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RZP Book Talk Vol.2 『日本の歴史をよみなおす』網野善彦 著 | 筑摩書房 刊

表層の常識ではなく、深層の本質に迫る歴史の力

 昨年の令和の発表で、面白いことに普段は売れない『万葉集』が売れたため、書店員が驚く、ということがありました。考えてみると、履歴書はもちろんのこと、彼氏彼女のアルバム、壁のひびなど―もはや本能と思えるくらいに、私達人間は何かを知ろうとする時、まずそのルーツ、つまり歴史を探ります。私たちは歴史がとても好きな生き物のようです。そして歴史には「知る・考える」の本質に迫る何かがありそうです。しかし、それが何かまで目を向ける人は少ないのではないでしょうか。

歴史とは「常識を疑い、当たり前を覆す」

 教育界のノーベル賞と言われる、グローバル・ティーチャー賞で日本人初のファイナリストになった工学院大学附属中学校・高等学校の副校長 髙橋一也さんは、RZP Book Talkで網野善彦 著『日本の歴史をよみなおす』を紹介し、歴史の本質を以下のように「常識を疑い、当たり前を覆すこと」と説明しました。

ざっくりとしか現実を見ていない私達

 「網野先生は、公文書研究が主流だった日本史研究で、民俗資料から市井の生活を調査する民俗学のフィールドワーク的な手法を導入し、上からではなく「下から」の歴史観を試みました。その業績は網野史観と言われ、日本史研究を揺るがし、学会を超えて、一般にも波及し、多くのベストセラーを出しました。しかし、当時のメインストリームの歴史学者からは「そんな歴史は有り得ない」と叩かれ続けた人でもあります。それでも網野先生は数々の著作で「常識を疑い、当たり前を覆すのが歴史」ということを伝え続けており、本書でもそのメッセージを貫ぬいています。
 私達はざっくりと物事を把握します。「若い人はこういうのが好きだ」などは典型ですが、丁寧に観ていくと場所、年齢、性別でもその中身は全然違います。本書を読むと、私たちが普段、現実を見ているようで全然見ていないのが良く分かります。」

常識とは?

 車は車道、歩行者は歩道、これは当たり前の常識です。車を運転している時、ぶつかりそうだな、と思えば避けますね。私たちは目の前の現実の変化から結果を想像できるので、最適な行動を決定できます。想像は生存に必須の能力なのです。しかし私たちの脳は変化を好まない怠け者です。未知の情報を好まず、多少の変化は既知の情報として処理することを好みます。実際、生活は似たような現実の連続です。毎回精査していたらとても回らないので、ある程度の変化は既知として認知・想像をパターン処理して済ませたいと考えます。そうやって出来た、ある社会集団の惰性的な認知と想像のパターン処理を「常識」と言います。常識は認知と想像を一括処理してくれる便利で安定したシステムなので、大抵の場合、私達は常識を支持します。特に変化の少ない社会では常識に疑義を唱える人間は減ります。しかし、常識を支持する人間ばかりになると、その社会は確実に停滞し、下手をすると崩壊します。環境変化を行動に反映させる想像力が鈍るからです。それが常識のリスクです。

なぜ、歴史は常識を疑うのか?

 ベストセラー『応仁の乱』『陰謀の中世史』で著名な日本史学者の呉座勇一氏は「歴史に学ぶな、歴史を学べ」と述べています。史実を現代人の常識や一般論で解釈するのではなく、史実を固有のものとして考証する現実主義者でなければ歴史家は小説家と見分けがつかないからです。そして歴史とは連続する時間、つまり動画です。それも最低で百年単位の長尺動画です。歴史家は編集された史実を一度「史」と「実」に切り分け、記録の断片を集め、組み直します。出来た静止画をさらに重ね、解像度の高い動画になるまで再構築を続けた時、現在と地続きでありながら私達の常識が通じない異質な過去の人間達の営みが「観える」、つまり「歴史観」を獲得します。

歴史観の価値とは?

 私達は楽しくて歴史を学びます。しかし、歴史観を獲得するまでに至ると、現在や未来を観る時にも、そのリアリズムは当たり前の常識を除去するフィルターとなり、リアルでいて異質な現在や未来を描いてくれます。だからこそ歴史家たちの語る未来は鋭く説得力を持つのではないでしょうか。

 成熟した現代社会では、目の前の当たり前や、常識を受け入れている限り、チャンスは観えてきません。なぜなら、便利になるほど、常識の惰性は強くなり、同じ行動しか取れないからです。そんな社会を変えるには、変化の兆しを捉え、常識の惰性に抗って、リアルで異質な未来を想像する力が必要だからです。

 本書は、網野氏の執念深いフィールドワークと、明晰な考察が分かりやすく展開されており、私達の「常識的」な日本人観を1枚1枚剥がし、動画として動きだすまで再構成する、歴史家の仕事を疑似体験させてくれる本です。マーケットインでもプロダクトアウトでもなくユーザーインの時代、人間の本質を見極め、ビジョンを作りたい人には是非読んで頂きたいと思います。

↓↓↓Book Talkに関心のある方はこちらからグループ参加できます。聞き専も歓迎↓↓↓

https://www.facebook.com/groups/2491804454444580

【↓↓↓今回のスピーカー髙橋一也さんの活動↓↓↓】

https://www.facebook.com/profile.php?id=4948110

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