死ぬのが怖い人へ (4)
死の問題に取り組み、浄土真宗の妙好人に希望を見出だした私は、お寺や浄土真宗の集まりに顔を出すようになりました(※第3話を参照)。
浄土真宗にも注意すべき団体がある
今回は私が浄土真宗について情報を集めていった際に出会った、危ない団体について説明します。
浄土真宗といえば伝統的な仏教宗派の1つです。禅宗・天台宗・華厳宗など・・・日本に古くから根付いている宗派がいくつかあります。
「伝統的な仏教なのだから危険なことはないだろう」と思う人もいるかもしれません。
たしかに浄土真宗の教義自体は、べつに危険なものではありません。むしろ魅力的な教えであり、多くの小説家・思想家・哲学者が浄土真宗をとりあげてきました。
(※教義の内容については後のページで詳しく説明します)
しかし魅力があるということは、それを利用する人が出た場合、危険なものとなり得ます。
私が大学時代に出会った団体・親鸞会は、典型的な注意すべき集まりでした。
浄土真宗親鸞会 wikipediaページ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%84%E5%9C%9F%E7%9C%9F%E5%AE%97%E8%A6%AA%E9%B8%9E%E4%BC%9A
ブラジルで配布されている親鸞会のものと思われるチラシ。
ただし「浄土真宗親鸞会」の文字はどこにも書かれていない。
魅力的だが気をつけるべき親鸞会
大学に入ってから、私は哲学サークルに勧誘されました。大学の構内で、学生と思われる2人組みの男性が、
「人生の目的が分かるよ。ちょっと話を聞いてみないか?」
と声をかけてきたのです。
この時点では、サークルが浄土真宗の集まりだとは分かりませんでした。これが親鸞会の学生部だと判明するのは、数ヶ月も先のこと。つまり偽装勧誘だったわけです。
私は当然「怪しい団体かもしれない」と警戒しましたが、死の問題を解決するヒントが1つでも得られるならばと、彼らについていきました。
大学から少し離れたマンションに部室があり、そこで週に何回か話を聞くようになりました。大学の授業が終わったら部室に行って、大学OBだという年上の男性たちから哲学・文学・宗教について講義を受けました。後で分かったことですが、大学OBと名乗っていた人々は親鸞会の講師たちでした。
部室には私と同じように勧誘された大学生たちがいました。基本的にマジメで、人生の目的を達成するんだという意欲のある学生たちでした。
親鸞会の勧誘では「人生の目的」「なぜ生きるのか」「人生の大勝利者になれる」「絶対の幸福」といった魅力的なキーワードが使われます。
受験勉強でがんばり、大学に合格して、一時的に目標を失って、燃え尽き症候群のようになっている学生も多いもの。そこへ「人生の目的がある」といって、有名な哲学者や文学者の言葉を並べて説得され、興味を持ってしまう学生がたくさんいました。
そんな中で私は、死の問題を解決するための情報収集に来ていただけなので、けっこう浮いている存在だったと思います。
私は浄土真宗や妙好人についての情報を得たかったわけですが、最も目指していたのは獲信者に会うことでした。親鸞会は獲信することをスローガンに掲げている団体だったので、会員の中に獲信者がいるかもしれないと考えていました。
しかし・・・実際には「たしかにこの人は獲信者だろう」と信頼できる人物には会えませんでした。
そしてしばらく在籍していると「大導師試験を受けないか」と言われるようになりました。大導師(だいどうし)というのは仰々しい名前ですが、これは浄土真宗の教義を勉強し、テストに合格すると与えられる称号です。大導師になった人は、教学講義という特別講義を受けられるそうですが、この勉強が難しい。かなりの量の仏教用語を丸暗記しないといけないのです・・・私は全くやる気が出ませんでした。
なぜなら妙好人には知能指数が低いと思われる人もいたし、浄土真宗は「頭の良い者から先に救います」という教えではないはずだからです。まあ怪しい団体だなあとは感じていたので、浄土真宗についての情報を取ったら退会しよう、と考えていました。
サークルに通っていた学生の中で、特に熱意がある人々は、親鸞会の講師(布教者)になることを目指すようになりました。なぜならそれが獲信への近道だと教えられたからです。講師になった人々は、みな尋常ではない努力家でした。しかし私は凡人です。非凡な努力ができる講師にはなれません。
それに何よりいくつもの違和感がありました。
そうやって努力ができる講師ですら、獲信している人がいないということ。何十年も人生を捧げているマジメな講師すら、まだ獲信していないという話でした。では、もし私が講師になったとしても、獲信する前に死んでしまう可能性の方が高いのでは・・・。
そして親鸞会の会長は、若いときに獲信したといわれていました。ならば若くして獲信することも可能なはず。なのに若くして獲信した会員はいないようだし、会長が誰を師として獲信したのか明らかにされないのもおかしい。あの会長は本当に獲信しているんだろうか? という疑問が浮かびました。
講師たちは会長に従順で「会長先生だけが獲信した善知識(仏教の正しい先生)なのだ」と連呼していました。しかし日本には約5万人もの浄土真宗の僧侶がいるといわれます。なぜ会長だけが獲信していると言い切れるのか? 浄土真宗の全ての僧侶に会ったわけでもあるまいし・・・。
ところで室町時代に浄土真宗を全国に広め、すばらしい力量を発揮した僧侶がいます。名前を蓮如(れんにょ)といって「中興の祖(ちゅうこうのそ)」とたたえられ、浄土真宗界で高く評価されています。
蓮如(1415~1499年)
これについて親鸞会では、会長をあがめる会員は多く「会長先生は蓮如上人以来の500年ぶりの大善知識だ」とまでいう講師もいました。そして何か疑問に思うようなことがあっても「会長先生の深いみ心だから・・・」で済ませてしまう。そんな人々を見てそれは思考停止ではないか? と私は考えていました。
あとはお金・時間・労働力を提供させられるような仕組みも非人道的だと感じたし、親鸞会の本やアニメビデオを売って布教せよ、というのも変でした。親鸞だって、師匠である法然の本を売って歩いたりしていません。
そもそもまだ獲信もしていないのに、その会の教えが正しいかどうか、判断できるわけがない。布教するとしたら、まず自分が獲信してからでしょう。
ざっと考えただけでも違和感だらけでした。
そのため親鸞会の活動に真剣になる気が起こるわけもなくて、特別販売していた書籍やビデオなどを入手し、取れるだけの情報を取った私は、さっさと退会しました。
なぜ私は親鸞会を退会できたのか?
同じ時期にサークルに参加していた大学生は、性格の良い人ばかりでしたし、講師や先輩もマジメ。
中には、いまだに親鸞会の活動を続けている人もいます。エリートコースといわれた講師になって、親鸞会のホームページに笑顔の写真を掲載されている人もいます。
マジメだったはずの彼らが、いつの間にか偽装勧誘の片棒をかついでいる・・・これは悲劇以外の何ものでもありません。以下のようにメディアで取り上げられるまでになりました。
寄せ集め「希望の党」 偽装勧誘で有名な宗教幹部まで擁立(日刊ゲンダイ)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/215024
ですが私は、親鸞会に対して眉にツバをつけながら付き合っていました。
前述したように違和感が満載だったからです。
ただし退会できない人の気持ちも分かります。
なぜなら親鸞会のように獲信を最も重要視するというのは、浄土真宗の教義に沿っています。つまりその部分だけみれば正しいのです。しかも本家である西本願寺・東本願寺などの伝統教団は、時代の流れもあって、ほとんど獲信について強調しないようになってしまっています。そこに親鸞会がスルリと入り込み、伝統教団を批判しました。昔から真宗王国といわれ浄土真宗の伝統が根付いていた北陸ですら、獲信をスローガンに掲げる親鸞会は人々の信用を得て、どんどん勢力を伸ばしたのです。
浄土真宗では間違った信仰として無帰命安心(むきみょうあんじん)と呼ばれるものがあります。これは獲信しなくても救われるという考えで、明らかな間違いとされています。こういった間違いを異安心(いあんじん)と呼びますが、親鸞会はいくつかの異安心を批判し「自分たちこそ正統な浄土真宗を教える団体だ」と主張しています。確かに無帰命安心は間違いなので、これもその部分だけみれば正しいのです。
また第3話で書いたように、会の書籍には浄土真宗の本質をあらわした名文がいくつかあり、いくら親鸞会がお金集めをくり返しても「この会こそ真実の集まりだ」と思わせるだけのものがあったからです。
ただし本当のところは、その書籍の名文は、会長が自分の頭を使って書いたものとは言い切れません。他の優れた僧侶や作家の文章を模倣したものだったようです。(以下のページに詳しく書いてあります)
高森顕徹著「光に向かって100の花束」は大沼法龍の著作の...
http://sayonara1929.txt-nifty.com/blog/2007/08/100_80e4.html
私の白道4
https://byakudo.exblog.jp/8191390/
高森顕徹会長(浄土真宗親鸞会)の著書「白道燃ゆ」(女の業界)が吉行淳之介著「女の決闘」そのまま...
https://shinrankaidakkai.hatenablog.com/entry/2012/11/05/174851
大沼は三願転入を根基として布教している居るのだ 飛雲
http://hiun.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-aeff.html
私はそのことに当初から感づいており、親鸞会の書籍を読みながらなぜ明らかに作者の違う文章が混ざっているんだろうか? と不思議に思っていました。しかもその文章が素晴らしい出来だったのです。平凡な文章の中に、急に名文が出てくる・・・親鸞会以外のどこかにこの名文を書いた人物がいる、と私は考えました。
ですが他の会員は、その名文も会長先生が書いたものだと信じて疑っていないようでした。
また会の活動は厳しく、何度も財施するよう呼びかけられます。家庭不和に陥ったり、何千万円も寄付した人たちがいます。私からするとドン引きというか、そこまでしても獲信できないことになぜ疑問を抱かないのか? と思っていました。
そのような温度差がさらに私の熱を下げ、冷静に考えられるようになりました。
マジメな会員ほど会の言うことを鵜呑みにしており、まるで親鸞会に脳みそを預けてしまっているように感じたのです。これでは精神的な依存と変わらないのではと思いました。
私は親鸞会に対して、とくに恨みなどは抱いていません。偽装勧誘は社会的に悪いことですが、そういう反社会的な団体はいくらでもあります。注意すべき団体だろうと念頭に置きながら、情報収集のために自ら会に顔を出していたわけです。その結果、欲しい情報を得ることができ、私は退会しました。
私が退会できたのは、受け身で相手の言うことを信じるのではなく、「本当かなあ?」という問いを何度もくり返し、自分の中の違和感にウソをつかなかったからだと思います。
後年、インターネットで親鸞会について調べたり、他の退会者の話を聞いてみて、自分の直感が正しかったことを確かめることができました。
親鸞会の勧誘の特徴
読者の方に注意喚起として、親鸞会の特徴をまとめておきます。
一言で言えば、
心理学・哲学・仏教・人生の目的などで興味を引く
↓
信用を得たところで親鸞会に誘導する
というものです。
これはセミナーからウェブサイトまで共通です。最初から「浄土真宗親鸞会です」と名乗ることは基本的にありません。
つまり、一見すると関係の無さそうな心理学などのサイト・本・セミナーが、実は親鸞会への入り口だった、という場合があるのです。
ネットで具体例を見てみましょう。
■仏教ウェブサイト
親鸞会関係のサイトはググればいくらでも出てきます。
以下は親鸞会の関連会社が作った立派なもの。
https://1kara.tulip-k.jp/wakaru/201104329.html
こちらは講師が自分で作ったと思われるもの。
http://正信偈.com/profile.html
のぞいてみると分かりますが、どちらも最後に無料メール講座のオファーがあるのが特徴です。※くれぐれも入会しないようお気をつけ下さい。
■ツイッターのアカウント
またツイッターのアカウントも、一見して関係のなさそうなものが、親鸞会への入り口になっています。
・心が穏やかになる読み物 https://twitter.com/tulip_odayaka
・くもりのち晴れめでぃあ https://twitter.com/hare_media
・とどろき|お釈迦さまの教え https://twitter.com/tulip_k_staff
■出版物
親鸞会につながる出版物として有名なものは、ベストセラー本『子育てハッピーアドバイス』があります。出版元は親鸞会関係の1万年堂で『歎異抄をひらく』なども出版しています。お気をつけ下さい。
・子育てハッピーアドバイス https://twitter.com/happyadvice
・1万年堂出版 https://twitter.com/10000nen
親鸞会についての参考サイト
最後に参考になるサイトを挙げておきます。
主に退会者が作成した親鸞会についてのサイト群です。
・浄土真宗親鸞会被害 家族の会
http://higai-kazoku.news.coocan.jp/
親鸞会の被害家族による相談窓口。脱会者向けの情報提供など。
・偽装勧誘が多発!宗教団体「親鸞会」とは? NAVERまとめ
https://matome.naver.jp/odai/2144672688886930601
・親鸞会を脱会した人(したい人)へ
https://shinrankaidakkai.hatenablog.com/
親鸞会とその教義の問題について書かれたブログ。
・飛雲 ~親鸞会の邪義を通して~
http://hiun.cocolog-nifty.com/
元会員が浄土真宗の正統な教義を調べ、親鸞会の問題点を指摘したブログ。非常に正確な教義理解がしてあり、徹底的に親鸞会の教えの間違いを追及している。
親鸞会を退会しようとする人は引き留められることが多いが、このブログを根拠にして教義の矛盾を質問すると、引き留め側もあきらめるといわれている。
他にもある、怪しい集まりのうわさ
私が聞いたうわさでは、30万円払えば獲信させてくれる団体とか、古くから伝わる秘密の儀式で獲信させてくれる集まりなど、怪しいものがいくつかあります。
獲信にあこがれる人は、そういうものに引っかかるかもしれません。
しかし浄土真宗の教義から考えれば、そういう教えはおかしいのです。なぜなら、人間の力で獲信させることは不可能、つまり人為的に獲信させることは不可能だと説かれているからです。獲信は他力(阿弥陀仏の力)によるものです。
このあたりは教義の話になるので後のページでまた説明しますが・・・要は「教義から逸脱したことを主張する団体は注意すべき」ということです。
浄土真宗に興味をもった人は、そういった団体には十分に気をつける必要があります。
私が浄土真宗について情報収集していた頃と違って、現在はインターネット上の情報が充実しています。ウソがバレるというネット時代の特徴もあって、検索すればたいていのことが分かります。
浄土真宗の団体と関わる場合は、まずネットで評判を調べることをおすすめします。
では引き続き、親鸞会を退会した私が、どのように死の問題に取り組んだかについて書いていきます。
(次回へ続きます。興味がある人、続きを読みたい人、新興宗教の被害を減らしたいという方はシェア・ツイートしてくださるとありがたいです)
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