おとなしいことは悪いことなのかもしれない
周りの人に「おとなしそう」と言われることがある。そう言われるたびに心がちょっとだけきゅっとなる。
たしかに私は人見知りでコミュ障だ。でも本当は結構おしゃべりだし、人を笑わせるのが大好きだったりする。仲良くなって印象が変わったと言われがちな人間だ。
実は中学生になるまで私は自分がおとなしいと知らなかった。
厳しい中学校
通っていた小学校は田舎にしては大きい学校で、マンモス校と呼ばれ、各学年150人くらいいた。
小学生までは友達がいっぱいいて、毎日一緒に帰る子や家によく遊びに行く子、親友と呼べるような子もいて男女問わず仲良くしていた。
中学は持ち上がりで、小学生時代からほぼみんな同じメンバーだった。
話をしたことがなくてもだいたいは顔見知り。だから安心していた。
でもそれは大きな間違いだった。
入学した中学校は昔荒れていたこともあって、厳しかった。
掃除は上はセーラー服で下は体操服という変な格好で無言でおこなう。ちょと声を出すだけで周りから睨まれる。掃除が終わったあとは反省会があって、気づいたことという名の軽い悪口を言い合う。
教科書を忘れたら授業のはじめに先生に謝りに行く。教科書の角で殴る先生もいたし、立たされてクイズに答えるまで座れないという先生もいた。
朝は学校の中にいても教室の中にいても、チャイムがなった瞬間に席に座っていなければ遅刻。
校則ではないルールがたくさんあった。これが当たり前だと思っていたので、高校にはいって中学の話をすると驚かれる事が多かった。
そんな厳しい環境の中で、みんなピリピリしていたような気がする。
席ぎめでガッカリされる
中学初日に席決めがあった。
うちの中学はちょっと変わっていて、まず班のメンバーを決めてから、席を決めるという方式だった。
くじをひいてその中には班の番号が書いていて、黒板にあるひいた番号の班のところに自分の名前を書いていく。
ドキドキしていた。だがそのドキドキは嫌なドキドキに変わっていった。
私が最初に名前を書いたのだが、次に名前を書いた女の子、Kちゃんが明らかにがっかりしていたのだ。「さいあく」などと小声で言いながら名前を書いていった。
Kちゃんの事は知っていたが話したことはなかった。なぜだかわからなかった。
小さな嫌がらせが続く日々
他のメンバーも決まって、班で席に座った時もなぜかずっとKちゃんに冷たくあたられた。
いじめほどではない小さな嫌がらせ。
プリントを前からまわすときに机いっぱいにつっぷして寝たふりをされて、置く場所がなくて困ったり、話し合いをしなければならないときは話してくれなかったり。
普通に話し合いしてくれたのが1回だけ。それは参観日だった。Kちゃんは将来の夢は国家公務員と言うくらいのお勉強ができる優等生だったので、親の前ではかっこつけたかったのだろう。見たこともないやさしい顔で話しかけてくる姿が逆にこわかった。
Kちゃんはいつの間にかクラスのボスのような感じになっていた。彼女が言うことは周りに伝染していって、大小あれど他の人も徐々にそういう態度になっていった。
決定的になった宿泊訓練
中学1年生の大きなイベント、宿泊訓練。
自然の家のようなところにつれていかれて、旗あげやボートこぎをするという軍隊のような訓練だった。施設の体育館で指導者の人の話を聞いているとき、鼻をかいただけで怒鳴られたりするような場所だった。
そこでのボートこぎは、大きなボートをクラス全員でこぐというものだった。50キロくらいあるオールを2人1組で声を出しながらこぐ。中学1年生からしたらそうとうな重さだ。
それは班ごとに並びが決まっていて、Kちゃんと一緒だった。
私は運動が苦手で元々力が弱い。でも一生懸命こいだ。指の皮がむけて血が出るくらいに頑張った。
彼女はこいでいる間も「もっとちゃんとこいで!」「なんで力を出さないの!」とずっと怒っていた。
私も必死だったので、「こいでる!」と答えていたんだけど、終わったあと「あいつがぜんぜんこがなくて・・」と私に聞こえるように周りに話された。2人1組だから他の人は彼女の言葉を信じるしかない状況だった。
訓練につかれすぎたのか、そのストレスがたまったのか、私は寝ている間に大量の鼻血が出て、朝起きたらベットのシーツが血まみれだった。顔を真っ赤にしながら先生に持っていった。
この訓練以降、周りからの風あたりは更に強くなった。小学校時代に家に遊びに行くくらい仲が良かった友達に、あの頃のように話しかけて冷たかったときはかなり傷ついた。
小学校時代から顔は知っていたものの話をしたことがなかったKちゃん。
なぜこんなことをされるのか、理由がわからずにずっと悩んでいた。
助けを求めて送った手紙
悩んでいるときに1つ思い出したことがあった。
小学校時代の親友Yちゃんだ。家に何度も遊びにいくくらい仲良しで、毎日一緒に帰っていた。小学校卒業と同時に転校しちゃって離れ離れになってしまっていた。
YちゃんとKちゃんは6年生のとき同じクラスだったし、なにか答えがわかるのかもしれない!と思い手紙をかいた。
すぐに手紙の返事はきた。
どんな子だったか教えてくれるかな、わからないなら慰めてくれるのかな、そもそも久しぶりだな元気かなーなんて思いながらワクワクしながら手紙をあけた。
そこに書いてあったのは意外な言葉だった。
衝撃的すぎてそれ以外の内容は覚えていないのだけど、その1文だけはいまだに覚えている。
「あんたがおとなしいからいけないんだよ!!もっとしゃべって!!」
想像を絶する言葉が書いてあった。
そこで知った。私っておとなしいんだ。おとなしいって悪いことなんだ。おとなしいと人から冷たくされるんだ。
それを知ったと同時に親友だったYちゃんが心配でもなんでもなく、厳しい言葉を返してきたことがショックだった。
そのあと手紙をどうやって返事したのかとか全く覚えていない。
20年たったからわかること
今思えば私がおとなしそう=陰キャだろうということで最初からそういう態度だったんだと思う。中学生になると突然1軍2軍とかがはっきりしてくるから。
でも私におとなしいという自覚はなかったし、ありのままで生きていたから気づかなかった。中学生になったらそんなルールが突然できることも知らなかった。
Yちゃんの手紙は鈍感な私への優しさだったのかもしれない。
あれから20年。根本は変わっていない。
年をとるにつれておとなしそうだというだけで冷たくしてくる人なんてほとんどいなくなった。むしろそれだけで態度を変えてくる人はこっちからお断りだ。あの頃よりも少しだけ強くなった。
それでもまだ「おとなしそう」と言われると、あの頃を思い出して心がきゅっとなる。