別れたけど同棲中#8

引越しまで残すところ1週間か。
荷造りは全くといっていいほど終わっていない。
二人で買った家具も、二人で使った食器も、家電も全部がいつも通りの光景。

まだまだ現実味がなくて、ほんとに引っ越すのかな?
なんてふとした時に思うけど、本当に引っ越すんだよなぁ。
なんて自問自答を繰り返す。

昨日、久しぶりに彼に話かけた。
さすがに何も言わずに出ていくのは違うかなと思い、

「引越し先決まって、来週末に出ていくね」

と一言だけ。

「あぁ。分かった。」

と彼も一言で返した。

はぁ、4年付き合ってこんなもんなのか…なんて肩を落としたけど、別れるってこういうことだもんね。
しょーがないしょーがない。
逆に塩対応の方が嫌いになれてハッピーじゃん。
と自分に言い聞かせた。

だけどその日の夜は、今まで会話がなかったことが嘘かのように、普通に今までどうり話かけられ昔のように会話をした。
引っ越すという事が決まって、彼もなんだかホッとしたのか嫌な雰囲気が薄れたような気がした。
私も不思議と気持ちが楽になり、なんの感情もなく“ただ昔の好きだった人“という気持ちで普通の会話ができるようになっていた。

今までは、何とか関係を修復できれば。
なんて思って必死に彼に合わせてたから会話なんて面白くもなんともないし、彼にとってみたらひどいことをしても優しくしてくれる都合の良い人になっていたのかもしれないな、なんて思う。

その日の夜はご飯をつくって、たわいもない会話をして一緒にソファで映画を見た。
付き合っていた頃と同じ時間が流れた。
心の中で、もしかして今までのことは全部嘘だったんじゃないか、なんて思ったりもしたけど、自然と戻りたいとは思わなくなっていた。

なんでだろう。
自分でもなんでなのかわからない不思議な感覚だった。

人って一回嫌な経験をすると、脳裏にそのことが焼き付く。
何かあった時にふとその感覚を思い出す。
きっとこれは、その感覚に近いんだと思う。

別れ話をするときに、彼が私に言った事がある。
(浮気をした原因でもある)

「ケンカをするたびに、いやな気持だった。またか、って。きっとこの時感じた気持ちはずっと残るしこれからケンカをしないって言ってもこの感覚はきっと消えることはないと思う」

この話をされた時、私の頭の中は



だった。
嫌なら改善してケンカしないように話し合いをすれば嫌な思い出だって消えるでしょ。って。

でも今の私ならその何とも言えない感覚が分かる気がする。
自分の中に刻まれたその嫌な感覚は、一生消えることはなくてふとした時に思い出す不安要素になってしまうという事。

たとえ関係が改善されて、すごくいい雰囲気が続いたとしても少し問題が起こるといつも以上に敏感に、あのことを思い出してしまう。
そんな感じなんだと思う。

別れてよりを戻すカップルで、うまくいく勝率は全体の3%しかいないって
本で読んだことがあるけど、今なら何となくわかる気がする。
だって、お互いに嫌な事があって別れているのにその時の言葉であったり言動であったり、自分が傷ついた何かを忘れる事なんてできないんだから。

そんな気持ちの変化もあり、引越しまではお互いおだやかに暮らせそう。
なんといってもあと7日。
この不思議な感情で気持ちよく過ごせるといいな。






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