見出し画像

【浄土真宗の言葉】#73 この行(大行)はすなはちこれもろもろの善法を摂し、もろもろの徳本を具せり

この行(大行)はすなはちこれもろもろの善法を摂し、もろもろの徳本を具せり
 
 
 
【解説】
 
今回は「他力の称名念仏は、あらゆる善行・功徳のもとをそなえている」という内容です。
 
この文の後には、
 
「極速円満す、真如一実の功徳宝海なり。ゆゑに大行と名づく」
 
と続きます。
 
称名念仏に対する賛辞が惜しみなく記されているんですね。
 
 
ところで念仏といえば、他の行をせずに念仏ひとつをおこなうことを「専修念仏」といいます。
 
そして本願寺はもともと、覚如上人の頃に「専修寺」という寺額を掲げようとしていました。
 
また親鸞聖人の肖像画には、数珠で念仏の数をかぞえておられるものもあります。
 
つまり浄土真宗とは、念仏ばかりとなえる宗派だということです。
 
 
しかし現在はどうでしょうか?
 
念仏ばかりとなえているお同行は、どれくらい見当たるでしょう。
 
念仏ばかりしていたために「念仏蟹」と呼ばれた妙好人のような人々は、今はどこにいるのでしょうか。
 
 
念仏の声が少なくなっているという問題は、他力の念仏によって往生する浄土真宗において、根幹に関わってくるものです。
 
そしてこれは、蓮如上人の影響を強く受ける東西本願寺において特に顕著だと考えられます。
 
 
蓮如上人といえば、
 
「ただ口にだにも南無阿弥陀仏ととなふれば、たすかるやうにみな人のおもへり。それはおぼつかなきことなり」
(口に南無阿弥陀仏と言っているだけでは往生はおぼつかない)
 
は、信心なき念仏を誡める言葉として有名です。
 
  
さらに御文章で
 
「信心治定してののちには、自身の往生極楽のためとこころえて念仏申し候ふべきか、また仏恩報謝のためとこころうべきや」
(信心獲得した後には、自分の極楽往生のためとして念仏するべきか、それとも仏恩報謝のためとして念仏するべきか)
 
という問いに対して
 
「一念の信心発得以後の念仏をば、自身往生の業とはおもふべからず、ただひとへに仏恩報謝のためとこころえらるべきものなり」
(信心獲得した後の念仏は、自分の極楽往生のための行業ではなく、ただ仏恩報謝のためと心得なさい)
 
と答えておられます。
 
 
しかしこれは実は、大きな誤解を招く表現です。
 
なぜかというと、大行(他力の念仏)というのは衆生を極楽往生させる行業であると、親鸞聖人は教行信証の行巻でくわしく記しておられるからです。
 
それを蓮如上人が「信心獲得した後の念仏は、自分の極楽往生のための行業ではなく、ただ仏恩報謝のためと心得なさい」と、一見すると違うように思えることを説いておられます。
 
ここで蓮如上人が強調しておられるのは、報恩としての称名念仏です。
 
たしかに親鸞聖人も、報恩としての念仏は示されています。
 
しかし蓮如上人のように「自分の極楽往生のための行業ではなく」とまで大胆な表現ではありません。
 
ではなぜ蓮如上人はこのような説き方をされたのでしょうか。
 
 
蓮如上人の当時、すでに称名念仏は広く普及していました。
 
ですが呪術的な念仏だったり、もしくは「念仏すれば極楽に往生できる」というだけの説かれ方をしていたんですね。
 
もし「念仏すれば極楽に往生できる」というだけでは、それが他力念仏なのか自力念仏なのか、つまり本願疑惑心が除かれたのかどうかが問題にされません。信疑決判が抜けてしまうわけです。
 
では、どうすれば正しく他力念仏(他力信心)によって極楽往生できるのだと示すことができるのか?
 
それが「獲信後の報恩念仏」だったのです。
 
信心獲得して阿弥陀仏の恩を知る身になってからする念仏・・・それが報恩念仏です。
 
そのようにして「報恩の念仏があるぞ」といえば、他力信心を獲得する必要性を知らしめることができます。
 
 
確かに当時の状況においては、報恩の念仏を強調することによって、他力信心の必要性を示すことができたでしょう。
 
ですが現在はどうでしょうか。
 
現在、とくに本願寺においては、「信心正因・称名報恩」という教えはたいへん有名なものとなっています。
 
にもかかわらず、念仏の声は年々少なくなっているのが現状です。
 
これは称名報恩が強調されるあまり、もともと称名念仏において説かれていた「極楽往生のための行業としての称名念仏」という部分が、見落とされるようになったからです。
 
念仏というのはお礼(報恩)なのだから、まあとなえてもとなえなくてもよいだろう、という。
 
 
しかし親鸞聖人は『御消息』にて
 
「念仏往生とふかく信じて、しかも名号をとなへんずるは、疑なき報土の往生にてあるべく候ふなり」
(念仏となえる者が極楽往生すると疑い無く信じ、念仏をとなえる衆生は、必ず極楽浄土に往生するのだ)
 
と説かれました。
  
つまり「称名念仏=自分の極楽往生のための行業」ということであり、それに対して疑い無く念仏となえる者が極楽往生するわけです。
 
蓮如上人は称名報恩を強調するあまり、「自分の極楽往生のための行業」まで否定するかのような表現もとられました。
 
ただしそんな蓮如上人であっても、
 
「南無阿弥陀仏と申す文字は、その数わづかに六字なれば、さのみ功能のあるべきともおぼえざるに、この六字の名号のうちには無上甚深の功徳利益の広大なること、さらにそのきはまりなきものなり」
 
とも説いておられます。
 
南無阿弥陀仏を口にするだけでこの上ない功徳がある(極楽に往生する)、ということです。
 
これは当たり前の話で、衆生を極楽に往生させるのが念仏であり、それに対する疑い(本願疑惑心=疑蓋)が除かれたかどうかが問題なのです。
 
「念仏となえる者は極楽往生する」・・・この念仏の力を頼りにせず、念仏に対する疑いあるままでとなえるのが自力念仏だということになります。
 
 
このように「信心正因・称名報恩」という分かりやすい方程式を原理化してしまうと、正定業としての称名念仏が見えなくなる場合があります。
 
結果として、念仏の声が少なくなるという本末転倒に陥ってしまう。
 
 
近年では「すべての念仏は報恩である」といった、往相回向の大行をまるごと無視したような極論も散見されるようになりました。
 
このような教義理解の混乱を修正することは、未来の子供たちに本来の浄土真宗のすがたを伝える一助となるのではないでしょうか。
 
 
 
WikiArc 大行名体
http://labo.wikidharma.org/index.php/大行名体
 
 
御文章 自問自答の章
http://labo.wikidharma.org/index.php/御文章_(一帖)#.E8.87.AA.E5.95.8F.E8.87.AA.E7.AD.94
 
 
行 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/行
 
 
大行 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/大行
 
 
徳本 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/徳本
 
 
他力 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/他力
 
 
称名 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/称名
 
 
念仏 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/念仏
 
 
功徳 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/功徳
 
 
極速円満 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/極速円満
 
 
真如一実の WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/真如一実の
 
 
専修念仏 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/専修念仏
 
 
専修 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/専修
 
 
本願寺 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/本願寺
 
 
かくにょ 覚如上人 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/かくにょ
 
 
親鸞聖人 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/親鸞
 
 
数珠 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/珠数
 
 
浄土真宗 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/浄土真宗
 
 
同行 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/同行
 
 
妙好人 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/妙好人
 
 
おうじょう 往生 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/おうじょう
 
 
蓮如上人 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/蓮如
 
 
南無阿弥陀仏 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/南無阿弥陀仏
 
 
信心 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/信心
 
 
御文章 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/御文章
 
 
治定 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/治定
 
 
極楽 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/極楽
 
 
恩 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/恩
 
 
獲得 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/獲得
 
 
いちねん 一念 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/いちねん
 
 
信心発得 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/信心発得
 
 
業 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/業
 
 
行業 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/行業
 
 
衆生 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/衆生
 
 
顕浄土真実教行証文類 教行信証 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/顕浄土真実教行証文類
 
 
自力 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/自力
 
 
自力念仏 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/自力念仏
 
 
疑蓋 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/疑蓋
 
 
安心論題/信疑決判 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/安心論題/信疑決判
 
 
あみだぶつ 阿弥陀仏 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/あみだぶつ
 
 
信心正因 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/信心正因
 
 
安心論題/信心正因 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/安心論題/信心正因
 
 
称名報恩 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/称名報恩
 
 
安心論題/称名報恩 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/安心論題/称名報恩
 
 
親鸞聖人御消息 御消息 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/親鸞聖人御消息
 
 
念仏往生 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/念仏往生
 
 
名号 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/名号
 
 
疑 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/疑
 
 
報土 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/報土
 
 
功能 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/功能
 
 
功徳 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/功徳
 
 
利益 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/利益
 
 
正定業 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/正定業
 
 
往相回向 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/往相回向
 
 
浄土真宗聖典目次 WikiArc
http://labo.wikidharma.org/index.php/WikiArc:浄土真宗聖典目次
 
 
 
【今回の読み仮名】
 
行‐ぎょう
大行‐だいぎょう
善法‐ぜんぼう
徳本‐とくほん
他力‐たりき
称名‐しょうみょう
念仏‐ねんぶつ
善行‐ぜんぎょう
功徳‐くどく
極速円満‐ごくそくえんまん
真如一実‐しんにょいちじつ
功徳宝海‐くどくほうかい
専修念仏‐せんじゅねんぶつ
本願寺‐ほんがんじ
覚如上人‐かくにょしょうにん
親鸞聖人‐しんらんしょうにん
数珠‐じゅず
浄土真宗‐じょうどしんしゅう
同行‐どうぎょう
妙好人‐みょうこうにん
往生‐おうじょう
蓮如上人‐れんにょしょうにん
南無阿弥陀仏‐なむあみだぶつ
信心‐しんじん
御文章‐ごぶんしょう
信心治定‐しんじんじじょう
極楽‐ごくらく
仏恩報謝‐ぶっとんほうしゃ
信心獲得‐しんじんぎゃくとく
一念‐いちねん
信心発得‐しんじんほっとく
業‐ごう
行業‐ぎょうごう
衆生‐しゅじょう
教行信証‐きょうぎょうしんしょう
報恩‐ほうおん
自力‐じりき
本願疑惑心‐ほんがんぎわくしん
疑蓋‐ぎがい
信疑決判‐しんぎけっぱん
獲信‐ぎゃくしん
阿弥陀仏‐あみだぶつ
信心正因・称名報恩‐しんじんしょういん・しょうみょうほうおん
御消息‐ごしょうそく
念仏往生‐ねんぶつおうじょう
名号‐みょうごう
疑‐ぎ
報土‐ほうど
功能‐くのう
無上甚深‐むじょうじんじん
功徳利益‐くどくりやく
正定業‐しょうじょうごう
往相回向‐おうそうえこう
 
 
 
 * * * * * * * * * * * * * * * *   
よろしければ投稿をシェアして頂けると有り難いです。
 * * * * * * * * * * * * * * * * 
 
 
【過去投稿のアーカイブ】
 
こちらで過去の投稿(1、信疑決判 ~ 15、聖人一流の教え)をお読みになれます。
amidabuddha18.com/kotoba-archive/
 
 
 
【聞法している方へ、ご案内】
 
・『ゼロからわかる浄土真宗』
浄土真宗が基礎からわかるホームページです。
http://amidabuddha18.com/
 
 
・note『死ぬのが怖い人へ』
私の聞法の記録です。
https://note.com/ryuun18/m/mdef818dfed16
 
 
・「南無阿弥陀仏」の文字が入ったスマホ用壁紙を作りました。
縦横比は以下の2種類。
・2対1 (iPhone11/11Pro/11Pro Max, iPhone XS/XS MAXなど)
・16対9 (iPhone5/6/7/8, Androidなど)
色はウェブサイトでよく使われる12種類。
こちらでダウンロードできます。
http://amidabuddha18.com/kabegami/
 
 
・安心論題の話
http://labo.wikidharma.org/index.php/安心論題の話
 
 
・光雲な毎日(立読みページ)
http://koun18book1.blogspot.com/
 
 
・note『信心獲得したい方へ(浄土真宗の救い)』
信心に悩んでいる方は、こちらのページがおすすめです。
https://note.com/koun18/n/ndbc737a85fa4
 
 
 
南無阿弥陀仏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?