山陰伯耆の国のフォトグラファー 【植田正治写真美術館:高松伸】 鳥取県西伯郡伯耆町
写真家単独の特別展・企画展は珍しくありませんが、写真家の名前を冠したミュージアムはそれほど多くはありません。
国内では土門拳記念館(山形県酒田市)、入江泰吉記念奈良市写真美術館(奈良県奈良市)、そしてどうにも相性の悪い植田正治写真美術館ぐらいでしょうか。
デジカメからスマホへの進化は、写真撮影のハードルを格段に低くしましたが、「あの写真は・・・」と気になった1点をデジタルの海から探し出すのはかなり大変(画像検索という方法もあるけど)。アナログ作品を収蔵するミュージアムはそうでもないとは思いますが(別の苦労はあるでしょう)、爆発的に増殖しているデジタル作品の今後はどうなのでしょうか。
今回はその相性の悪いミュージアムの記録です。相性の悪さといっても、過去に4度ほど訪れたけれども2度休館に遭遇しただけですが。
最初は今ほど情報がリアルタイムではなかった10年以上前のコト。何かの工事で休館だったようで、駐車場にいた業者さんが「今日は開いてないよー」と(今でも常に開館を確認しているワケではありませんが)。
2度目は2023年でフツーに休館日(火曜日)。時々出くわす月曜以外の休館ミュージアム。予定もカッチリ組まない上に重なったありがちな思い込み。
気軽に足を運べる環境でもないのですが、入館できなくても大山を見ていれば「まあいっかー!」と思えるのはココの持ち味かもしれません(隣にカフェスタンドもできてました)。
伯耆富士:大山
ミュージアムのある西伯郡伯耆町は、大山の西側山麓にあり、人口は10,000人。地図で確認すると美術館の北側を走る道路が米子市との境界線。
大山は伯耆富士と呼ばれますが、出雲富士という見方もあるようです(出雲というのは少しモヤモヤしますが)。中国地方の最高峰で標高1,729m。
以下は、はね返された最初のコンタクト時の大山の御姿。
西から見ると富士山的ですが、南側へ回っていくと本家富士山とは様相が変わってきます。夏は閑散としていますがゲレンデもあります。
岡山の蒜山へと向かうほどにワイルドな表情があらわに。
景色も素晴らしいのですが、気持ちよく走れるワインディング具合もまた素晴らしい。間違いなくバイクで行く方が後悔しない道。
植田正治写真美術館
植田正治写真美術館は、伯耆町の前身・岸本町に植田正治から寄贈された12,000点の作品を収蔵、展示しています。町営というところがスゴイ。
大山を望む山麓に立地し、館内からは大山を切り取るような眺めの演出が。
1995年の開館で設計は高松伸(1948- )、島根の人。近年は海外の仕事が多い方のようです。
そのファサードは入場チケットをはじめ、あちこちにアイコンとして使われています。ちなみにチケットの裏表には、建物の裏側と表側がそれぞれデザインされています。
鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3
どこかで入手していた岸本町時代のパンフ。内容がより写真美術館的な構成になってます。このミュージアムのパンフはモノクロの方が合っています。
植田正治という人
写真家の植田正治(1913-2000)は鳥取県境港の人。フランスから芸術文化勲章を授与されています。
鳥取砂丘を背景とした砂丘シリーズが知られています。被写体をオブジェのように配し演出された写真は植田調(Ueda-cho)とよばれました。被写体として奥さんやお子さんも登場します。砂丘で自転車にまたがる子供の写真はシュール(砂丘で漕ぐのはムリっぽい)。
写真作品ですが一瞬を切り取るというよりも、絵画のような作為的な印象。
ほとんどの作品は山陰(鳥取・島根)で撮影されているそうです。
積雪と日本海からの強風のイメージからでしょうか、山陰というとやや陰鬱なイメージ(ゴメンなさい)。ただそれがモノクロ写真とは相性がいいような(あくまでイメージ)。
展示室内は撮影不可。
チラシの写真(小狐登場)は国立近代美術館所蔵でした。写真だとアチコチに所蔵されているのでしょうか?
植田ワールドが展開されていた展示室。植田調をよく理解していないのに、見ていると素人目にも植田作品なのかなとふんわり理解してしまいます。
展示棟の壁がちょうど額縁のように大山を切り取るスポットが3ヶ所。天気が良ければ、撮影次第で逆さ大山を収められるようです。
最近、よく見る機会が増えたリフレクション写真。視覚的には面白い写真にはなりますが、被写体の本質はむしろボヤケる気がします。それよりも他者と同じ構図の写真にやたらと囚われるのもなんだか(SNS的ですけど)。
もともと美術館の裏手にある福岡堤は「逆さ大山」のスポットとして知られていたそうです。美術館の展示室棟間の水盤はそのオマージュでしょうか。
館内はそういう設計意図だったのかもしれませんが、おそろしく無機質な空間になっています。
大山と反対側の壁が曲面になっていますが、平面図で確認するとレンズのような形状。
エントランス裏の撮影スポット(表示あり)と同じ写真。並ぶアイコンはすべて大山側。
美術館は大山の遥拝所のようにも思えます。
館内から帽子をかぶった大山を撮影するのも一興ですが、この環境では大山は外から眺めるのが正解でしょう。その場との一体感はリアルに空気や温度を感じてこそ。