見出し画像

スタートアップの知財支援の話から、働き方とかまで

この記事は、知財系Advent Calendar 2020の企画に関するエントリでございます。このAdvent Calendar、毎年こっそり楽しみにして読んでいます。

知財という仕事の幅の広さや、いろんな方の知財に関するスタンスとか、知財実務のノウハウとか、知財のキャリアの話とかカタルシスとか、普段自分の業務をやっているだけでは得ることができない様々な知見がブワーッと飛び込んでくるので、本当に面白いです。

で、自分でもなんか書くか〜ということで今回エントリーさせていただきました。たまたま枠の募集が始まってるのを見て、秒で登録しました。大坪さんありがとうございます!

エントリの内容ですが、やはり自分の今やってることの紹介というのが一番オーソドックスだし、自分にとっての1年半の振り返りにもなるので、スタートアップの知財の仕事と働き方とかの話をします。

なお、ここではあくまで自分の観測範囲の話しかしません。スタートアップも、いわゆるITとかリアルテック系の技術領域がメインです。それ以外の領域はあまり知りません。誤認していることもあるかもしれませんが、その点についてはご指摘いただけるととても嬉しいです。

ちなみに、別のネタとして「こんな企業知財はイヤだ」という一歩間違えれば炎上不可避な話も思いついたのですが、それはまあいつかオフレコで。。。

なぜスタートアップの仕事を選んだのか

まず、私自身のキャリアのサマリはこんな感じ。

・元々はエンジニア・研究者(博士)
・知財のキャリアは6年ほど
・弁理士には3年前になりました
・特許事務所→企業知財(出向)→イマココ(Oneip

私はもともとは大企業の製造現場→いろいろあって大学院出戻り→博士取ったけど研究職決まらず、という感じで、企業とかアカデミアを右往左往した結果、流れ着いたのが知財の業界です。そうです、なし崩し的にこの世界にお邪魔することになりました。そういう人多いですよね?違う?

知財のファーストキャリアは、いわゆる大規模の特許事務所で、大企業のクライアントの案件(国内・外国)をポチポチこなしていたという感じです。その特許事務所では、全くの未経験の私をゼロから指導していっちょ前に育て上げていただきました。弁理士試験の勉強も並行して、なんとか2年で突破。そして、弁理士資格の取得と同時に、クライアントの知財部へと出向することになりました。そこでは2年ほど、研究所付の知財部門で、クライアントの花形事業部?関連の研究開発の発明発掘やら知財戦略のサポートやらさせていただきました。結論から言うと、この企業知財部の経験が、今の仕事にかなりプラスに効いていると思います

で、そろそろ出向も終わりに近づいてきたかーという頃、ちょうど今の忘年会シーズンに、出向元の事務所(というかボス)から衝撃の事実が。その事実を聞かされたときは「ちょっと何言ってるかわかんない」というトミーのような感想が本当に口から出てきたのでした。知財業界の方ならもう勘付いているかもしれませんのでここでは詳しく書かない(書けない)ですが、例の事件により、このままだと出向終了後にプー太郎になってしまうことになりましたのです。ちゃんと正しく節税しような。

というわけで転職活動をするハメになったのです。いろいろ事務所とか出向先からもお声をかけていただいたのですが、私がそのとき職探しで決めていたことは以下の3つを満たすことでした。

・知財の仕事である。
・知財の仕事だけどあまり普通じゃないことをやっている。
・企業知財の経験、事務所の経験をフルに活かせる。

その条件で色々出たのは、知財戦略を強化しているメーカーとか、日本でも有数の調査会社とかいろいろあったのですが、その中で最終的にたどり着いたのが、当時のiPLAB Startups、今のOneipでした。クライアントはほぼほぼスタートアップのみ。人数は(面接当時)3人、事務所が出来てまだ1年。

いまさらですが、普通の精神状態の転職活動だったら、おそらくここに転職していなかった気がします。。。

私自身スタートアップで働いた経験もなく、知り合いにポツポツ働いている人がいるけどなんか大変そう・・・というように、今の事務所に入るまでは、スタートアップについては殆ど何も知らない状態でした。正確には大学院生のときに、東大のスタートアップでちょこっとアルバイトをさせていただいたことはあったのですが、そのときもCTOがオフィスでずっと寝泊まりしてたり、何かどうでもいいことでボードメンバーが喧嘩してたりとか、そういう印象が強かったのです。。。

とは思いつつ、冷静に考えてみると、自分が転職で決めてた上の3か条を満たしていたのが、ここだったんですね(ホントはメーカーとかが第一希望だったけど、ここが先に決まった)。当時のモチベーションとしては、スタートアップを支援したい!という感じでは正直なくて、単に自分の条件に合っていた、というものでした。なので、もちろん不安がなかった訳ではなく、自分でも正気じゃねぇなと思いつつ、当時の精神状態的に正気ではなかったこともあり、後先考えずにお邪魔させていただくことになりました。

ちなみに、他にもスタートアップ支援を打ち出している事務所はいくつかあったのですが(紹介もしてもらった)、自分の技術領域的に役に立てそうだったのが、iPLAB Startupsでした。なのでここ一択でした。

それからもう1年半が経ちました。時は恐ろしく早く駆け抜ける。

こんな仕事をしてます

ようやく本題です、が、書いててもう疲れた。ここからのほうが内容薄いかもしれない。

Oneipで今までやってきたことを、とりあえず列挙します。

・発明発掘
・特許調査
・特許明細書作成/出願/中間処理(国内・外国)
・商標調査
・商標出願/中間処理(国内・外国)
・意匠出願/中間処理(国内)

・知財案件管理(所内/クライアント)
・知財戦略立案(知財の説明/自社・競合分析(IPランドスケープっぽいやつ)/スタートアップの資金調達等に応じた計画立案
・クライアント向け知財勉強会(著作権とかも)
・講演会
・スタートアップ向け知財記事(YES!IP
・投資家向け資料作成
・FTO調査
・審判系(いろいろ)
・契約書の知財条項チェック
・お客さんどうしの紹介
・職務発明制度導入支援
・ライセンス契約支援
・新規事業コンサル(知財視点から)
・特許事務管理

という感じです。ただの列挙で失礼。フォントが太字なのは、ここに入ってから初めてやった業務です。なんというか本当に何でも屋、便利屋の王道を地で行っているような気がしますね。。。意匠、商標もとりあえず出来るようになったのはありがたい。あとスタートアップ向けの知財メディアもやってるよ!このnoteでつらつら書いてたことも、こちらで記事にしております。内容はスタートアップの経営者向けなので、知財の人から見たら物足りないかもしれませんが、経営者は知財をこう考えています!という観点が見えたりします。なお、こちら、知財専門家の皆さまへのインタビューも計画中ですので、ぜひご協力いただける方がいらっしゃいましたら、たいへんありがたいです・・・!

ただ、このあたりの業務って、おそらく中小企業向けの特許事務所でも通常行われているようなものだと思うし、それに関連する業務内容は変わらないんじゃないかな・・・?という気もしています。

一方で、スタートアップと中小企業との間では、様々な点で組織の性質が異なります。例えば、

・スタートアップは、原則として外部からの投資(Equity)による資金調達により、短期間でプロダクトの開発/社会実装/PMFを行い、急激に成長しIPOを目指す失敗する確率も非常に高い
・事業の度重なるピボット、組織の変化がある。
ステークホルダーが成長に応じて次々に変化する。
24h/365days稼働している

スタートアップとは何か?というのは、Coral Capitalの西村さんの記事に詳しく書いてあります。参考になりやす。

おそらく一番理解しなければならないのは、スタートアップは局面がどんどん変わっていくことスタートアップの成長に応じて必要な知財のケアの内容はどんどん変わっていきますし、そのためには継続的な支援が欠かせなくなります。特に技術開発のスピードが半端なく早いようなcutting edgeの領域においては、如何に早く知財を固めていくか、ピボットしても特許の権利としてカバーできるかということが重要になってきます。また、そもそも最初の時点で、社名やサービス名は保護できているか、他人の権利を侵害していないかなども気にしなきゃいけない。あらゆる観点から、スタートアップの置かれている状況に合わせて支援することが必要だと思います。

スタートアップの知財の支援のあり方については、ZeLoの青木先生のブログが詳しいです。

実際スタートアップの支援ってどんな感じなの?

ただ、自分が上に書いたのはあくまで理想論で、実際はお客さんの状況に合わせて泥臭く対応する、というのをずっと続けているという感じです。いろんな味の泥をすすってます。

よくある流れとしては・・・

1. 投資家orベンチャーの社長or他の士業の方から、支援を希望しているスタートアップを紹介してもらう

2. 事業内容と今後の事業・技術開発についてのヒヤリング

3. 競合調査とヒヤリングに基づく知財戦略とその実行についての提案(ここでお金の話もします)

4. お客さんの財務状況・知財予算に応じて、出願する重点分野と件数を決定

5. 逐次ヒヤリングを行い出願/権利化

というのが王道です。通常はおそらく5番以降のところを事務所がやっているのですが、うちでは2~4を結構しっかり時間をかけて取り組んでいます。特に、シード~アーリーくらいのステージにいるスタートアップでは、お金も人的リソースも限られているので、ここはしっかり詰めます。場合によっては知財がそれほど重要ではないスタートアップもあり、それはその旨しっかり伝えることも多いです。機会損失も多いです。うん、辛いね。。。辛いけどクライアントのためだと思って。

ちなみに、よくスタートアップ支援で聞くのが「お金どうするの?」という話です。ここについては、過去にnoteでソリューションについて、後払いだのエクイティだの書いたのですが、実際のところは、ちゃんとしっかり請求することが多いです。お金がないから、と言われたら「はい、そうですか」とプロフェッショナルとしてナメられないよう毅然とした態度で返すしかないですし、事務所で重要なのはやはり手元のキャッシュなので。。。立替払い辛い。。。

また、最近はVCも知財に関して重要視していますし、CVCや事業会社は、否応なくプロダクトについての知財についてはチェックしてきます。なので、スタートアップ側としても、資金調達時において、知財にどのくらい投資するかということを投資家に説明してもらうことも大事ですし、その分のお金を投資家に出させることも、これからは当然になっていくかなーと思います。

そして、何より経営者とお話をする機会が多い。よくスタートアップで注目されている起業家の方と打ち合わせをすることもあります。すごい緊張します。毎回胃が痛くなることも。。。そして頭の回転がとても早い方が多い。知財の制度やテクニックについても、スッと理解される方が多いです。そして、彼らのやろうとする事業に沿った発明であるか、社会的な課題を解決する発明であるかを見抜く力も凄まじいです。めちゃくちゃ毎回勉強させてもろてます。

一方で、やはり知財に関する情報の非対称性が、特に大企業との協業の場面で不利に働くことも多いです。最近公正取引委員会からも大企業等に対する警鐘が鳴らされたばかりですが、共同開発の成果物について知財を横取りされたり、優位的な立場を利用した排他的なライセンスを無理やり結ばされたりなどなど。。。表に出てこないだけで、割と頻繁にそのような話が出てきます。なので、知財の重要性、取扱い方についてスタートアップに対して啓蒙していくことも、弁理士としてとても重要な役割と考えています。

知財キャリアのひとつの選択肢として

とかなんとかワーワー言うてきましたが、ざっくり言うと、スタートアップの知財の未来は間違いなく明るいです

最近は特にレイター(上場直前くらい)のステージで知財担当者を募集するスタートアップも増えています。IPOを見据えた上で、事業継続性を担保するため、他社の権利を侵害していないことを表明するために、必要な人材と認識されているのかなーと思います。普段は特許事務所で弁理士として勤務しつつ、副業としてスタートアップの知財部門の業務を行っている人も増えていると思います。

スタートアップで求められる人材として知財の専門家の領域はようやく少しずつ開けてきたかな・・・というのが今の状況だと思います。

スタートアップの支援で求められるスキルについては、いわゆる知財部業務的なスキルと、特許事務所的なスキルとの両立が必要だと考えています。もちろんその2つのいずれかでも良いのですが、その場合だとある程度プロフェッショナルとして十分な質を担保していることが好ましいです(完全に上から目線です)。

そして何よりも重要だと思うのは、スタートアップへの理解とカルチャーフィット、そしてマインドセットだと思います。特許事務所はスタートアップのような成長は出来ないけれど、スタートアップを支援するからにはスタートアップを理解し、自分たちもスタートアップのように動かなければならない、というのが今のOneipのクレドの一つになっています。押し付けるものではなく、強制されるものではなく、自分からスタートアップと正面から向き合うこと、というのが必要なマインドセットなのかなーと思っています。こう書くと押し付けてる感じが出ちゃうけど。自律、コミュニケーション、セルフマネジメント。これのあるなしでは、クライアントに提供できる価値の良し悪しも変わると思います。ちなみにこういうの、スキル面よりもマインドセットとしてまともかどうかって、多分意外と特許事務所の方が、企業知財の担当者をそういう風に見ていることが多いかなと思います。あいつ期限ギリギリまで連絡してこねぇとか言うことコロコロ変わるとか。これが最初の「こんな企業知財はイヤだ」の一端でございました。

とにもかくにも、全然まとまってないし、最後なんか偉そうなことを書いてしまいましたが、とにかくスタートアップの知財を支援する仕事は、自分の仕事の幅や深さを限りなく広げること間違いなしかなーと思っています。つらいこと、報われないことも色々ありますが、必ず自分の糧として返ってきます。うん。

さいごに 組織と働き方について

一方で、スタートアップと仕事するとめちゃ大変なんじゃないの?と思われるかもしれません。大変です。休み中も連絡来ます(極力スルーするようにはしています、すみません)。

ちなみに、Oneipは、お子さんがいるスタッフ、共働きのスタッフがとても多いです。スタートアップのように働く、とか言いつつ、何よりも家族第一主義を掲げています。休みもしっかり休んでと伝えています。

私自身も子どもが3人いて、夫婦共働きで、朝と夕方の子どもの送り迎えを自分がほぼ毎日やっており、家事は料理以外ほぼ自分がやっていると宣言しても多分怒られないくらいやってます。子どもが熱を出したら仕事が手に付かないこともママあります(まさにこれ書いてる今日)。それでもなんとかやってます。また、お子さんがいない人も、ちゃんとしっかり仕事を切り上げて、自分の趣味を徹底的に楽しんでいる人が多いです。自由です。

スタートアップを支援するための組織を維持し続けるため、スタートアップに変わらぬ価値を提供し続けるためであり、そのためには、スタッフが全員持続可能的に働くことを実現しないといけないと思っています。基本的に人間は一度壊れたら再び大きな価値を提供するのは難しいので、自分にとって大事なものを守ることを第一に考えてもらっています。その一方で、自分の働き方が如何ようであっても、クライアントに提供する価値を最低限維持しなければならない。

それを可能にするのが組織のカルチャーでありクレドであると思っています。ここが、個人単体だけでの支援では実現が難しいところだと思います。個人だけだと、価値を提供し続けるために他を切り捨てなければならなかったり、バランスを取るのが難しかったり。そこで組織と個人とのあり方が重要になってくると思っています。

変わらぬ価値を提供し続ける、自分自身も大切にする、これらは二律背反ではないと思いますブチャラティも言ってた。働き方の多様性がある中で、共通のミッションを実行していくことが、なかなか自分にとっては難しいなーと思っています。自分の働き方と、組織での仕事の成果と、どう両立させていくのか?という問いに対する答えを探している状況です。

その問いに対するヒントとして一つ記事を紹介して、このAdvent Calendarのエントリを終わりにします。最後与太話で失礼しました。全然まとまってねぇな!とりあえずあとは年末を駆け抜けるだけです!!!!がんばりましょう!!!!!!!

『組織と個人の関係性』と構えるのではなく、組織も個人の集合体であることを前提に、『この人と仕事をすると、楽しい』と、思ってもらえればいいんです。垣根を考えるよりも、何の未来に対して一緒に向かおうとしているのか? 相手が描く未来に対してどう貢献することで『この人と何かしたい』と、思ってもらえるか?を考える。相手の夢の中に入ることで、結果的に自分も何かの夢を見ることができたり、自分も夢を実現できるだけの何かを得られたりする、ということの方が大事で、個人なのか会社なのかなんていうのは、なんだってよくて。お金だって後からついてくるものなんです


いいなと思ったら応援しよう!