【論文】Oxetanes in Drug Discovery Campaigns
2023/9/7
・創薬(2017~2022)におけるオキセタン骨格の活用事例を紹介。
・4員複素環は、低分子量・高極性・3次元性という特徴があり、水溶性が優れている傾向もあるため、有益なモチーフであると言える。
・オキセタンが酸性条件に対して不安定というのは誤解もあり、その安定性は置換パターンによって決まることが多い。3,3-二置換が最も安定。
・オキセタンの酸素原子は、σ結合を介した電子求引性(3位)を示す。オキセタンをつけたアミンは塩基性が低下し、pKaH が 9.9 から 7.2 に低下する(つまり、塩基性が500倍ほど低下)。
・human microsomal epoxide hydrolase (mEH) によって、オキセタンが代謝される例が知られている。
・現在、7つのオキセタン含有医薬品候補が臨床試験中。Drug-likeness の基準に耐えうるモチーフだとみて良いのではないかと個人的には思う。
・オキセタン環は、リード化合物の不十分なPK特性(LogD、溶解度、クリアランス、塩基性)を改善するために、化合物探索後期に検討されることが多いらしい。オキセタン導入により塩基性が減弱、hERG阻害等が回避できて、PJの課題が解決できたのなら、たしかにインパクトは大きいと思う。
・特許のクレームにもオキセタンは積極的に含まれるようになっている傾向。むしろ、強調されるケースも。
・カルボニル基の Bioisostere としての利用は限定的。理由は、3,3-二置換の合成法が限られているからとの指摘。非常に簡便な合成法が開拓されれば、生物学的等価体としての利用が拡大する可能性はあるのかも。
・最も多用されたオキセタンは、3-アミノ-オキセタン(37)で、縮合、還元的アミノ化、SNArの基質として使用されている。これに続くのがオキセタン-3-オン(21)で、還元的アミノ化反応や、置換オキセタノールを得るために、有機金属カルボニル付加反応に活用されている。その他、人気があるのは、求核置換反応のために3位に脱離基を持つオキセタンと、しばしば求核剤として使用されるオキセタン-3-オール。妥当な傾向で、まぁその辺だよね~という印象。
・オキセタンの潜在的利点
①電子求引性効果の有効活用
②立体的要因の有効活用(溶解性向上、配座固定用途など)
③導入しても分子量や脂溶性がそこまで大きく変化しない
④カルボニル基の生物学的等価体としての価値
⑤知財の観点でもメリットがありえる
⑥CYP代わりにmEHに代謝される薬物をデザインできる可能性
・難しい点
①簡便な合成法が少なく、Diversity Synthesis も適用しづらい。合成が直線的になり、複数の類縁体を並列的に作りづらい(末端に入れるのは簡単だが)。ただ、本文中にも記載があるように、有用な試薬がいくつか開拓されているので、ちょっと試してみたいところ。結局のところ、実用的な有機反応の開拓にかかっている気がする。
②なんだかんだ言って、構造安定性に対する懸念が払しょくしきれない。分子内に求核性部位を持つ3,3-ジ置換オキセタンの場合、酸性条件下で容易に開環するらしい。
③プロセススケールのオキセタン合成に関するデータがほとんどなく、反応器内の局所的ホットスポットにおいて、オキセタンがどの程度安定なのかは不明。フロー合成とかでやれば良い気もするが。
※最後に著者のコメント
『完全に合成されたオキセタン含有薬が市販されていないにもかかわらず、臨床候補化合物、治験薬、論文にオキセタンが登場する機会が増えている。オキセタンが近い将来、市販薬の主流になることは間違いない。』
フッ素、重水素、ホウ素などが典型ですが、一般化すれば「導入して当たり前」「検討して当たり前」になるのが、ドラッグデザインの世界な気もします。安全性や安定性については慎重な判断が必要ですが、バイアスを排した取り組みを続けていきたいですね。