俺は見ている
久しぶり。何年ぶりだろうか、○○君。
俺たちが卒業してもう10年も経つな。お前からしたらきっとさぞかしあっという間だったんだろうな。最近2組でクラス一緒だったAから来るdmがうざくてさ、本当困っちゃうよ。同じクラスになった時は俺のフォロリク承認してくれなかったのにさ、俺の勤め先知った瞬間に水を得た魚みたいに追いメッセージなんかしちゃって、滑稽すぎるよね。いかにもな一軍女子って感じで嫌いだったんだよ、昔から。
俺はお前を見てる。
永遠に感じる昼休み、お前が一軍の女達と一緒にクラスの陰キャに渾名をつけて遊んでたところを教室の後ろからずっと見てる。俺が放課後バスに乗って駿台に向かってた中、お前がカラオケとボウリングをハシゴしてインスタの縮小でストーリーを上げてたのを見てる。
俺はお前を見てる。
席替えでお前の後ろになった時、俺に消しゴムを拾わせてお前の瞳孔が開いたその瞬間を見てる。お前が専修大学に行ってフットサルなんて実際にゃ全くしないサークルに入ったのを見てる。2年生の時、セフレを袖にする話で後輩にイキってたよな。本当は好きだったけ真実はただ相手にされなかっただけなんだよな。
お前も俺を見てる。
成人式の後の同窓会でお前がワインを1杯飲んだだけで顔真っ赤にしてた時に目が合ったのを見てる。最近白楽に家買ったらしいな? 実家からも歩いて行ける距離だな。 名も無き丘に必死にへばりついて横浜アピールしてる家が陰湿なお前にはピッタリだよ。
今日は快晴だ。俺の気分を代弁するかのような秋晴れだ。11月の寒風も陽光の前には太刀打ちできない。せっかくだからいつもの散歩ルートから外れて後楽園まで歩いてみよう。根津のマンションから東大の前を通って文京区を縦断するのはひどく気分がいい。いつものダル着と履きなれたマーチンが今日は凛と澄んだ空によく映える。落ち葉を踏む音が今日は散歩を彩るカプリチオだ。帰ったら新しく買ったホットプレートで彼女と一緒にパエリアを作るんだ。
俺はどんな時でもお前を見てる。結婚式でタキシードを着るとき、稟議書をこねくり回して支店長からゴーサインをもらうとき、持ち家の35年ローンの審査が通り契約書にサインをするとき。
俺はどんな時でのお前を見続ける。時には監視カメラになり、また別の時には鬱陶しい蝿になり、さらに別の時には街を俯瞰するカラスになり、お前を見続ける。