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RZP Book Talk Vol.9 『今日の芸術』岡本太郎 著 | 光文社 刊

一億総芸術家時代の必読書

働き方改革、多様性の推進が叫ばれています。インターネットとデジタル環境の充実、様々なクラウドサービスの普及で、一様だった働き方、稼ぎ方に選択肢が生まれ、私たちは、より自由に生き方を設計できるようになりました。人間は自分の人生にコントロール感を持つとき、自我を安定させると言います。

自由で創造的なキャリアや人生が送れる―ポジティブな面が報道されがちです。しかし、私にはこの「新しい自由」はそんなに都合の良いことばかりとは思えません。なぜなら、そもそも私達は生き方の設計について、学校で教わっていませんし、親を含めほとんどの大人にとっても未知の領域だからです。自由と自己責任を前提にルールが定められ、社会が動いた時、生き方を設計できない人、設計に失敗した人が続出した後、新しい格差として、疎外を生むのではないか?この疑問の答えはまだわかりません。

近代人が陥る無力感、疎外感、自我の危機を60年以上も前に警告し、自分自身を取り戻すための芸術の実践を推奨した人がいます。岡本太郎です。

その生き方で革新的な仕事ができるのか?

Ryozan Park岡本ますみさんは、RZP Book Talkで本書を紹介し、芸術の実践、生活と芸術について次のように説明してくれました。

この本が書かれたのは1954年です。日本は高度経済成長が始まり、社会が安定する見通しがある一方で、サラリーマン的な生き方に人々が進んで順応していく、漫然とした人生やそれを許容する社会への岡本さんの警告だと思います。そして読み返してみると、コロナ後の新しい生活様式にも通ずる、時代を超える内容だと思います。

「芸術は絶対に新しくなくてはならない」、この芸術を仕事や人生と読み替え、生活と人生は絶対に新しくなくてはならない、うまくあってはならない、綺麗であってはならない、心地よくあってはならない、と読み換えた時、とても納得しました。なぜなら反意である「古い、上手い、綺麗、心地よい」というものは全て再生産されてしまうからです。

日々食べるために稼ぐ単調な生活に陥り、何かを自分で作る、新しいことをして、喜びや感動を味わうような経験をしているか?次の時代に残せるような革新的な仕事は、そんなことではできない。一粒でもいい、残せる仕事をすることが、失われた人間性を回復するための最も純粋な行為であり芸術なんだ、本書はそんな生活芸術論だと思います。

私が特に重要だと思うのは、全人格が打ち震えるような感動をしたなら、その瞬間からあなたの見る世界は色形を変える、見方が変わった瞬間に世界に疑問を呈している、精神の自由さを得る、つまり、自分を創造している、感動できるという行為自体が芸術、技術を必要としないで精神のありようで芸術を作り出している、という鑑賞芸術論です。観ることと作ることとが繋がっていること、感動できるように観察と問いかけを止めないこと、それこそが芸術の第一歩なのだと思っています。

権威主義、自己疎外を打破する

「あらゆる人間は未来に向けて社会を彫刻しうる、自らの創造性によって社会の幸福に寄与しうる」。ドイツの美術家ヨーゼフ・ボイスの提唱した概念「社会彫刻」です。近代民主主義が始まってまだ数百年ですが、私たちは一人一人が発信できるようになり、創造性によって社会を変えることができるようになっているのかもしれません。その一方で、今後はその創造性が問われていくということでもあります。

ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロムは著作『自由からの逃走』で、ナチズムを歓迎した下層中産階級の人々を分析し、その性格を「権威主義的」と名付けました。この性格の持ち主は無力感、社会からの疎外感、孤立感によって自由から逃走しやすく、自由の重荷から逃れて新しい依存と従属を求めやすくなり、「偉大なドイツ帝国と指導者ヒトラー」への献身に向かったと分析しています。

岡本太郎氏は本書で芸術の役割として「自己疎外から失われた自分を回復するもっとも純粋で、猛烈な営み」と論じています。
「今日の芸術は、うまくあってはいけない、きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」
この言葉は今や創造性を問われる全ての人間にとってかみしめるべき言葉となっています。新たな自由に戸惑う人、明日への希望と不安に逡巡する人は、是非ご自身に引き付けて読んでみてください。


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【↓↓↓今回のスピーカー岡本さんの活動↓↓↓】

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