)が施行され、各都道府県、事業者、医療関係機関などで様々な取り組みがなされています。基本計画については3年ごとの見直しの検討がなされることになっていて、ギャンブル等依存症対策推進関係者会議では、見直しのための意見交換が行われています。今年度は4回の会議が開かれていますが、主な議題は、基本計画の進捗状況の確認と、コロナ禍における公営ギャンブルへのネット投票増加などが主な議題になっています。また、宝くじをギャンブルに含めるべきではないという意見についても議論がなされています。
私は、支援の現場での視点で、基本計画に必要な対策について意見を伝えています。主に訴えていることは、
・ 自己解決を示してほしい
・ 因果関係を精査してほしい(実際はギャンブルが問題で問題が起きているのではなく、金銭管理が苦手、精神的な課題等の背景因子がギャンブルの問題を生じている人は多い)
・ 金銭管理などの生活支援の視点を入れてほしい
これらの意見は、関係者会議がはじまった2019年2月の第1回の会議から伝えてはいますが、基本計画の見直しに反映されてはいません。
自己解決ができる人がいるのは疫学調査からは明らかです。ワンデーポートの電話相談では自己解決を勧めることもありますし、『2020年 リカバリーサポート・ネットワーク ぱちんこ依存問題電話相談事業報告書』では62パーセント相談者が「電話相談終了」と記されています。医療機関受診や自助グループ参加しか方法がないということではありません。ギャンブルの問題は人生の問題でもあるので、考えたり、悩んだりすることが不可欠なはずです。医療偏重志向は、人間の考える力や生きる力を削いでしまう危険性もあると思います。
ワンデーポートの利用者の皆さんにとっては、自己解決できると示すことはよくないことと思う方がいるかもしれませんが、実際はそうではありません。すべでの問題が自己解決できなくても、自分自身で考えることが必要だからです。
社会全体に対しての啓発においても「慢性で進行性の精神疾患である」とか「脳の病気」という啓発は、科学的な根拠がないばかりではなく、本人や家族が正しく問題を理解し、現実的に向きあう妨げになっていると思っています。
私の主張が基本計画の見直しに反映されなくても、議事録に発言を残すことに意味はあると考えていますので、今後の会議においても、粘り強く訴えていきたいと考えています。
直近2回(2021年12月10日と2022年2月3日)での私の発言内容です。
2021年12月10日(第7回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議)
前回、久里浜医療センターから令和2年度「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」について説明がなされました。私は、2.2パーセントという数字の根拠、因果関係が不明確なまま、ギャンブルが原因でうつ病や自殺念慮を持つ人がいるように書かれていることに違和感があるとお伝えしました。
ギャンブル等依存症対策基本計画立案にあたっては久里浜医療センターが主導で作られていると私は理解していますが、治療効果が曖昧なまま、医療機関受診や自助グループ参加こそ解決の道のように示されていることに大きな危機感を抱いております。私はこの場で何度もお願いしている、予防や自己解決、自然治癒という視点とらえ方は、議論にすらなってないのが現状です。「自己解決が難しい脳の病気」と説明されている厚労省のホームぺージについての問題についても2年に渡り指摘していますが、明確な回答がないままであります。
医療機関受診や自助グループこそが唯一の方法で示されている弊害が出てきております。家族が無理やり医療機関や回復施設に連れて行く、あるいは回復施設の職員に自宅に訪問させ、インタベンションと称して回復施設に連れて行くという犯罪まがいのことをやっている団体も出てきています。ワンデーポートへの家族相談に来た方ですが、その方はある回復施設の職員を自宅に来てもらい、息子を回復施設に連れて行ってもらうようにお願いしたことがあったそうです。幸い、この家族は、施設の職員の乱暴な言葉遣いに違和感を持ち、また息子さんも拒否したことから、回復施設には入らなかったそうです。
2018年7月16日の朝日新聞の記事では、スマホ依存について取り上げた記事が掲載されています。同じようなことが行われています。記事のはじめにはこうあります。「5月上旬、千葉県に住む高校1年の男子生徒15を両親と双方の祖父が4人で抑え込み手足を縛って車に乗せた。入院なんて絶対やだ、スマホを返せ」という話から始まる記事です。記事によるとスマホ依存の治療で、久里浜医療センターに入院し、回復したということが書かれています。強引な治療が容認、新聞報道されるとすると私は大変危険だと思います。私はこの記事全体がとても恐ろしいと感じました。
自己解決を示さず、限られた方法だけを示すとしたら、無理やりでも家族が連れて行くことを容認するような風潮を作ることになるのではないでしょうか。当事者活動の暴走はすでに始まっていると私は感じています。当事者だからすべてわかっている、介入であれば当事者は強引なことも許されるということになってしまうとしたら、問題を抱えている人や家族がさらに窮地に落ちることになります。
話は少し変わりますが、先日、知的障害、自閉症がある人の支援員をされている方からもらったメールです。そのまま紹介します。「昨日、相談支援専門員初任者研修がありました。事例についてグループワークでサービス等利用計画書を作成するというものです。『障害雇用でもらった給料をパチンコで浪費してしまうという軽度の知的障害のある単身生活者』という事例ですが、16グループの中で『自助グループに参加する』という計画を立てたグループは一つもありませんでした。「パチンコに行くことができるということは強みだ」「パチンコが好きなのにそれを取り上げるのは気の毒だ」「他に趣味があればパチンコ以外にも時間を過ごせるのでは」という意見がほとんどでした。このような考え方が社会福祉従事者の主流になっています。医療・行政側提案の一律的に自助グループに参加させるというガイドラインの方が陳腐になってきているようです。」引用終わります。
現場感覚と基本計画での指針は大きくズレています。久里浜医療センター以外の医療機関や専門家の意見も取り入れ、科学的根拠を伴う議論や計画変更をお願いしたいと思います。人権に配慮した対策にならないと国民の理解は得られないはずです。精神保健福祉の施策はかつての人権侵害の反省の上に成り立っているものではないでしょうか。
2022年2月3日(第8回ギャンブル等依存症対策推進関係者会議)
アルコール依存症の回復については、1935年にはじまったとするAAアルコホリックスアノニマスの考え方は当事者、支援者の中で指針となっています。ギャンブル依存の自助グループであるGAはAAの考え方を礎にしています。
AAの有名な書籍にアルコホリックスアノニマスという1939年に出された本があります。2002年に日本で出された翻訳本から引用です。「酒以外のことについては、実はまともだし、バランス感覚もとれているのに、酒がからむと、信じられないほどの不正直で自分勝手になる。彼は社会的能力、技能、才能を備え、有望な仕事に就いていたりする。その天から授かった才能で、家族と自分自身のために明るい未来を築き上げようとしている。だがやがて彼は、一連の見境のつかない深酒によって、自分でその未来をみんなぶちこわしてしまう」。AAの書籍に登場するアルコホリックはアルコール以外に問題がないだけではなく、優秀な人物です。会社の経営者の話も出てきます。誰でも依存症になる可能性があるというのは、ほんとうだと思います。ワンデーポートの立ち上げには、日本の初期のAAメンバーにも協力してもらいましたが、とても優秀な方でした。私はその方の話を聞いて、アルコールを飲んで生活が破たんしたのは病気なのだと思いました。
しかし、ワンデーポートをはじめてわかったのは、ワンデーポートに来るのはAAメンバーのような人は少なく、ギャンブルをやる前から様々な生活課題を持つ人が多いということでした。AAの書籍に書かれているように破滅的な依存行動があるのではなく、金銭管理ができないことで、ギャンブルが問題になっている人もいました。私の経験では、破滅的な人は回復の軌道に乗れば自身の力で歩いていくことができる傾向があり、破滅的ではない人は依存行動自体が大きな問題ではないものの、自立していくことに課題がある人が少なくない印象があります。
2000年代以降は、アルコール依存症の人にも、もともと生活課題や併存障害がある人が増えているという話を聞くこともあります。ある県の精神医療センターで勤めていた経験のある医師から聞いた話です。「病院内で夏祭りのようなイベントでは昔は依存症病棟の人が先頭に立ってやっていたのだけど、いまはできなくなったという話を聞いたことがある」。
時代の変化とともに、アルコール依存症の人の抱える問題も変化してきていると思います。AAのイメージしていたアルコール依存症の人は違う課題を持った人が増えているのではないでしょうか。
海外では、物質使用障害に対しハームリダクションという依存対象を完全にやめることを目的としない方法による施策が行われ効果が上がっている国があると言われています。ハームリダクションは、薬物使用により生じる健康、社会、経済上の影響を減少させることを目的としているそうですが、結果的に薬物使用の減少にもつながっているという調査もあるようです。
日本でも近年、医療機関によってはアルコールを完全にやめるのではなく、節酒を促す治療が行われていると聞いたことがあります。ハームリダクションをギャンブルに援用する場合、ギャンブルをやめる、やめないということとは別に金銭管理を含めた生活支援全般に関わることで、経済上の影響を減少させることができると思います。AAの方法に効果がある人は周囲が金銭管理をやらないことで、いわゆる直面化させることで、回復に向かうことがあると思いますが、生活課題を有しているギャンブルに問題がある人は金銭管理などの生活支援が必要だと思います。ワンデーポートでは10年以上金銭管理を続けている人が20人くらいいて、安定した生活をしています。その中には、地域の多職種の支援者や理解者に支えられている人もいます。基本計画においては、司法書士会や社会福祉協議会など金銭管理の面からの連携が図られることができれば、生活が安定し、結果的にギャンブルの問題が解決される人は少なくないと思います。
今回の基本計画の見直しでは、ギャンブル等依存症についての定義や生活課題に沿った支援については触れられていないようですが、将来の見直しの際には、ハームリダクションの考え方を入れてほしいと思います。
(上記の原稿は中村が会議のためにつくったメモを元に掲載しました。議事録に掲載されている記録とは同一ではありません。)
首相官邸のHP(ギャンブル等依存症対策推進本部)にこれまでの議事録がUPされています。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gambletou_izonsho/index.html