読書記録
まとめて何冊か分。
①ファーストラヴ 島本理生
ストーリーが面白かった。主人公とその周囲の人々との関係性を軸に、事件についての謎解きが進行するのだが、細かい描写を交えつつ、張り巡らせた伏線をしっかりと回収していく感じ。展開そのものはそこまで予想外ではないので安心して読める。最近映画化するということで話題になっているらしい。ちらっとキャストを拝見して、主人公が北川景子さんなのは美しすぎではないかというのと(ここまで強めの美人だったらこの恋愛経験はしないと思われる。本人の自己分析の通り、そこそこ綺麗だけれど目立つ方ではなくて、あまり自分に自信がない、という雰囲気の方がよいのではないか)(そもそも三次元にこういう指摘は無粋かもしれないが)、旦那さんが窪塚洋介さんなのはビジュアル的にはハマっているけれど中身が強すぎないか、と思った。個人的には迦葉さんは自分の中のイメージにかなり近かった。しかし映画のこの宣伝の感じは割とネタバレではないだろうか。まあ映画化ってそういうものか。
個人的にはタイトルがよく分からなかった。事件解決のキーワードではあったのだが、全体を見渡すと、初恋というよりは親子間も含めた色々な愛情の形をテーマにした話と思われるので、英語にすることで無理に格好をつけているような印象を受け、タイトルだけ浮いているような感じがしてしまう。だからといって何なら良かったのか思いつかないが。
②ナラタージュ 島本理生
こちらの方がよっぽどファーストラヴ、の内容なのではないかと思う。誰にもあまり感情移入することなく読み終えた。中身は学生の恋愛という感じで、そういう点においては非常にリアリティがあるのだが、この内容に感動するのは頭の中がお花畑な学生くらいで、まともな大人は引いてしまう気がする。子どもの弱みにつけ込み搾取するだけの大人はいかがなものか。主人公はちゃんと目を覚まして幸せになって欲しいが、こういうタイプの人間は結婚しても子供が生まれてもこのような思い出を一生宝物のように引きずって、恋愛ドラマを見たり同窓会に出たりと、機会があるたび想いを再燃させるのだろうか。
③コンジュジ 木崎みつ子
芥川賞候補作。文章のタッチはコミカルで面白いが、内容がかなり重く苦しいので途中から何とも言えない感じになってくる。この文体でなかったら読み続けるのが辛かったかもしれない。強いて言うなら、主人公が辛い過去に折り合いをつけられたという点においてのみ、”現状考えられる中でのハッピーエンド”なのかもしれない。問題の悲惨さをしっかりと伝えるために、現実そのものを描いており、そのためにあまり救いがないエンドにならざるを得なかったのだと思う。
④私の男 桜庭一樹
久しぶりによかった。なぜ今更読んだのかというくらいかなり前の直木賞受賞作(とある人が熱烈に推薦していたので気になって読んだ)。映画化もされているようで(全く見ていないが)、こういった描写の優れた小説を映画化するのは、本当に難しいのではないかと思う。いや率直に言えば、この作品の映像化は不可能ではないかと思ってしまう。
子どもの弱みにつけ込み搾取するだけの大人とさっき②で書いたが、こちらの大人もなかなかである。②の作品と違うのは、主人公が一方的に搾取されている訳ではないというところである。いつかその日が来ると言っていた通りに別れたけれど、これだけお互いに絡みあうように生きてきて、二人はそれぞれこの後の人生を生きていくことができたのだろうか。”明るかった”頃の淳悟と主人公の爽やかなシーンで終わり、作中でも度々出てくるタイトルが、読後に重くのしかかってくる。生きていくために邪魔な存在を排除し、結果として異常な関係を構築してしまった二人を、誰が責められるだろうか。
作品全体に漂う耽美な雰囲気にやられてしまって、読んだ後もなんだかまだ夢を見ているような気分だったが、しばらく経ってふと冷静に振り返ってみると、反射的に嫌悪感を覚えるような内容でもある。
先ほど本作品の映像化について不可能云々と記述したが、結局のところ、作品の世界に入り込み、読み手である自分の普段の個人的な判断を一度手放して、そのまま内容を体験できる媒体が、自分にとって小説であり、映画ではないというだけなのだろう。本記事はすっかり冷静になってから内容をどうこう分析している類の記録であるが、それ以前に、読み終わって現実に戻ってくるまでに時間を要するような小説こそが、自分にとっては傑作ということになるのかもしれないし、そういった体験そのものが読書の醍醐味といえるのかもしれない。